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僕と君との迷宮攻略――序  作者: 御咲花 すゆ花
第一章――三つ子村
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三日目――迷宮(8)

 ミカズミは安堵していた。思っていたよりもリトガナの傷が深くなかったからだ。これならば手持ちの儀式だけで治療できるだろうと、速やかに詠唱(えいしょう)をはじめる。《天刑と天恵(スパイ=オア=スカイ)》の詠唱(えいしょう)異能(ギフト)の中で最も短く、型ごとに共通する節のみによって構成されたものである。

「大いなる存在に(おごそ)かに望む。いざ且々(かつがつ)と威光を知らしめよ。《天刑と天恵(スパイ=オア=スカイ)》」

 治療をおえたらその場で戦闘に参加する。イリオやタヤであればそのまま離脱という形を取るが、ミカズミの場合には次の治療に備えて儀式を獲得しなければならない。直前に使用した《賞罰のための儀式(リーアパイト)》の効果はまだ残っている。新しく異能(ギフト)を使うことはせず、目についた魔物(まもの)から順に短剣(ダガー)損害(ダメージ)を与えていく。

 あくまでも《賞罰のための儀式(リーアパイト)》の効果は短剣(ダガー)を用いて魔物(まもの)の体力を減らすことに要点がある。ミカズミ自身が魔物(まもの)最優先攻撃目標(ターゲット)に選ばれる必要は全くない。下人(ムルイ)たちとすでに交戦状態にある魔物(まもの)を横合いから少しずつ切りつけていくだけでいいのだ。そのほうが危険も少なく、ミカズミにとっては都合がよい。それは周りにいる下人(ムルイ)たちも承知していることであるために「優先です」と声をかけながら短剣(ダガー)を振るうミカズミに気を悪くする者はいない。

 ほどなくして、《賞罰のための儀式(リーアパイト)》の効果が切れると、ミカズミは治療者(ヒーラー)の定位置に戻っていった。



 以降の戦闘は順調に進んだ。やはり手練れ二人が戦闘に直接参加するようになったことは大きい。安心感はもとより、本人たちに余裕があるので周りの下人(ムルイ)たちにもきちんと目を向けることができるからだ。言うまでもなく、疲弊している下人(ムルイ)たちをマシミやギラクサと変改(チェンジ)させているので、攻撃役においては(ひと)とおり全員が魔物(まもの)と戦ったことになる。一方、見ているだけであったオウギも初めてということもあり、疲れて段々と注意が散漫になって来ていた。

 バシハが口を開く。

「オウギ、そろそろ【撤退(てったい)】の準備をはじめるぜ」

 すでに、第五(ウェーブ)も中盤。あと数分もすれば東側の経路(ルート)での戦闘は終了するだろう。そうなれば数人の下人(ムルイ)たちだけを別の経路(ルート)へと送り、残りを安全地帯(セーフティー=エリア)へとさげることになる。先述したように、出現(しゅつげん)した魔物(まもの)はすべからく安全地帯(セーフティー=エリア)を目指すのであるが、このとき迷宮(ダンジョン)内に下人(ムルイ)がいるかどうかは魔物(まもの)の進向とは関係がない。そのため、下人(ムルイ)側が迷宮(ダンジョン)を出る頃合い(タイミング)は自ずと幕間(インターバル)に限られる。(ウェーブ)はその性質として迷宮(ダンジョン)内に下人(ムルイ)がいなければ進行しないので、上手(うま)撤退(てったい)できたならばそのあとのことは考えなくてよい。迷宮(ダンジョン)が元の状態に戻ってしまうことはバシハの言ったとおりである。くどいようだが、すでに出現(しゅつげん)した魔物(まもの)については元の状態云々(うんぬん)埒外(らちがい)だ。

 オウギは思う――そういえば、なんで挑戦(ちょうせん)は第五(ウェーブ)までなんだろう?

 浮かんだ疑問をオウギが尋ね、バシハがそれに答えた。

「第六(ウェーブ)から、ちょっと難しくなるんだよ。だから、手練れが少ないときの挑戦(ちょうせん)は第五(ウェーブ)でおしまい。――っていうわけで、ダヨト! ネミガナを手伝いつつイリオに『(やぐら)へ戻るように』伝えてくれ」

 返事をして()けだしていくダヨトを横目にオウギがさらに尋ねた。

「ネミガナって?」

「今日の回収役だよ。ずっと行ったり来たりしていた下人(ムルイ)がいたろ?」

 言われて、オウギも思い出す。合点がいったとばかりに、オウギがうなずいていると、バシハが忘れていたことを言うように「撤退(てったい)のときも走()ぞ」とつけ加えた。思わず、オウギが嫌そうに顔を(ゆが)ませ、それを見たバシハは微苦笑を浮かべながら口を開いた。

