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僕と君との迷宮攻略――序  作者: 御咲花 すゆ花
第一章――三つ子村
14/28

三日目――迷宮(2)

※新たに以下の作中用語を設けました。

出現(しゅつげん)魔物(まもの)迷宮(ダンジョン)内に現れること。初出は「三日目――南の村(1)」。

ご迷惑をおかけします。 御咲花すゆ花

 バシハが口を開く。

「オウギ、中央の経路(ルート)は攻めあぐねている感じがするよな」

 言われて、オウギは下人(ムルイ)たちと(かぶと)の集団との戦いに目を向ける。

「う~ん……うん。そうだね。あれがさっき言ってた『(かぶと)』ってやつかな――防御力が高いっていう」

「そのとおりだ。応援の合図はされてねえけど、念のためにダヨトを加勢に向かわせよう」

 戦線で戦う下人(ムルイ)たちから(やぐら)へと送られる合図は二種類である。一つはバシハの言った火力支援であり、もう一つは救援支援である。火力支援の合図は自身の武器を高くあげて得物の先で小さな円を描くように武器を回すことで、救援支援の場合には同じように高くあげた武器を左右に大きく揺らすことが合図となる。どちらの場合であっても、戦線から(やぐら)までは直接声が届かないのでこのような形になっているのである。逆も同じであり、(やぐら)から戦線に指示を与える場合にも指揮官の声が直接届くわけではない。言わずもがな、そのための伝令役である。ただし、伝令役を介した指示は正確ではあるものの、戦線に内容が伝わるまでにはどうしても時間がかかる。緊急の要件ではそのような時間さえ惜しいために手早く合図を送ることができる笛が使われるのだ。例えば、(ウェーブ)の開始を知らせるときである。言うまでもなく、(ウェーブ)(ウェーブ)との間にはいくらかの中入(なかい)りが存在している。そうでなければ魔物(まもの)(まと)まりを数で示すことは難しいだろう。そして、この【幕間(インターバル)】がいつ開けたのかということを知るのは、現に戦線で戦っている下人(ムルイ)たちであっても意外と難しい。これには常滑(とこなめ)の構造と(ウェーブ)の仕組みとが関係している。詳しく見ていこう。

 (ウェーブ)の終了は該当の(ウェーブ)におけるすべての魔物(まもの)出現(しゅつげん)することであり、これには例外が存在しない。その一方で、(ウェーブ)を進行させる引き金となるものは多くの場合該当の(ウェーブ)におけるすべての魔物(まもの)を世界に回収させること――すなわち、倒しきることである。先述したように、常滑(とこなめ)戦闘地帯(バトル=エリア)は見通しが悪く、また、魔物(まもの)は各経路(ルート)に分散していてそれぞれの経路(ルート)もまた互いに離れている。言い()えれば、常滑(とこなめ)は戦線の下人(ムルイ)たちが互いの経路(ルート)の状態を知ることが困難な構造となっているのだ。したがって、各経路(ルート)にあっては目の前の魔物(まもの)を倒しきることが必ずしも(ウェーブ)を進行させることを意味しない。自分たちとは別の経路(ルート)にいる魔物(まもの)が該当の(ウェーブ)における最後の個体である可能性が十分にあるからだ。

 そこで重要になって来るのが幕間(インターバル)の終了を知らせることである。幕間(インターバル)は先述した変改(チェンジ)交代(リリーフ)を行うほか、ちょっとした休憩にも使われている。挑戦(ちょうせん)攻略(こうりゃく)の間ずっと緊張した状態を保っておくことなどできないからだ。そうした緩慢(リラックス)な状態と緊張した状態との切り()えを促し、次の(ウェーブ)がはじまった際に魔物(まもの)から不意を突かれないようにするための工夫が笛なのである。これは控えの下人(ムルイ)たちにおおよその状況を知らせる意味も兼ねている。笛の音は戦闘地帯(バトル=エリア)だけでなく安全地帯(セーフティー=エリア)へも届くからだ。現に以前、オウギが耳にした連続する三つの短い笛の音は第三(ウェーブ)の開始を意味するものであった。

 バシハが待機している伝令役を(やぐら)の足元を(のぞ)きこむようにして見た。入念に準備運動(ストレッチ)をしているマーギスタに向かってバシハが叫ぶ。

「ダヨト!」

 名前を呼ばれたダヨトが顔をあげてバシハを見た。ダヨトと目が合うと、そのままバシハは指示を口にした。

「中央に応援! そのまま西に向かって伝言『【ギラクサ】は離脱、(やぐら)へ』。できるなら西で回収も頼むわ」

『了解』と、そう答えて()けだしたダヨトであったが、胸のうちには「なぜ、この時間(タイミング)でギラクサを後退させるのか」という疑問を(いだ)いていた。経過した時間から考えて当分は幕間(インターバル)が来ないことは明らかであり、バシハがそれを見落としているとは考えにくいからである。

 だが、二歩目の足を地面から離したときには、ダヨトはすでに頭の中から余計な考えを捨て去っていた。ダヨトもまたバシハと同じく迷宮(ダンジョン)に通じている下人(ムルイ)の一人であり、油断が命取りになることを心得ているのである。

 バシハは中央の経路(ルート)へと向かうダヨトの姿を確認すると、今度はイリオに向かって口を開いた。

「イリオ……。たぶん、ギラクサは怪我(けが)してるわ。大した傷じゃなさそうだが、治療してやってくれ」

 静々(しずしず)とうなずいたイリオが「わかりました」と丁寧な返事をし、一方のバシハは状況をいまいち理解できていないオウギに向かって「怪我(けが)したときは本来なら自己申告だ」と口を開いた。オウギがバシハから救援の合図を教わっている間にダヨトが中央の経路(ルート)に到着した。ほどなくして、押され気味だった戦線が再びあがる。立ちなおったことを確認したダヨトが後退し、今度は西側の経路(ルート)に向かって走りだした。

 やがて、白緑(びゃくろく)色の髪をしたマーギスタが(やぐら)の足元に姿を現した。ギラクサである。背格好(せいかっこう)はオウギに似ているが、髪の長さはオウギよりも長く、タヤと同じで鎖骨にかかる程度である。ギラクサの付近にダヨトの姿は見えない。控えとギラクサとの変改(チェンジ)が行われるまで、西側の戦線を維持するために前方に残っているのだ。

 バシハがギラクサに向かって口を開く。低く冷たい声で端的に釘を刺した。

「ギラクサ、怪我(けが)したなら自分から言わないと駄目(ダメ)だろ」

 それを聞いたギラクサが傷を隠すように左腕をゆっくりと抑えた。自然な動作であったためにオウギにはわからなかったが、イリオにしてみれば一目瞭然であり、かすかに腕から血を流している。

『見抜かれた』と、そう自覚したギラクサが小さく下唇を()み、()いで「このくらいの傷なら――」と反論を試みるもバシハによって言葉の先を折られた。

「新人が見ているのにか? ギラクサ――お前は新しく迷宮(ダンジョン)挑戦(ちょうせん)するようになったオウギに対して『迷宮(ダンジョン)っていうのは怪我(けが)を負ってもそのまま頑張るものなんです』っていうふうに伝えたいのか――違うよな? 挑戦(ちょうせん)は安全が第一だったよな?」

 (やぐら)を見あげるようにして小さく上を向いていたギラクサの顔が徐々に(うつむ)いていく。ちょっと前の自分の行動を悔いるように小さく食いしばったギラクサが小さな声で「……ごめん。あたくしが悪かった」とつぶやいた。

21/2/14――副題を変更しました。旧題は「三日目――迷宮(5)」です。

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