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僕と君との迷宮攻略――序  作者: 御咲花 すゆ花
第一章――三つ子村
8/28

二日目――案内(丙)

 オウギは思う――いや。まだ、防衛ゲームと決まったわけじゃない……。

 もしも防衛ゲームであるならば、オウギは、自分で想像していた以上に、迷宮(ダンジョン)では頭を働かせなければいけないことになる。頭を使うことが苦手なオウギにとって、これは、できるだけ避けたい事態であった。

 バシハが口を開く。

「そろそろ戻るか。正確には、案内も途中だったしな」

 オウギが応える。

「え? あ――うん」

 二人が迷宮(ダンジョン)をあとにする。外へ出ると、そこには、案の定と言うべきか、先ほどの下人(ムルイ)たちが運んだと思わしき物資が置いてあった。それを見て、オウギは、付着していたはずの土が綺麗(きれい)になくなっていることに気がついた。

 オウギは思う――あれ? さっきは、砂で汚れていたような気がしたんだけど……。だれかが異能(ギフト)綺麗(きれい)にしたのかな?

 バシハがなんともなしに口を開く。

「さあて……どうすっかな」

「え? 戻るんじゃ……」

 言いながら気がついた。

 オウギは思う――そっか、まだ浮游の種子(ふゆうのしゅし)が使えないんだ。……だとしたら、なんで迷宮(ダンジョン)から出て来たのさ。

 心中でつぶやいた疑問に答えるように、バシハが口を開いた。

「本番は明日だからな。軽くは見ておきたいが、だからといって、ボクノヤミの説明を聞く前に、変に先入観を持ってほしくもねえのよ」

 そう言って、バシハが手に持っていた飲み物に口をつける。オウギもまた、()られるように透明な容器に入った水を口にした。

 再びバシハが口を開く。

「そろそろ、【ジウホウミョ】がタヤの迎えに来るころなんだが……運よく気がついてくれればいいが」

 オウギは思う――ジウホウミョ……。下人(ムルイ)の名前だよね? その下人(ムルイ)なら、どうにかできるってことなのかな。

 バシハは片腕を上にあげると、ゆっくりと大きく左右に振った。それを見て、オウギが口を開く。

「大声で呼べば、気がつくんじゃない?」

 バシハは、小さく首を横に振って、オウギの考えを否定した。

「無理だな。橋を(はさ)むと、向こう側の音が聞こえなくなるんだ」

「えっ、そうなんだ」

 オウギは思う――全然、気がつかなかった。

 ふと、そこでバシハは気がつく。オウギが異能(ギフト)を使えばいいのではないか、と。オウギのほうに振り向くやいなや、バシハが口を開く。

「そうだ、オウギ。お前、異能(ギフト)を使えるか?」

 先述したように、オウギの異能(ギフト)は別の下人(ムルイ)に声をかけるというものである。

 オウギは、おずおずとバシハの問いに答えた。

「えっ、あ……うん。たぶん使えると思うよ……」

「武器の指定があるなら、迷宮(ダンジョン)下人(ムルイ)に借りて()っけど?」

 意味をつかめなかったオウギが、思わず聞き返す。

「武器の指定?」

「そうそう。異能(ギフト)を発動するために、装備してなきゃいけねえ武器のこと」

 そう言われてオウギは、少しの間、自身の異能(ギフト)に思いを(めぐ)らせてみたが、さっぱりと見当はつかなかった。

「う~ん……。ごめん、わかんないや」

 それを聞いたバシハが、なんともなしに口を開く。

「そっか。なら、ねえのかもな。……まあ、単に自覚がねえだけかもしれないから、とりあえず今ここで、俺に使ってみろよ」

 だが、「すぐに使う」というバシハの予想に反して、オウギは、ためらうように言いよどんだ。

「え――あっ、うん……」

 何度か口をぱくぱくと開けたり閉じたりしたのちに、意を決したようにオウギが口を開く。

「ねえ……。異能(ギフト)を使うのは、その……構わないんだけさ。……僕、異能(ギフト)を使うときに、呪文みたいなものを唱えないといけないみたいなんだけど」

『何を言い出すのかと思えば、そんなことか』と言わんばかりに、バシハが口元に笑みを浮かべる。殊更(ことさら)、優しげな口調で、言い聞かせるようにオウギに言った。

「みんな、そうだよ。俺もキシニも、ウノカもな」

 気づかわれたことに対して少しだけ照れ臭くなりながらも、オウギは、小さな声で応えた。

「そっか……。それなら、よかった」

