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僕と君との迷宮攻略――序  作者: 御咲花 すゆ花
第一章――三つ子村
13/28

三日目――迷宮(1)

※お急ぎの場合はここからお読みください。

※この回から一話あたりの文字数が少なくなっています。

 迷宮(ダンジョン)を手前から入口・安全地帯(セーフティー=エリア)戦闘地帯(バトル=エリア)の順に区別してみよう。言わずもがな、前方が戦闘地帯(バトル=エリア)であり、後方が入口ないしは安全地帯(セーフティー=エリア)である。このとき、魔物(まもの)は原則的に戦闘地帯(バトル=エリア)の一番前から出現(しゅつげん)するわけだが、そうして出現(しゅつげん)した魔物(まもの)安全地帯(セーフティー=エリア)へと向かって動きだすまでにはいくらかの時間が存在している。したがって、挑戦(ちょうせん)および攻略(こうりゃく)においては戦闘地帯(バトル=エリア)の前方で戦うことが通説(セオリー)となる。これは挑戦(ちょうせん)においてはあまり大きな問題とはならないが、多くの控えを用意し、適切な異能(ギフト)を適切な頃合い(タイミング)で発動させながら長時間の戦闘をつづけなければならない攻略(こうりゃく)においては、それだけ現に戦っている下人(ムルイ)と控えの下人(ムルイ)とを()()える機会が多いので事故が起こりやすくなる。言うまでもなく、これは人数制限(にんずうせいげん)のために戦線を維持することが一時的に難しくなるからである。なお、戦闘地帯(バトル=エリア)にいる下人(ムルイ)安全地帯(セーフティー=エリア)にさげて行う()()えの場合は【変改(チェンジ)】、安全地帯(セーフティー=エリア)にいる下人(ムルイ)戦闘地帯(バトル=エリア)に押しあげて行う()()えの場合は【交代(リリーフ)】と呼ぶ。

 さて、(やぐら)の位置は戦闘地帯(バトル=エリア)の中ほどである。したがって、走る順番としては中央の経路(ルート)で戦う下人(ムルイ)たちの後ろになるが、走る距離で言えば(やぐら)へ向かう道筋は複雑であるために前方で戦う下人(ムルイ)たちとあまり変わらない。見通しの悪い戦闘地帯(バトル=エリア)の中を何度も転びそうになりながら、オウギは懸命にバシハの背中を追った。すでに見たように迷路の中は至るところに(こけ)()えているため、大変に滑りやすいのである。

 走っている間に中央の経路(ルート)で戦うミスヒたちと別れ、西側の経路(ルート)に接近し、そこからさらに()(えが)くようにして大きく迂回(うかい)しながら進んでいくと、ようやく(やぐら)へと到着した。息のあがったオウギの背中を二人の後ろからつき従うように走って来た伝令役のダヨトとイリオとが優しくなでる。まもなく、バシハが階段状の岩をのぼりはじめた。一瞬、それを見て嫌そうな顔を浮かべたオウギであったが「もう(ひと)踏ん張り」と気合を入れなおして階段に足をかけていく。あと少しで頂上というところで、オウギは伝令役の二人がついて来ていないことに気がついた。振り返って視線をさげるオウギの背中にバシハが「伝令役は下で待機だ」と声をかけ、うなずいたオウギがそのまま階段を()けあがって頂上に出た。

 広がる迷路。

 下にいたときとは打って変わって迷宮(ダンジョン)内を一望できることに驚いたオウギは思わず「わあ」という感嘆の声をあげた。バシハの「もうはじまっているな」という声に()られて指さすほうを見てみれば、たしかに東側の経路(ルート)下人(ムルイ)たちが交戦している様子が見てとれる。敵となる魔物(まもの)は長い胴体を持った(ヘビ)のような魔物(まもの)であり、オウギが「どうやらあれが(うろこ)らしい」と思いながら目を細めて見ていると、その前方に(うろこ)とは異なる魔物(まもの)出現(しゅつげん)した。教え顔(おしえがお)をしたバシハが「毛玉(けだま)だな」と口を開く。

 バシハがつづける。

「今現れた毛玉(けだま)は経験的に西側の経路(ルート)を通ることがわかってる。見ててみ」

 オウギは思う――あれ? そういえば、僕のもう一つの異能(ギフト)って魔物(まもの)の進路を予測するものじゃなかったっけ?

