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僕と君との迷宮攻略――序  作者: 御咲花 すゆ花
第一章――三つ子村
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三日目――南の村(4)

 挑戦(ちょうせん)はおわったが、それは仕事がなくなったことを意味しない。幾人かの下人(ムルイ)たちは村側の迷宮(ダンジョン)の入口に武器を置いて物資を村へと運びはじめた。これらの武器は挑戦(ちょうせん)の参加者に応じて武器の種類を適宜(てきぎ)調節するためのもので、得物にこだわない下人(ムルイ)たちや手練れが使うものである。なぜ、村側に置くのかといえば、迷宮(ダンジョン)内にあるものは基本的に【回収期限(ボーダー=ライン)】のいかんにかかわらず、撤退(てったい)に際して世界に回収されてしまうからである。

 このほかにも迷宮(ダンジョン)にはいくつかの性質がある。例えば、迷宮(ダンジョン)の一部を持ちだすことができないという規則(ルール)がそれだ。したがって、迷宮(ダンジョン)の外へと運びだされた物資には土や砂が一切ついていない。物資が魔物(まもの)の一部ではないことはすでに見ている。物資は魔物(まもの)が世界に回収された結果として現れるものであって、迷宮(ダンジョン)の一部である魔物(まもの)とは完全に異なるものである。以前、オウギは迷宮(ダンジョン)の外に置かれた物資を見た際にだれかが異能(ギフト)綺麗(きれい)(ぬぐ)い去ったのだろうと考えていたが、言うまでもなくこれは誤りだ。

 オウギが「さすがに、これだけの量を異能(ギフト)綺麗(きれい)にすることはできなんじゃないか」と思いながら物資の山を見ていると、苦笑いを浮かべたバシハが「ついて来い」と言わんばかりに(あご)を動かした。

 迷宮(ダンジョン)の中へと戻っていくバシハの背中に向かってオウギが「(ウェーブ)がはじまっちゃうんじゃ?」と心配そうに声をかける。それを聞いたバシハは()め息をつきながら口を開いた。

「冗談だろ、オウギ? 戦闘地帯(バトル=エリア)に入らなきゃ、魔物(まもの)出現(しゅつげん)しねえよ」

「……そっか」

 恥ずかしがるように(ほお)()きながら、オウギもまたバシハのあとを追って迷宮(ダンジョン)の中へと再び足を踏み()れた。オウギが来たことを確認すると、バシハは地面の砂を少しだけ取ってオウギに見せる。そのままオウギとともに迷宮(ダンジョン)から撤退(てったい)し、再び手を開いて手のひらをオウギに見せた。驚いたように声をあげるオウギに対して「持ちだせねえんだよ」とバシハが口を開いた。

 話はそれでおわりだと言わんばかりにバシハが浮游の種子(ふゆうのしゅし)()(くだ)く。それに(なら)ってオウギもまた浮游の種子(ふゆうのしゅし)を使った。

 オウギは思う――そっか。村に帰るためには最低でも浮游の種子(ふゆうのしゅし)が三つは必要なんだ。バシハはこのためにくれたのか。

 大量の物資を抱えたバシハが橋を渡っていく。一度、迷宮(ダンジョン)に戻ったために橋を渡るのはオウギたちが最後である。残っている物資の量は通常であれば一人では運べないほどであったが、浮游の種子(ふゆうのしゅし)の効果は所持品にも有効であるため、今のオウギにならば楽々とは言えないものの十分に運ぶことができた。

 少しだけ横着をしたオウギは崖の外へと踏みだしながら斜めに橋へと向かっていく。実際、浮游の種子(ふゆうのしゅし)を使っているならば、あえて橋を使う必要はない。村ごとの高低差は大きなものではなく、上がり下がりは浮游の種子(ふゆうのしゅし)を使っていても十分に行える範囲だからだ。ただし、その場合であっても橋が最短距離であることに違いはない。

