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毒蛇の巣  作者: CGF
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エレクトラ



(ブラスタにも困ったものね……)




レイザーの寝室から自分の寝室へと戻り、革張りの長椅子に身を投げ出しながらエレクトラは思った。



隣国エンドラの王は老齢、退位は間近く世嗣ぎは既に正妃を迎えている。


今エレクトラが嫁ぐなど無駄なのだ。これはエレクトラ本人、そして母方の親族共通の認識であった。



エレクトラの親族シャイン公爵家は数代前に王家から分かれた家系、幾度か王家に娘を嫁がせており、血の絆は深い。


また国の要職は一族の者でかなりの数を占められている。第二の王家と呼んでも差し支え無い。


そんな一族がエレクトラの隣国への輿入れに反対しているのだから話が進む訳が無いのである。




エレクトラが兄レイザーと口憚くちはばかられる仲となっているのは一族の思惑では無い。もっとも、一族が知ったとして自分を非難などはするまい、とエレクトラは考えている。


兄の寝室に昼間から侍るのは、レイザーがどこぞの馬の骨とねんごろになるのを防ぐ為だ。その馬の骨に下手な野心を持たれたり、レイザーに性病など移されてはたまらない。




エレクトラがこうまでする理由はレイザー第一王子の暗愚にある。



ブラスタが思う以上に酷い。学の無い農夫に王冠を被せた方がましかもしれない。




……だから神輿になってもらう。




使えないならただ玉座に座らせておき、エレクトラの親族で国政を切り盛りすればよい。


現在の国王テランもまた玉座に飾られている。シャイン公爵家にしてみれば代替わりしても何が変わるわけでもなく、その方が好ましい。


また、エレクトラにとっても退位間近い老人の側妃より、レイザーを操る方が遥かに未来の展望があるというものだ。



エレクトラの障害となりそうなのは弟妹とその親族であったが、ブラスタ以外はさほど気にしてはいなかった。



妹ルチルの親族は王宮魔導師を輩出する家系である。


平時に於いては文官として、戦時には魔導兵として王国に奉仕するこの集団。


公爵家一族と要職を二分する相手ではあるものの、役割がかぶる訳では無く棲み分けが出来ている。


彼等は専門分野を一手に握っている為か、政治的野心に乏しい。



しかも、ルチルは頭脳おつむりが残念な事になっていた。




毒を盛られる以前、ルチルは非常に聡明な娘で十歳の頃から会議に席を持っていた。


ルチル十歳の頃、レイザーは十三歳。ハイダル王国では十五で成人、正式に王位継承権を認められる。


長兄より先に会議の席につき、発言していた妹。当時エレクトラは末恐ろしく感じていた。




エレクトラは化粧机に置かれた小さな宝石箱に目を向ける。


一国の王女には小さ過ぎる宝石箱。エレクトラはルチルの事を考えるたび、宝石箱に目を向ける……





……そして思い出すのだ。あの日、ルチルが血を吐きながらのたうち回った姿を。



その日を境にルチルはまともに会話をする事が出来無くなり、会議の様な公の場にも出なくなった……




……にもかかわらず魔導師達を統括しているアーダンが、今もルチルから離れずにいるのが奇妙と云えば奇妙だ。


エレクトラにしてみれば役立たずな王女に肩入れなどしてどうするのかとも思う。やはり実の孫であるからだろう。




ジャスパーとフローラの同母兄妹の事は特に気にしてはいない。



ジャスパーは王位継承三位ではある。男兄弟の方がエレクトラより継承権は上位になるのだが、この二人の母は地方の地主の娘で、行儀見習いの為に王宮で侍女をしていたところ、王の手付きとなった。


母親も地主の祖父も万事にへりくだる質だった。それに影響されたジャスパーとフローラも遠慮がちな性質にそだっている。




現在一番の問題はブラスタ。




彼はレイザーを反面教師とみているフシがあり、追い落としを考えるかもしれなかった。


弟の母は新興国ブライアからの輿入れであった。母親はとうに鬼籍に入ってはいるが、王子が生まれた事で両国の安寧に一役買ってはいた。


とはいえ、国内での政治的影響力は無い。


孤立無援といっていいだろう。しかし逆に謂えばブラスタ本人には失うものが無いとも謂える。


ブライア王国も新興であるが故に、野心には事欠かない。


王位簒奪おういさんだつを彼が企てたなら、ブライア王国が呼応するかもしれず、そうなれば公爵家一族も危うい。



ブラスタは軍政を任され将軍となる事が決まっているのだ。彼が腹を決めたなら、この国は丸裸になったも同然である。





(一服盛るか、それとも股を開いてやるか)





ブラスタの自分を視る目にエレクトラは気付いている。


情欲と禁忌がせめぎ合い、身をがしている目だ。弟が荒い鼻息から煙を噴き出しそうな程にれているのをエレクトラは感じていた。



「まぁ……おいおい考えましょう」



時間はまだある。父王はまだ退位を考えてはいまい。



ふと、第三王女クリスタの事が頭に浮かんだ。


家格は下ではあるものの、第三王女の母は伯爵家であり、一族にとっては疎ましい存在である。



(……そろそろあれも邪魔になる年頃かしらね)



余計な登場人物には早々に退場してもらうに限る。思考を受けて彼女の目が自然剃刀の様に細くなった。



(ルチルは運が良かったけれど、あの娘は確実に……)





エレクトラ第一王女はけだるげに長椅子へその肢体をもたれさせた。






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