 心ここにあらず。(うわ)の空で迷路の魔物(まもの)を見つめるオウギの肩を軽く揺らしながら、バシハが心配そうな表情で口を開いた。

「どうした、オウギ。大丈夫か?」

 我に返ったオウギが慌てて「あっ、うん。ごめん」と謝罪の言葉を口にした。それから()を置かず、バシハの言ったとおりに毛玉(けだま)が東側の経路(ルート)から外れて西側の経路(ルート)へと進路を変更した。安全地帯(セーフティー=エリア)へと向かって斜めにのぼって来る一匹の毛玉(けだま)は西側で交戦している下人(ムルイ)たちとは離れているため、このままでは戦線を突破されてしまう。オウギが「どうするのか」と思って見ていれば、いつの()に移動したのか、毛玉(けだま)の進路に立ちはだかるようにようにしてワガイルカが武器を構えていた。ワガイルカが華麗に動き、真珠(しんじゅ)色の髪が美しくなびく。あっという()毛玉(けだま)が倒され、亡骸(なきがら)が世界に回収された。そして、それと同時に亡骸(なきがら)が回収された辺りに突如として下人(ムルイ)たちが着ているような衣類が一着現出した。その現れ方からして衣類は魔物(まもの)の体内にあったものではない。どう考えてもそれは勝手に現れたのである。戦線へと戻っていくワガイルカをオウギは呆然と見つめた。

 オウギは思う――物資を得るって言葉どおりなの……?

 でたらめな世界の仕組みにオウギは困惑を隠しきれず、すがるようにバシハのほうを振り向いた。オウギの表情から言わんとすることを察したバシハが口を開く。

「物資に関するボクノヤミの説明はかなり大雑把だぜ。実際は、魔物(まもの)が物資を落とすわけじゃねえんだ。魔物(まもの)の体をいくら探したって物資は出て来ねえ。あくまでも物資は魔物(まもの)が世界に回収された反動で現れるもんなんだよ」

 毛玉(けだま)から得られる物資である日用品は一口に日用品といっても実に様々である。衣類はもとより食器や家具、()ては資材までもが毛玉(けだま)由来である。正確には毛玉(けだま)から得られるわけではないことは(まさ)しくバシハの指摘したとおりであり、魔物(まもの)を世界に回収させることができるならばあえて倒す必要はない。もちろん、そのような方法は一部の異能(ギフト)を除けば存在しないのであるから、結局は倒してしまう以外に方法はないことになる。なお、魔物(まもの)は知能を持たず、よって人格はなく、痛みを感じるような器官を有していないので精神的・肉体的を問わずあらゆる苦しみとは無縁である。

 しばらくして、東西の経路(ルート)(かぶと)の集団が出現(しゅつげん)した。互いに交戦状態に入るが、西側の下人(ムルイ)たちは少数の(かぶと)と戦うだけで残りを放置している。放置された(かぶと)の集団が戦線の正面に沿って中央の経路(ルート)へと移動していき、時を同じくして毛玉(けだま)が再び東側の経路(ルート)出現(しゅつげん)した。合わせるようにワガイルカが後退。(やや)遅れて今度は直接西側の経路(ルート)にも毛玉(けだま)出現(しゅつげん)した。

 (かぶと)の集団と中央の経路(ルート)にいる下人(ムルイ)たちが交戦を開始し、まもなく、膠着(こうちゃく)状態に(おちい)る。以降も定期的に(かぶと)毛玉(けだま)とが東西の経路(ルート)出現(しゅつげん)しているので、ほかの経路(ルート)からの加勢を得られない中央の下人(ムルイ)たちが(かぶと)(さば)ききれなくなるのは時間の問題であった。

21/2/6――新たに「出現(しゅつげん)」という作中用語を設けました。これに伴いまして、本文の一部の表現を変更しました。また、一部の漢字に振り仮名を追加しました。また、本文1段落目の「多くなるので事故が起こりやすい」という表現を「多いので事故が起こりやすくなる」に改めました。

21/2/7――本文3段落目の「()(えが)くように」という表現を「()(えが)くようにして」に改めました。また、本文11段落目の「安全地帯(セーフティー=エリア)へ向かって斜めに」という表現を「安全地帯(セーフティー=エリア)へと向かって斜めに」に、「亡骸(なきがら)が世界に回収される」という表現を「亡骸(なきがら)が世界に回収された」に改めました。また、本文16段目の「西側の経路(ルート)は少数の」という表現を「西側の下人(ムルイ)たちは少数の」に、「移動していく。時を同じくして」という表現を「移動していき、時を同じくして」に改めました。

21/2/14――副題を変更しました。旧題は「三日目――迷宮(4)」です。

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