ルチル
クリスタの葬儀が終わり、兄弟姉妹や重鎮など参列者が霊廟を後にすると、残ったのはルチルただ一人。
ガラス蓋の下、花に埋もれたクリスタを覗き込む様にしていたルチルは、クリスタの顔を見るのに飽きたのか石棺の縁に腰をおろした。
カラコロとルチルの口許から音が微かに聴こえる。飴玉でも口に入っているのか。
「……チルさまぁ!ルチルさまぁ!」
ルチル付きの侍女が呼ぶ声が聴こえてくる。その声が近付いてきてもルチルは石棺に座っていた。
「あぁ、ルチル様、こちらにお出ででしたか」
「……アー…ダン?」
ルチルは侍女を見ようともせず、ぽつりと云った。
「はい、お部屋にてお待ちです」
侍女の答えにルチルは石棺から下り、片手を差し出す。
その手をとった侍女は歩き出したルチルの耳許に、口を寄せて何事かを囁いた。
「……よろしい」
ルチルの口からまたカラコロと音がした。
─────────
「あら?……あなたは?」
エーベルが帰った後、エレクトラが侍女を呼ぶと現れたのはルチル付きの侍女であった。
「はい、エレクトラ様付きの者は用事で他出しておりますので、私めが」
「そう……まぁいいわ」
そういう事はたまにある。エレクトラ付きの侍女は細作として暗躍しているからだ。
きっと今も諜報活動に勤しんでいるのだろう、とエレクトラは合点した。
エレクトラは明日の会議の予定を確かめたかったのだが、ルチル付きの侍女は会議が始まる時間は知っていても内容などは知らなかった。
(まぁ、今のルチルには)
会議など理解出来無いだろうとエレクトラは思った。
(以前は子供のくせに首を突っ込んでいたけど)
以前、毒に犯されるまで聡明だったルチル。
成人を迎えず継承権が認定される前から会議には顔を出し、エレクトラとは事あるごとに対立したものだ。
(あの頃は目障りだったわ。あの毒で死ななかったのは残念だけど、生き延びても……アレではね)
「まぁいいわ、侍従長に訊いて来ましょう」
「それでしたら私が参ります」
「いいのよ……少し夜風に当たりたいから」
エレクトラが立つと侍女が先導して部屋の扉を開ける。
エレクトラの後ろ姿を見送ると、室内の整理をするつもりだろうか侍女は部屋に戻った。