 オウギは橋を渡りながら、万が一帰りのぶんの浮游の種子(ふゆうのしゅし)を忘れてしまった場合にはどうなるのかと、バシハに尋ねた。

 バシハが答える。

「だれかしらが予備を持って来てるから、言えば(やあ)もらえるよ。それさえ忘れちまった場合は夕方まで大人しく待っとけばいい。そうすりゃ見回りに来たマシサカに助けてもらえるさ」

 そこで声音を変えたバシハは茶化すように「お前の場合は前みたいにジウホウミョを捕まえて頼むんだな」と笑い、次いでオウギの横着を少しだけ(とが)めた。

「その橋から飛びだすやつ、東の村に向かうときにはす()なよ。あそこは南の村よりも位置がちょっとだけ高いから、入るのが難し(ムズ)くなる。お前、まだ浮游の種子(ふゆうのしゅし)を使いながら飛んだり跳ねたりなんかできねえだろ?」

 体を(やや)軽くするという効果を除けば、浮游の種子(ふゆうのしゅし)には使用者を基準の高さよりも落ちなくするという効果しかない。これが意味するものは空中を自由に歩き回れるといった大層なものではなく、地面の領域を広げるといったものに近い。浮游の種子(ふゆうのしゅし)を使っていようがいまいが、現実の高低は厳然たる較差(かくさ)として立ち現れるのである。

 うなずき、バシハの注意を聞き()れたオウギであったが、橋を渡りおえると、こっそりとその場で跳ねてみた。もちろん、失敗した。転んだオウギを見ながらバシハが再び()め息をついたことは言うまでもないだろう。



 南の村へと戻ったら、次の作業は物資を仕分けることである。見様見真似でオウギも一番簡単な飲食物の分類をしていく。これは飲食物を食べ物・飲み物・嗜好品に分ける作業で、視覚的に判断できるために慣れていないオウギにも行いやすいものだった。自分のぶんをおえると、バシハに検品を頼む。いくつかの誤ったものを嗜好品の袋へと入れなおしながら、バシハはオウギにそれらの説明を手短にした。その後、バシハが「適当に休んでろ」と言ったので、オウギは手持無沙汰(てもちぶさた)になった。それを目ざとく見つけたワガイルカがオウギを手招きしながら口を開いた。

(ひま)だろ? お前もやろうぜ」

 ワガイルカへと近づきながらオウギが応える。

「何をすれば?」

 ワガイルカは自身のそばに置いてあった卵を持つと「卵を割るんだ」と答えながら、それを地面に叩きつけた。割れた卵の中からはいくつかの武器とがらくたとが出て来た。その量は明らかに卵の大きさを超えるものであったが、でたらめな世界に順応しつつあったためにオウギが驚くことはなかった。見る()に、卵の殻が世界へと回収されていく。ワガイルカに促されるようにしてオウギも卵を割っていった。一つ目は(から)、二つ目に武器、そして三つ目に貴重品(レア=アイテム)を引き当てた。

 紙。

 三つ子村(みつごむら)においては書庫で仕事をしている【ロシトモ】と【トクホ】とにしかあまり縁のないものである。純白には程遠い白茶けた色合いであったが、それが貴重品(レア=アイテム)であることに疑いはない。「よくやった」と言わんばかりに歓声をあげたワガイルカがオウギの肩をつかんで体を軽く揺すぶった。

「こいつはロシトモ先生が喜ぶぜ」

 揺すぶられたままのオウギが震える声で「先生?」と聞き返すと、ワガイルカが「書庫の番人さ」と答えた。すでに、書庫の位置はオウギも知っていた。武器庫の隣である。三つ子村(みつごむら)には珍しい扉が備えつけられた建物であるが、オウギは閉じられているところしか見たことがない。しばしの間、オウギはワガイルカの返事を聞きながら書庫についての思いを巡らせていた。

21/3/7――本文22段落目の「適当に休んでいろ」という表現を「適当に休んでろ」に改めました。また、いくつかの句点を追加しました。

21/5/12――「浮遊の種子(ふゆうのしゅし)」という作中用語を「浮游の種子(ふゆうのしゅし)」に改めました。

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