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死んでも安い世界で生きる僕らは  作者: 海老之巣
第2章 新人冒険者のあれやこれや
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17話 カッコいい騎士様

 待つこと数分、扉が開き、受付の獣人女性が再び出てくる。


「お待たせしました。では、代筆と簡単な説明をさせていただきます」


 字が書けないから代筆を、この世界の常識を知らないので説明をしてくれるのだろう。


「ありがとうございます」


「ええと、まずこちらの石板ですね。これは『アレイシアの石板』と言います。鑑定の魔法を発動して、ステータスを測定する魔具です」


 先ほど見せられた長方形の黒い石板だ。一辺に切れ込みの様な穴がある。


「ステータスとは?」


「対象の持つ能力を数値化したもの……ですかね? 一度実際に測定してみましょう」


 石板の上に手を乗せると、ブーンと低い音が鳴り、石板が一瞬青白く発光した。

 切れ込みからゆっくりと白い紙が排出され、それを掴み取ると、紙に文字が浮かび上がった。


「鑑定魔法を使用すると、このように紙が現れます。そこには貴方のステータスが記されているのですが……」


「はい、読めません」


 文字と数字と思しき字が書いてある。所々緑や赤で字が記されているが、それが何を意味するのかは分からない。


「レベルは17ですね。レベルとは、どれだけ体に魔素(エーテル)を取り込んでいるかの指標であり、一般的にレベルが高いほど強いとされています。魔素(エーテル)は食事、睡眠など、普通に生きているだけでも体に蓄積していきます。しかし、最も効率のいいレベルの上げ方は、生物の殺害です。相手の魔素を奪い取るわけですね」


 要するに戦えば戦うほど強くなる、ということか。

 正直なところ合点がいった。魔物が溢れだした故郷で、前線で魔物と戦い続けた者たちが強くなった背景には、そんな理由があったわけだ。


「レベル17とはどれ程ですか?」


 魔物との戦闘経験は少ないが、これまでの人生で人を大量に斬ってきたのだ。

 この世界の人間に比べて極端に低い、ということは無いはず――


「冒険者になって半年ほどの新人冒険者くらいですね」


「あっ、そうですか……」


 心が折れそうだ。たった半年とは。剣を振り続けた我が半生は一体何だったのか。


「ですが……ステータスは魔力以外、同レベルの平人(ヒラビト)の平均値を超えています。先ほどの決闘を見ても、おそらくC級でも十分通じるかと」


 平均値を超えている、と言われて素直に喜んでいいものか。それだけでは特に何が分かるわけでもない。もっとも、数値を口にされても基準が分からないのだが。

 しかし、先ほどの決闘ということは――


「見られてましたか……」


「ええ、バッチリ」


 そう言って、狐耳の女性は手でマルのマークを作る。見ていたから、ロディが新人だと知っていて、声をかけてくれた、ということか。

 ――何となく恥ずかしい。


「ええと、それでC級というのは? 冒険者の階級みたいなものですよね」


「はい。その通りです。冒険者はその能力と貢献度合いによって、FからSまでの階級に分けられます。大半の新人冒険者はF級に配属され、そこから上を目指すわけですね」


 つまりS級のアランは最高位の冒険者というわけだ。

 先ほどのヴァイスでB級となると、アランがどれほど規格外かよく分かる。


「C級冒険者は、冒険者としての実力と経験を最低限認められた人がなります。逆に言えばD級以下は新人か、言ってしまえば実力のない人達です」


 そうバッサリと言い放ち、彼女は説明を続ける。


「B級はプロを名乗れる実力の方々です。また、B級以上に至るには人柄も求められます。B級以上の冒険者には重要な依頼を任せることがあるためですね」


 当然と言えば当然だろう。信頼できないものに大事な仕事が任せられるわけがない。


「冒険者の階級ごとの数は、上に行くほど少ないピラミッド状の形をしていまして、A級以上の冒険者は非常に少ないです。彼らは街や国から、お抱えの冒険者にならないか、とスカウトが来るほどの実力を持っています」


 つまりアランほどの実力者は、そういないということだ。もっとも、ドラゴンの首を一太刀で斬り落とす人間が何人もいてはたまらないが。


「ちなみに、あなたはE級からのスタートになります」


「なぜです? もしかして、先ほどの決闘で実力を認められた、とかですか」


 それ以外に思い当たる節があるとすれば――


「それはね、おにいちゃんがカッコいい騎士様だからだよー!」


 先ほど受付の人が出てきた扉を勢いよく開き、ミーコがそこから顔を出した。


「ミーコ! なぜここにいるんだい?」


(というか、そんな大きな声で、カッコいいとか騎士様とか言うの止めてくれ!)


 周囲の注目を集めているうえに、かなり恥ずかしい。とても恥ずかしい。

 あの時は緊急時とはいえ、こんな恥ずかしいセリフをよくも平気で言えたものだ。


「こらっ、お仕事中は出てきたらダメって言ったでしょ、ミーコ」


 ミーコは「ごめんなさーい」と言って、すぐに顔をひっこめた。


「すみません、ミーコは私の妹なんです。また街が襲われるかもしれないので、戦える人がたくさんいる私の職場に置いてもらっているんです」


 なら最初から教会ではなく、ギルドに避難していればよかったのでは、と思ったが、すぐにその考えを改める。

 西門から見て、東と南の方で大規模な戦闘があったのだ。ここはちょうど南東のあたりで、きっと危険だったのだろう。


 だが、酒場の雰囲気を見るに、子供にいい環境では到底ないと思うので、ここに預けることはあまり教育上よろしくないように感じる。

 ともあれ、ロディがE級から始まる理由は、


「ミーコちゃんを助けたから、ってことですか?」


「身内贔屓(びいき)に見えるかも知れませんが、違いますよ? 竜種蔓延(はびこ)る街の中で、困っている子供を助ける善性、そして走竜(ランドラゴン)やドレイクを単独で討伐する実力を見込んでのことです」


 善性などと言われると少しむず痒い。

 実力と言われても、直後にドラゴンを斬り伏せたアランが居るので実感があまり湧かないのだが。


「ドレイクの単独討伐なんて、B級の冒険者でも出来るかどうか、なんです。本来であればC級やB級に一気に昇格しても不思議ではない功績なのですが、目撃者が子供一人なこと、さらに言えばその子供がギルド関係者なこと、そして貴方の特殊な出自を加味して、E級ということになりました」


 つまり身内びいきどころか、その逆なわけだ。

 特殊な出自とは別世界から来た、というところだろう。

 

「とはいえ、あなたの実力も、その人となりも既に評価されているわけです。真面目に依頼をこなして、レベルを上げていけば、とんとん拍子で昇格できると思いますよ」


 何か見返りを期待してミーコを助けたわけではない。だが、もしそれで自分を評価してくれる人がいるなら、


(いいことはするものだな)


 ぼんやりと、そう思った。

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