孫娘と祖父
一方、エレクトラにも面会人があった。
祖父エーベル・シャイン公爵その人である。彼はレイザーへの見舞いの為に宮廷に参内していたが、面会謝絶との事で、ならばと外孫の顔を見に立ち寄った……
……というのは表向きの理由である。
「殿下には御機嫌麗しゅう」
「お祖父様も御変わりなく」
エレクトラの居室、その扉が閉まる寸前、廊下に聴こえたのはそんな当たり障りの無い会話であった。
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「して?エレクトラよ、レイザーの容態はどうなのじゃ?」
扉が閉まった後、エレクトラとエーベル翁の立場は逆転した。
エーベルの好好爺然とした表情は引き締まり、鋭い眼光を孫娘に向ける。
「よく判りませんわ、あれ以来立ち入りを禁じられてますから」
エレクトラはエーベル翁の探る様な眼差しをいつもの事と受け流し、詰まらなそうに続ける。
「……もっとも、治療術師の様子をみれば、変わりばえは無いでしょうね」
「よろしく無いな。レイザーめが廃嫡されるのも時間の問題じゃ」
「どうなさいますの、お祖父様?」
レイザーを即位させた後はエレクトラを通じて今まで通りに国政を担う。それが公爵家の思惑であった。
それが御破算となる。
「ブラスタはいかん。我国とブライアとの関係がこじれてしまう」
こじれるのは一方的に公爵家なのであるが、エーベルにはハイダル王国イコール公爵家との自負がある。
エーベルは今思い付いたかの様に口を開いた。
「のう、エレクトラよ。お主、立つ気はあるか?」
「私が……ですか?」
「そうじゃ、お主が王位についたとて問題はあるまい。いや、王家と公爵家がより親密となるのは喜ばしい事じゃ。お主にも悪い話ではあるまい」
自分が王位につけば、エンドラへの輿入れの件も反古にして問題は無い。代わりにルチルかクリスタを送ってしまうのも可能だ。どうせ形ばかりの輿入れである。
「お祖父様の為になるというのであれば」
「儂の話ではない、国の為じゃ」
エーベル公爵が退去した後しばらく、エレクトラは長椅子にもたれ、宙を見ていた。
自分が王冠をかぶる。
今まではレイザーの後ろに控え、操る事を画策していた自分が……
……今度は操られる側にまわるというのか?
(それは……詰まらないわね)
どうせなら、とエレクトラは思う。
どうせなら逆に公爵家を操る方が面白そうだ。エーベルは高齢、数年内にカタはつくだろう。
(公爵家の嫡男は……あぁ)
エーベルの息子エリックは公爵家一族とは思えぬ程の生真面目な性分だ、裏で画策する能力に乏しい。
上手くいきそうだ。エレクトラはそう思った。




