園遊会 3
ブラスタはレイザーと共に、勢子が鹿を追い立ててくるのを待ち構えていた。
既に鹿四頭、兎六羽を仕留めている。
「今のところ同数だなブラスタ。いやいや、お前がここまでやるとは思わなかった」
「……私とて王家の男ですから。時間的に次の追い立てで決着がつきましょう」
ブラスタはレイザーの弟ではあるが同時に臣下の立場に位置する。継承権一位とそれ以下では明確に差が出る。
ならば臣下たるブラスタは次の一射を外し、レイザーに花をもたせるのが常道だ。
しかし、この阿呆に負けるのかと思うと業腹というものだ。
そう思っていると、茂みが音を立てて揺れた。二人は弓につがえていた矢を引き絞る。
「はっ!」「やっ!」
同時に二本の矢が飛んだ。
現れた一頭の雄鹿にそれぞれの矢が突き立つ。
雄鹿は暴れ回り駆け出していく。
「追うぞ!」
勢子達を引き連れ鹿を追う。しばらくして雄鹿は走るのを止め、ふるふると震えたかと思うと、どおっと倒れた。
倒れた鹿の胸と腹に矢があった。
胸に刺さった矢を見れば、矢羽はブラスタのものだった。ブラスタの矢は見事に雄鹿の心臓をとらえていたのである。
「はははっ!これはブラスタの勝ちだな、見事な一矢だったぞ」
レイザーは屈託の無い笑顔を弟に向けた。
(コイツ…負けて喜んでいるのか?)
「……王冠を賭けずに良うございましたな?」
つい、ブラスタの口が不敬な言葉を吐いた。反骨の気分がそうさせたのだった。
聞きようによっては処罰の対象である。
「はははははは!……俺はそれでも良かったがな」
大笑いをした後、レイザーはぽそりと呟いた。ブラスタが目を剥く。
「この国の王など、どうせ操り人形だ。あっちの手で踊り、次はこちらの手で踊る」
「……」
「父上が俺の不行状を諌めないのはな、『玉座に期待などするな』という事だ。今のうちに遊んでいろという事さ」
いつも馬鹿笑いを顔に貼り付けているレイザーが、冷めた目でブラスタを見ていた。
ブラスタは声が出せない。
「腹が減ったな、さぁ妹達のところへ戻ろう!お前も腹が空いただろう?」
レイザーが皆に声をかけ、一行は帰途についた。
「よしブラスタ、野原まで競争だ!」