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涙の宿場町

作者: 瀬川なつこ

夜になりました。

外の外灯の下で、西陣織の着物を着た娘が桜の枝を片手に舞っています。

幻はすぐ傍に。

長い事帰ってこなかった父親が帰ってきてすっかり冷めた食卓を家族全員で囲みます。

父親のお土産のシメサバのお寿司も傍らに。

わおんわおんと、どこかで、犬の遠吠えが聞こえます。

もうすぐお風呂。

夕暮れ時になってきて、

仄かな暑さも翳ってきた頃、

影法師が、小さな子供になって、

いたずらして戸棚のまんじゅうを喰っている。

影法師は遊ぶ遊ぶ。

人の髪の毛をひっぱったり、

「お前、死ぬぞ」と耳元で囁いてみたり。

祭りの夜になると、己の影の主の人間を、

地獄へ連れて行ってしまう。帰れなくなるよ



幽玄、夢の通い路、坂の上の雲、懐古の想い出は、記憶の片隅に。

宿場町の良く晴れた空、入道雲。

道をゆくアヤカシたちは、己の孤独を知って、夜、外灯の下で泣いている。

夢の行き先。

小鬼がこけて、櫻の花びらの散る…美しい、涙の出る光景。




夢の幕間に、綺麗な女の人と男の人が死に別れる悲しい夢を見て涙が出たんだ。

宿場町のとある家の娘の夢。

まな板のうえの魚の鱗を削ぎながら、綺麗な夢だったと思う。

そこの松の木の処の川で、固く結んだ紐がほどけて、心中の末、二人は運命にも引き離されるんだ。

望まざる恋。

宿場町の幻。



よく晴れた宿場町。

人気のない通り道を、

真っ赤な体の赤子のような妖が、

入道雲を追いかけて、

よちよち歩いている。

ずんぐりむっくりのその体には凌霄花の花弁があちこちについている。

彼は妖くずれの成れの果て。啞の子です。

それを見て、老婆が、一軒家の中で涙を零しています。

死んだ孫にそっくりです。


女中が風呂敷片手に、女川という川を通りかかった時、火の玉が二つ浮かんでいました。

綺麗な男の人と女の人が、女川の中で心中したという新聞が、翌日朝刊で出回って、あれは…となっている。

お寺のお坊様は、夜は自分の家のお墓には目を向けません。

悪霊や火の玉が、踊っているからです。

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