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死んでも安い世界で生きる僕らは  作者: 海老之巣
第2章 新人冒険者のあれやこれや
21/61

21話 二日目の朝

「行ってきます……誰も聞いてないか」


 別世界に来てから二日目の朝、ロディは身支度を整えて屋敷の外に出た。

 昨夜、同じ日に冒険者になったナディアという小人の少女と朝食の約束をしたからだ。

 

「出る前に、アランたちと話したかったんだがな……」


 アランはまだ就寝中、ウルリカは早朝から教会に出向いていて不在だった。

 残る一人は――


「ここにいたのか、リーリア、おはよう」


 アラン邸の広大な庭の一角、木製の小屋の前で、リーリアは巨大なオオカミに餌を与えていた。


「ん、おはよう」


 リーリアはこちらを振り返ることなく返事をする。


(イマイチ苦手なんだよなぁ……)


 積極的に話しかけてくるアランやウルリカと違い、あまりこちらと話したがらない上、表情があまり動かないので内心を測りにくい。


「その狼……名前はイーファンだったか? 元気そうでよかった」


 馬車を引いていた白いオオカミだ。この街に着いて以降は姿を見ていなかったが、息災のようだ。


「そう」


「もしかして、その肉はドラゴンの肉か?」


「あってる。真竜だけで十匹は落とした。余ってる」


「あれを十匹か……」


 ドラゴンとの戦闘を終えたアランの体は無傷だった。その程度は訳無いということか。


(それに比べて、俺は……)


「気にしない方がいい」


 それまでこちらを見向きもしなかったリーリアが、初めてロディに視線を合わせる。

 彼女は銀色の狼の体毛を撫でながら、


「前にも言った。アランは平人(ヒラビト)最強。そして、お前はレベルがまだまだ低い。魔法の才も、無いわけじゃない。まだ、伸びる」


 どうやら気を使わせてしまったらしい。


「なぁ、アランのことを平人最強って呼ぶってことは……アランより強いやつがいる、ってことなのか?」


「いる」


 一言、これまでのようにハッキリと答え、リーリアはその金色の髪を揺らして立ち上がり、ロディに向き直る。


「アランより強いモンスターもいるし、過去には、アランより強い平人もいた」


「そう、か……」


「焦らなくていい。アランは知るかって言ってたけど、あなたは強くなれる。私が保証する。それに――」


 リーリアは自分の眼もとを指さし、


「お前の眼は、アランに似ている。だから大丈夫」


「眼、か……」


 ロディが、かつて師匠から貰った魔眼。

 幾度となくこの眼に助けられてきた。


「そうだな。この眼のことなら、信じられる。リーリア、ありがとう」


「そう、良かった」


 リーリアはそう言って立ち去ろうとするが、「忘れてた」と言い、ロディに袋を手渡す。


「これは?」


「お金。アランに渡せって言われた。お金も持たずに、どこか行く気?」


「あ――」


 何も考えていなかった。アランに奢られすぎて、思考がヒモのようになっているかもしれない。


「昨日の賭けで勝った一部って言ってた。気にしないでいい。それと、明日は予定を開けておけ。用があるらしい」


「ああ、決闘の時の……明日の件は分かった」


 受け取ることに忌避感はあるが、一応はロディが勝ち取った金だ。まだ幾分か気分がマシだった。

 そこまで含めて、気を使われているのかもしれないが。


「あと……」


「まだ何かあるのか?」


 リーリアはわずかに微笑み、手を振る。


「いってらっしゃい」


「なんだ、聞こえてたのか……うん、いってきます」


◇◇◇◇◇◇◇◇


 冒険者ギルドの本館、ナディアと初めて会った場所にロディは来ていた。

 待ち合わせ相手は――


「おーい、こっちだよ、こっちー!」


 小さな身ながらも、こちらに向かって精一杯手を振っていた。


「やぁやぁ、ロディくん。いい朝だね」


「おはよう、ナディア。さすがに夕べより人が多いな」


 昨夜の時点でもそこそこ人がいたのに、今朝はその数をさらに増やしていた。老若男女、種族の区別なく、様々な人がいる。

 ヴァイスや例の山賊風の男など、昨日酒場で見た顔もチラホラ見える。


「これでも普段より人が少ないそうだよ。昨日は襲撃があったらしいじゃないか。それで、冒険者も結構な数が死んだとか」


「なるほどな」


 実際、冒険者が地竜に命を奪われる瞬間を目撃したのだ。他にも多数の犠牲者が出ていても不思議ではない。

 死んでも復活する以上、命を奪われるという表現が正しいかは知らないが。


「それにしても、約束の時間より早かったね。そんなにボクと会いたかったのかな?」


「え? ああ、そうだな」


 同期の彼女と話してみたいと思ったことは事実だ。アランたちでは色々と遠すぎる。

 しかし、時間より早いのは彼女も同じではないだろうか。


「ふ、ふむ。冗句のつもりだったのだけれど、まさか肯定されるとは思わなかったよ。いや、気持ちは嬉しいけれど、ボクとしては――」


「いや、冗談だよ」


「ああ、うん、そうだよね。もちろん分かっていたとも。……うん」


 感情の浮き沈みが激しい少女だ。だが、コロコロ変わる表情は見ていて少し楽しい気もする。

 とはいえ、周りに人がたくさんいる状況でいつまでも話を楽しむ気にはなれない。


「立ちながら話すのもなんだし、朝食を食べに行こうか。行きたいところはあるか?」


「ギルドの酒場は混んでるし……ボクが泊っている宿はどうだろう。夕暮れの三日月亭っていうんだけど」


 夕暮れの三日月亭という名前はどこかで聞いた気がする。


「そこって確か……」


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ロディとナディアは冒険者ギルドを出て、ナディアが宿泊している宿に来ていた。

 一階が酒場のようになっていて、そこで飲み食いできそうだ。


「どこかで聞いた名前だと思ったら、やっぱりここだったか」


「知っていたのかい?」


「ああ、知り合いが、ここのジューシーサンドが美味しいって話してたんだ」


 この街――パールザールに着く前、アランが一度ここの名前を口にしていた。

 馬車(?)の中で、美味なパールザールの食事の中でも、手ごろでお勧めだと聞いた。


「そうなのか。じゃあ、ボクもそれを頼むとしようかな」


 店員にジューシーサンドを二つと適当な飲み物を頼み、ロディとナディアの二人は席に着く。


「そういえば、ナディアは襲撃の後に来たのか?」


 先ほど、ナディアは襲撃のことを『らしい』と語っていた。

 あの場に居合わせた者なら、そんな発言は出まい。


「うん、そうだよ。もしかして、君は襲撃に居合わせたのかい?」


「ああ、大変だったよ。街中に竜が溢れててさ……」


 二度と見たくないと思った光景を二日と経たずに見せられたのだ。

 しかも地を駆る竜と子供を連れた状態で逃走劇を繰り広げることになった。


「ということは、見たのかい? 真竜(ドラゴン)を! いいなぁ……ボクも見てみたかったよ」


「いや……そんなにいいものじゃなかったよ」


「なぜだい?」


「そりゃ、一回殺されたからな。もう会いたくない」


 元の世界にいたならば、絶対に言うことのないセリフだと口にしてから気付いて、ロディは小さく笑った。

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