策略
ブラスタの許にはあれからブライア王国の使者が足繁く通っている。
国内に後ろ楯を持たないブラスタにとってブライアの存在は大きい。
「じきにクリスタの誕生日だ。あれも今年で十五歳、成人となるからな、周りの者達が持ち上げて継承争いに名乗りを挙げるかもしれん」
「クリスタ様、という御方はどの様な……?」
使者の問いにブラスタは顔をしかめた。
クリスタの話をするにはルチルの事もあわせて話す事になる。
いくら自分に味方してくれるといっても、他国の者にルチルの『状態』を話すのはためらわれた。
「……いけ好かん餓鬼だ。最近は魔導師どもと接近している」
「宮廷魔導師ですか、敵にまわすと厄介ですな」
「なに、魔導師の長アーダンはエレクトラの誘いを蹴っているらしいからな。魔導師だけでは戦にならん」
魔導師の用いる攻撃魔法は確かに強力ではあるが、呪文詠唱に手間がかかる。
ことに大規模戦闘に用いられる戦術級魔法ともなれば、詠唱時間を大きくとられるものだ。
その為、前衛となる兵士の存在は不可欠と云ってよい。
当時の戦ではまず弓兵による射撃戦の応酬から始まり、敵の防御線を騎兵が喰い荒らす様に突撃し、空いた防御線の穴を歩兵が蚕食する。
発動時間の都合、魔法は戦闘状態となった歩兵の更に奥、予備隊へ向かって放たれるのだ。そうして敵軍のスタミナを削るのである。
発動までに時間はかかるものの、短期間で勝敗を決するのに長らく用いられた用兵である。
この通り、戦に於いて魔導師は重要ではあるが、通常兵力無しに軍が成立する事は無い。逆に云えば魔導師だけの集団は恐れるほどのものでは無い。
「エレクトラの公爵軍とアーダンが手を組めば恐ろしい話だが、現状それは無い」
ブラスタも軍政を学んだ男である。公爵軍が擁する魔導師など質・量ともに宮廷魔導師のそれに及ばない事を知っている。
ブライア軍もさほど魔導師がいる訳では無いが、公爵軍と事を構えるには充分だろうと見ていた。
「アーダン様をこちらに引き込む事は……?」
「無理だな。大方漁夫の利を狙うだろう。ならばエレクトラと俺に対して中立を保つはずだ」
ブライアは苦々しく思う。
「クリスタの誕生日が過ぎたなら父王にレイザー廃嫡を願う。ブライア軍には手はず通りに」
「即応致します。殿下」