 はにかむオウギを見ながら、バシハが再び思いついたように口を開く。

「そうだ、オウギ。お前の異能(ギフト)って何型だ?」

「何型?」

「【詠唱(えいしょう)】の種類だよ。『()して祈る』とか、『(つつし)んで()う』とか――」

 オウギが割って(はい)る。

「ああ――それ。(つつし)んで()うってやつ」

「そっか、自分の名前を叫ぶタイプか。俺と同じだな」

 オウギは思う――だから、恥ずかしいんじゃないか。

 そう思うオウギとは対照的に、バシハが異なる考えを口にする。

「いいよな。俺はここにいるぞ――って感じがして」

「……」

 オウギは思う――そんなふうに考えるんだ……。

 照れ隠しのような咳払(せきばら)いを一つしてから、オウギが詠唱(えいしょう)をはじめる。

「大いなる存在に(つつし)んで()う。黄昏(たそがれ)(いだ)柚子(ゆず)(こいねが)(なつめ)――嵐影湖光(らんえいここう)(たわむ)れに聞き開き(たま)え――下人(ムルイ)はオウギ、《拡声器(スピーカ)》」

 オウギは思う――あれ? 今、確実に何かを消費した。

 疑問に答えるように、バシハが口を開く。

「【魔力(まりょく)】だよ」

 バシハの説明にうなずきながら、オウギは、異能(ギフト)上でバシハに声をかけた。

〈えっと……あの、こんにちは〉

 実際にその効果を目の当たりにしたバシハは、少し驚きつつも、返事を試みた。無論、バシハもキシニを経由して、ウノカによるオウギの話を聞いていたので、オウギの異能(ギフト)が「一方的にしか話しかけられないものであること」は承知していた。これは単なる、バシハの遊び心である。

 バシハが心中で「後ろに気をつけろ」とつぶやく。だが当然ながら、オウギはどこ吹く風であった。特に落胆するわけでもなく、バシハはうなずきながら口を開いた。

「本当に一方通行なんだな」

「えっ、うん……」

 言いながらオウギは、バシハが自分を試したことに気がつく。

 少し嫌そうな顔をしたオウギが、すねるように口を開いた。

「……疑ってたの? 僕、ウソついてないよ」

 むっとするオウギに、バシハが(さと)すように応えた。

「悪かったって、ほんの出来心だよ。そんなに怒らないでくれ」

 不機嫌なままのオウギをなだめるように、その肩を軽く叩きながらバシハがつづける。

「それより、異能(ギフト)の効果時間はどのくらいだ?」

 言われて、オウギも自覚がないことに気がつく。

 オウギは思う――たしかに、どのくらい使えるんだろう。

 そうしてオウギが、再び異能(ギフト)上でバシハに声をかけようとすると、すでに異能(ギフト)の効果は切れていた。

 オウギが口を開く。

「ああ……。効果切れみたい」

 バシハが驚いたように目を丸くしながら、それに応えた。

「ずいぶんと短いんだな。たぶん、十五秒なんじゃないか?」

 バシハの推測どおり、オウギの異能(ギフト)の効果時間は十五秒である。

 今度は、オウギが驚いたように口を開いた。

「えっ、数えてたの?」

 バシハが首を横に振る。

「いや、(はか)ったわけじゃねえよ。効果時間が十五秒とか三十秒とかっていうのは、割とメジャーなんだ。俺のも三十秒だしな」

「バシハの異能(ギフト)って?」

「ああっと……」

 歯切れの悪い返事をして、バシハが少し考え込む。まもなくバシハが口を開いた。

「ちょっとばかし魔物(まもの)に関わるものだから、明日、話すわ」

『急ぐことのほどでもないか』と思ったオウギは、大人しく、うなずきながら口を開いた。

「……わかった」

 そうこうしている間に、ジウホウミョが橋のほうへと近づいて来た。

 それを見とめたバシハが、南の村のほうを指さしながら口を開く。

「来た来た――あいつ。あの緑の髪が、ジウホウミョだ」

 バシハの指さす先には、(こけ)色の髪を側頭部で束ねた一人の下人(ムルイ)がいる。ジウホウミョは、バシハの言ったとおり、タヤを出迎えるべく近づいて来ているのであった。

 オウギも目を()らしてみると、かろうじてジウホウミョの姿を確認できた。

 オウギは思う――届くのかな? まだ、ちょっと遠いような気もするけど。

 オウギが口を開く。

「なんて声をかければいい?」

「ふつうに『助けて』で、いいと思うぜ。『浮游の種子(ふゆうのしゅし)』とか言えば、伝わるよ」

「わかった……」

 再度の詠唱(えいしょう)