「――ったくしょうがねえな。最後まで俺はいなきゃいけねえから、イリオと一緒に戻れ」

 オウギが「ごめん」と謝っているうちにイリオが(やぐら)へと戻って来た。バシハがイリオに「オウギを安全地帯(セーフティー=エリア)まで連れていくように」と伝え、その間にオウギは階段をおりていった。待っていたイリオに向かってオウギが謝罪の言葉を口にし、歩くように促すも、イリオはにっこりと笑みを浮かべたまま動かない。何事かと思って見てみれば、イリオの両手が物資の入った袋で(ふさ)がっている。言わんとすることを察したオウギが「か、片方は持つよ」と口を開くと、あろうことかイリオは両方の袋を差し出して来た。

 選べ。

 片方の袋は見るからに軽そうであり、もう片方は飲料などが詰められていて明らかに重そうである。少しだけ泣きそうになりながらオウギが自発的に重そうな袋をつかもうとすると、(こら)えきれないとばかりに「くすくす」と悪戯(いたずら)っぽく笑ったイリオが重そうな袋を自分のほうに引っこめた。

 イリオが口を開く。

「そっちでいいよ」

 オウギがお礼を言うと、二人は安全地帯(セーフティー=エリア)へと向かって歩きはじめた。ほどなくして、二人は安全地帯(セーフティー=エリア)へと到着した。()を置かず、東側で戦っていた下人(ムルイ)たちのうち、幾人かも安全地帯(セーフティー=エリア)へと戻って来た。その中にはリトガナの姿も見える。本来であればリトガナ自身は迷宮(ダンジョン)に通じているために戦闘地帯(バトル=エリア)でまだ戦っているはずであった。だが、今日は違う。先述したように、怪我(けが)をしたので、念を()れての計らいである。

 てきぱきとリトガナが指示を出していく。万が一、撤退(てったい)に失敗した場合に備え、戻って来ている下人(ムルイ)たちの中でも武術に()けた者をとどめ、そのほかの下人(ムルイ)たちは迷宮(ダンジョン)の外へと向かわせる。その際、迷宮(ダンジョン)側の入口に連絡のための下人(ムルイ)を二人残しておくことが通例である。この二人は迷宮(ダンジョン)を出る下人(ムルイ)たちの人数を数え、挑戦(ちょうせん)の参加者が全員きちんと撤退(てったい)できたかを確認する役をもかねている。

 リトガナが口を開く。

「ギラクサ、それにオウギは入口のそばで待機してください。この場には野生とイリオが残ります。そのほかのみなさんは撤退(てったい)です。それでは」

 物資を持ったギラクサが無言のまま移動する。あとについていくようにオウギもまた物資を迷宮(ダンジョン)の外へと運んだ。()を置かず、迷宮(ダンジョン)の中へと立ち返るギラクサにつづいてオウギも安全地帯(セーフティー=エリア)へと移動する。オウギが「これから何をするのだろうか」と思いながら入口の壁にもたれかかっていると、小さな声でギラクサが口を開いた。

「人数を数えるの。全部で十九人。だれも残っていないことを確かめる」

 理解したことを伝えるためにオウギは軽くうなずいた。その間にも、幾人かの下人(ムルイ)たちが迷宮(ダンジョン)から物資を持って撤退(てったい)していく。しばらくして、西側の経路(ルート)においても出現(しゅつげん)していた魔物(まもの)のすべてを倒しきった。残りは中央の経路(ルート)のみである。



 最終的に中央の経路(ルート)で残っていたのはボクノヤミとモイとワガイルカとの三人であった。魔物(まもの)の数が減ってきたことを確認すると、足が一番速いワガイルカを残して二人が安全地帯(セーフティー=エリア)への退却をはじめた。

 走りながらモイが詠唱(えいしょう)をはじめる。

「大いなる存在に()して祈る。波打つ夕映(ゆうば)え――恋の淵(こいのふち)玉響(たまゆら)で聞き()諫めの鼓(いさめのつづみ)口蜜腹剣(こうみつふくけん)――()れらかに(つた)(ひめ)人形劇(にんぎょうげき)――紫紺(しこん)――これをもって(わざ)とする」

 詠唱(えいしょう)が終了するやいなや、モイのそばに突如として紫色の甲冑(かっちゅう)を身に着けた剣士が二体現れた。モイの【眷属(けんぞく)】である。すさまじい速度で移動するやいなや、剣士はワガイルカの加勢をはじめた。ほどなくして、ワガイルカが最後の個体を倒しおえる。それを確認したバシハが笛を二度鳴らした。極めて長いものが一回、次いで短いものが三回。迷宮(ダンジョン)内に撤退(てったい)の合図が響いた。

 少しして、オウギとギラクサとの目にもバシハたちの姿が確認できるようになった。オウギへと向きなおったギラクサが視線で「何人か?」とオウギに尋ねる。「十九人」と答えたオウギにうなずきを返し、ギラクサとオウギとの二人も迷宮(ダンジョン)の外へと出た。

 全力疾走ではじまった挑戦(ちょうせん)は同じように下人(ムルイ)たちの全力疾走で幕を閉じた。

21/3/6――一部の漢字に振り仮名を追加しました。また、本文12段落目を大幅(おおはば)に変更しました。また、いくつかの読点を削除しました。

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