会議 1
「王子王女全員?」
「はい、ブラスタ殿下より特に要望がありまして」
侍従長はエレクトラにそう答えた後、声を潜めた。
「……おそらくはレイザー殿下の、継承権に関する事かと」
面会謝絶の状態が続くレイザー。回復は見込めない。
ならばレイザーの継承権失効の動議をはかるつもりなのだ、ブラスタは。
(兄上の継承権についてはいつ失効になっても差し支え無いけれど……早いわ)
クリスタが死んだばかりだ。立て続けに継承権を持つ者を減らそうというのは、国内外ともに体裁が悪い。
しかもレイザーは長子、王太子候補である。
「父上……陛下はご出席なさるのかしら?」
「それが……度重なる不幸で床に伏しておられまして、難しいかと」
「そう……」
言い訳だろう、エレクトラには解っていた。父王は自らの子等に無関心なのだ。
侍従長と別れ、自室に戻ったエレクトラはブラスタの思惑を推理した。
元々明日の会議はクリスタ殺害に対する調査報告と国内外への対応策の協議である。
(兄上の継承権失効はおまけの話……だけれど)
ブラスタは強引に話を持っていくだろう。なにしろ自分が継承権第一位になるのだから。
そしてこの議題はすぐに済む。
会議が終わった後、ブラスタは欠席した父王に面会しレイザーの継承権失効を願う。
(……そのついでに自分の王太子も願う、かしら?)
クリスタが死んだばかりでは『立太子の儀式』は無理ではなかろうか?
「クリスタの……死?」
ブラスタは最近ブライア王国と接近していると聞いた。
「そう……なるほどね」
一国の弔事につけ込むのは禁忌。ならばブライア軍は大規模な軍事行動が出来無い。
クリスタの喪が明けるまでに、何が起こるかと謂えば……
……ブラスタの暗殺。
(私にその気は無いけれど、ブラスタはそう考える)
エレクトラは知らず知らずのうちに笑っていた。
笑い声は始め小さく、次第に大きくなり、腹をよじって長椅子の上で笑い転げる。
「ば、馬鹿な子……貴方になんか使うものですか……貴重なのよあの毒!」
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「それでは皆様揃われましたので、会議を始めさせていただきます」
侍従長の声にざわめきが消えていく。
会議の席にはエーベル、アーダンの他重鎮達、エレクトラ、ブラスタ、ジャスパー、更に継承権は未だ無いフローラと王子王女が顔を並べている。
ハイダル王、レイザー、そしてルチルの席は空いていた。
「では始めに」
「遅くなりまして申し訳ございません!さ、ルチル様、お席につきましょうね」
ルチルの手をひいた侍女が慌ただしく入室してきた。
ほとんどの出席者が眉をしかめる。
『何をしに来た?』
『何で連れて来た?』
彼等の顔にはそう書いてあった。
予期せぬ出席者に一堂が静まりかえる。
カラ、コロ……
ルチルが口をもぐもぐさせるたび、妙な音が微かに響いた。