「大いなる存在に(つつし)んで()う。黄昏(たそがれ)(いだ)柚子(ゆず)(こいねが)(なつめ)――嵐影湖光(らんえいここう)(たわむ)れに聞き開き(たま)え――下人(ムルイ)はオウギ、《拡声器(スピーカ)》」

 オウギが、異能(ギフト)上でジウホウミョに声をかけた。

〈すみません、オウギです〉

 突然の声にジウホウミョは戸惑(とまど)い、()いで、声の(ぬし)を確認するように辺りを見回した。それを遠目に見ていたオウギが、慌てて自分たちの場所を口にする。

〈あっ……迷宮(ダンジョン)の入口にいます〉

 ジウホウミョの視線が橋の先に向けられる。オウギは、ジウホウミョと目が合った気がした。

〈助けてください。えっと、あの……すでに浮游の種子(ふゆうのしゅし)を一度使っていて、それで――〉

 時間切れである。

 話は途中で切れてしまったが、大事な部分はジウホウミョに伝わった。だが、「橋を渡って自分たちのもとへ来る」というオウギの予想に反して、ジウホウミョは橋から離れるようにして村のほうへと戻っていく。それを見たオウギは、慌てて再び異能(ギフト)を使いそうになったが、一足早く口を開いたバシハがそれを制した。

「心配すんな――ちゃんと伝わっているよ。あれは単に、浮游の種子(ふゆうのしゅし)を取りにいっただけさ」

 オウギが、ほっと胸をなでおろしながら応える。

「そっか……よかった」

 言いながら、オウギは気がついた。そもそもジウホウミョは、浮游の種子(ふゆうのしゅし)を使わなくても済むようになる異能(ギフト)を持っているのではなかったのか――と。

 オウギは思う――あれ? 浮游の種子(ふゆうのしゅし)を取りにいく必要ってあったのかな?

 そのようにオウギが思っている間に、バシハは、持って来ていた飲料を飲みおえた。そのまま、オウギが見ている目の前で、空になった容器を投げ捨てる。思いもよらないバシハの行動に、オウギがバシハを(いぶか)しむように見た。

 オウギは思う――え? ポイ捨て?

 だが、ここでも再び、オウギの予想に反してバシハの捨てたゴミは、地面に落ちるやいなや――そのまま地面に飲み込まれた。目を疑うような光景に、思わずオウギが叫ぶ。

「なっ!」

 オウギの突然の悲鳴に驚き、バシハは少し体をこわばらせた。

「……どうした?」

 そのように尋ねたいのは、オウギも同じであった。あたふたと、バシハがゴミを投げ捨てた辺りの地面を指さしながら、オウギが尋ねる。

「何が――起きたの? 今、ゴミを捨てたよね?」

 なんともなしにバシハは答える。

「ああ。捨てたな」

 オウギは、自分の(いだ)いた衝撃をバシハと共有できないことに(もど)かしさを覚えつつも、話をつづけた。

「そのあと、ゴミが地面に……」

 合点がいったとばかりに、バシハが、うなずきながら口を開く。

「……だから、世界が回収したんだろ?」

 困惑した表情のまま、オウギが聞き返す。

「世界が、回収?」

『いったい何を言っているんだ』と言わんばかりに、バシハは一度、小さく肩をすくめると、少しだけ(あき)れの混じった声でオウギに応えた。

「何をそんなに驚いているんだ。元の場所では、こうじゃなかったのか?」

 オウギがうなだれながら首を横に振る。

「全然、違うよ……」

 それを聞いてバシハは、オウギの元いた場所での「ゴミの捨て方」に少しだけ興味を(いだ)き、気楽に尋ねた。

「へえ~。じゃあ、どうしていたんだ?」

 オウギは、日本での生活を思い出すように少しだけ考え込みながら、バシハの問いに答えた。

「う~んと……。一か所に集めて、燃やしたり埋めたりしていた……かな」

 バシハは、オウギの返事を聞いても、実際にどういったことをするのか上手く想像することができなかったために、急速に、その話題に対する興味を失った。「話はおわりだ」と言わんばかりに、バシハが一度、大きくうなずいてから口を開く。

