落馬
森の中をレイザーの操る馬が駆ける。
その後ろをブラスタの馬が追走する。ともすれば遅れ気味になる馬を急き立ててブラスタは前方の兄を追い掛けた。
(レイザーは……兄上は阿呆ではなかったというのか!?)
ブラスタの頭は先程のレイザーが言った言葉を繰り返していた。
レイザーの不行状は次期王位継承者という驕りによるもの。と、ブラスタはいつもそう捉えていた。
あれではまるで収監されるのを待つ囚人の様だ。
玉座という檻、王冠という枷に繋がれる日を、逃げ場も無く待たされている様ではないか。
エレクトラと云うに云われぬ仲となっているのもその為なのか?赤の他人達に操られるくらいなら血を分けた妹に操られるのを選んだのか?
(いったい……王冠とは、玉座とはなんなのだ?)
レイザーは王族として必要な教育をうけている。国の舵取りが出来る様に。
だが、玉座に座ってもその力が発揮される事は無いと、レイザーは知っているのだ。国の要職、重鎮達がそれを許さない。
そう思い到った時、ブラスタは兄の背中を今までとはまったく違うものとして見た。
その時。
風切り音がした。
目の前を走る兄の馬が、頭から勢いよく地面にぶつかる。
蹴り上げた後ろ脚が空中に跳ね上がる。
馬は引っくり返り、その背中を大地に叩きつけた。
馬上にあったレイザーは。
操り人形の様に手足を投げ出し、大木の根元に転がっていた。
「あ……兄上!?」
ブラスタは馬から転げる様に降りるとレイザーの許へ駆け寄った。
息はある。
「誰か!誰かある!」
二人を追い掛けていた勢子達が急いで近寄る。ブラスタはレイザーを彼等にまかせ、倒れた馬に近寄った。
(いったい……)
何があったというのか?
辺りに馬が脚を取られる様な樹の根などは見当たらない。
馬は首の骨が折れ、既に絶命している。ブラスタは馬の身体を検分した。
(な!?馬鹿な!?……俺の矢羽だと!?)
馬の腹に矢が一本突き立っていた。
狩りの際、参加者はみなそれぞれの矢を用いる。誰が獲物を仕留めたかが一目で判る様に。
その矢には間違い無くブラスタの使っている矢羽がついていた。
咄嗟にブラスタは矢を折った。
このままでは自分がレイザーを暗殺しようとしたかの様に思われてしまう。
ブラスタは折り取った矢羽を懐に隠すと、勢子達の許に戻った。




