園遊会 2
レイザーは馬の首を巡らせ、ブラスタと共に森へ入った。二人に従う勢子達は既に森へ入っている。
狩りの他の参加者達も馬を操り二人に続く。
「ルチル、こちらへいらっしゃい。お茶にしましょう」
クリスタが来客達の相手をしている隙をみて、エレクトラがルチルに手招きをした。
野原に敷物を敷き、テーブルと椅子を用意してある。同様のものが野原のあちこちに設えられていて、皆思い思いに小集団を作り談笑していた。
「姉…上、お邪魔……致しま…す」
たどたどしいルチルの言葉にエレクトラは笑みを返す。
「どうも貴女は他人行儀ねルチル」
「……申し訳?…ありません」
猫背のルチルが頭を下げる。
このテーブルの主人役を務めるエレクトラに促され、ルチルは席についた。
「兄上達が戻られるまでしばらくかかるわ……考えてみれば改めて話をするなど無かったかしらね」
エレクトラはルチルを正面から見た。
ルチルは目に隈が浮き、痩せぎすな身体は上流の者が着るドレスに着られている感じである。
エレクトラはこの娘に貧乏そうな服を着せたら似合いそうだと思った。
「……何をお話し…しましょう?」
ルチルの表情は仮面の様であった。
(アーダンと目付きが似てるわ)
エレクトラは笑みを浮かべる。
「そうね、これからの事なんかどうかしら?」
「これからの……」
エレクトラは少しだけ声をひそめる。他のテーブルに聞こえない様に。
「レイザーは王冠に値しない……でも私達はあれに王冠を被せなければいけない」
長兄を『あれ』呼ばわりである。
エレクトラはくすくすと笑う。
エレクトラの謂わんとする事をルチルは理解出来無いだろうとみての笑いだ。
エレクトラは一方的に口を開いているだけなのだ、周囲の招待客を眺めながら。
自分達のテーブルを世話しているのはエレクトラ付きの侍女である。子飼の者であるから気兼ねなどいらない。
公爵家一族の計画を公言する訳にはいかないが、こうしてルチルに聴かせる事でエレクトラは身も心も軽くなるのを感じている。
それは自慢と不安の両方がないまぜになったものだ。ものを考えられぬ妹を『道化』代わりにエレクトラは心情を呟いていた。
「ねぇルチル、王国の為にはレイザーを支える事が必要よ。解るでしょう?ブラスタでは代わりにならないのよ」
「……考えます」
ルチルは無表情で言った。
「考える、だけかしら?まぁ、貴女ならそうね」
エレクトラは文官達とその家族が行楽を楽しむ姿を眺めた。
彼等は第一王女が何を話しているのかなど気付いておらず、めいめい秋の一日を満喫している。
その姿がエレクトラには滑稽に思えた。