「……ずいぶん、変わったことをするんだな」

 そのように言うバシハに対して、オウギは、ほかにどうすることもできず、乾いた笑いを返した。

「あはは……」

 オウギは思う――そう……なのかな? 僕にとっては「ポイ捨てすると勝手に消える」っていう、こっちの世界のほうが変わっているんだけど……。

 そうして二人が話している間に、浮游の種子(ふゆうのしゅし)を採って来たジウホウミョが、橋を渡って、二人のもとまでやって来た。背丈はウノカと同じくらいであり、左目の目元にある黒い(あと)から、性別がノネであることがわかる。

 オウギは思う――(とし)は、キシニさんと同じくらいかな……。

 ジウホウミョが口を開いた。それは、愛らしい見た目とは少しだけ異なる中性的な声だった。

「何やってんだ、バシハ」

 笑いながらバシハが応える。

(わり)い。なんも考えてなかった」

 (あき)れたように眉をひそめたジウホウミョが、自身の愛敬毛(あいきょうげ)をもてあそびながら口を開いた。

「お前なあ……」

 口では、そのように言うジウホウミョであったが、オウギたちに対して異能(ギフト)を使うことに決めると、さっそく詠唱(えいしょう)をはじめた。

「大いなる存在に()して祈る。洗えぬ羽総(はぶさ)――(かす)かな日差し、浮かんで戻した高物語(たかものがたり)磑風舂雨(がいふうしょうう)――」

 詠唱(えいしょう)を聞きながら、バシハは、オウギに対してジウホウミョの異能(ギフト)の説明をするべく、口を開いた。

「ジウホウミョの《雲脚の影(うんきゃくのかげ)》は、浮游の種子(ふゆうのしゅし)みたいなものだ」

 オウギが応える。

「便利だね。……あれ? じゃあ、やっぱり浮游の種子(ふゆうのしゅし)は取りにいかなくてもよかったんじゃ……」

 バシハが、先ほどと同じ台詞(せりふ)を今度は馬鹿にするように言う。

魔力(まりょく)だよ。さっき、使った感じがしただろ?」

「う、うん」

「有限なんだ、魔力(まりょく)は。――っ()っても、残り少ない感じがしてねえなら、お前の魔力(まりょく)量は、まあまあなんじゃねえの?」

 驚いたようにオウギが尋ねる。

「わかるの?」

「あくまで勘だけどな」

 そうしている間に、ジウホウミョの詠唱(えいしょう)がおわった。

「――穏やかに(けぶ)目木(めぎ)青衿(せいきん)(ふみ)に寄り()かる。(とう)(へり)(ぬみ)(がん)。《雲脚の影(うんきゃくのかげ)》――これをもって(わざ)とする」

 異能(ギフト)をかけられたのはバシハのほうであった。バシハは、オウギの肩を軽く叩いて「先に行く」という合図を送ると、そのまま橋を渡っていった。自然と、辺りが静かになる。ジウホウミョは沈黙を気にするふうでもなく、再度、詠唱(えいしょう)をはじめる。

「大いなる存在に()して祈る――」

 それを聞きながらオウギは、ジウホウミョの詠唱(えいしょう)の型が、自身とは異なることに気がついた。

 オウギは思う――そっか、さっきバシハが言っていた「()して祈る」っていうタイプは、これのことか。

「――洗えぬ羽総(はぶさ)――(かす)かな日差し、浮かんで戻した高物語(たかものがたり)磑風舂雨(がいふうしょうう)――穏やかに(けぶ)目木(めぎ)青衿(せいきん)(ふみ)に寄り()かる。(とう)(へり)(ぬみ)(がん)。《雲脚の影(うんきゃくのかげ)》――これをもって(わざ)とする」

 ジウホウミョの詠唱(えいしょう)がおわると同時に、オウギの体が浮游の種子(ふゆうのしゅし)を使ったかのように軽くなった。オウギは頭を下げると、ジウホウミョに礼を言うべく口を開いた。

「あ、ありがとうございました」

 ジウホウミョもまた、それに応えるように軽く手をあげながら、口を開く。

「おう。俺の言えた義理じゃねえけども、くれぐれも魔力(まりょく)の浪費には気をつけろよな。必要なときに使えねえって話になったら大変だぞ」

 オウギは一度うなずくと、そのまま橋に向かった。

20/12/29――本文31段落および33段落目の「武器による指定」という表現を「武器の指定」に改めました。

20/12/30――一部の漢字にルビを追加しました。また、表記を修正しました。

21/1/5――本文32段落目の「話をつかめない」という表現を「意味をつかめなかった」に改めました。

21/5/12――「浮遊の種子(ふゆうのしゅし)」という作中用語を「浮游の種子(ふゆうのしゅし)」に改めました。

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