4話 初戦闘
本日2話目となります。
東門と呼ばれている大きな門をくぐると、どこか呑気そうな守衛に「気をつけるんだよー」と声をかけられた。ゲーム的に考えて、この辺りには強大な魔物もおらず平和なのだろう。軽く会釈して前を通り過ぎ、ついに街の外までやってきた。
「おぉ……」
現実世界ではお目にかかることがないような景色に、思わず声が出てしまう。
前方には優しい緑色をした草原が見渡す限り一面に広がっていた。そして正面には先ほどまで通ってきた道と同様、真っ直ぐ幅広い道が眼前の草原を切り裂くように伸びていた。ここを進むと別の街にたどり着くのだろう。どれだけかかるかはわからないが、まだまだ未知の世界が続いていることに胸の高鳴りを覚える。
また草原の左右へと目を向けてみれば、遠くにおそらく森と思われる木々が広がっていた。【遠視】のレベルが上がればもっと鮮明に見えるようになるのかもしれないが、まだレベル1なのでぼんやりと見える程度なのが少しもどかしい。もしレベルが上がればそのうち遠くに大きな山なんかも見えるかもしれないと思うとできる限り早くレベルが上がって欲しいと感じてしまう。
「……よし。剣と盾、出してみるか」
半ば呆然としつつ景色を堪能した後、小さくそう呟いて先ほど見つけた装備をインベントリから取り出すことにした。もう少し先に進んでから出してもいいのかもしれないが、魔物が急に襲い掛かってきた時にまず逃げなくてはならないことを考えると今出すのがベストだろう。
コンソールからインベントリを開き初心者用片手剣に触れると『情報』『実体化』の2つが表示される。まずは性能チェックだろうと情報に触れてみれば、現れた画面には四点、ゲーム内で初見の情報が書いてあった。
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【初心者用片手剣】
初心者に与えられる片手剣
使いやすいが長く使うものではない
カテゴリー:片手剣
等級:コモン
装備要求:なし
重量:5
《効果》
物理攻撃力:8
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まず一つ目が『カテゴリー』で片手剣と、二つ目は『等級』というもので、この片手剣の等級はコモンらしい。おそらく1番等級が低いものがコモンなのだろう。
三つ目が『装備要求』で、この片手剣の場合何もないらしい。今までの奏汰の遊んできたいくつものゲームから考えれば、特定の値がいくつ以上ないと装備できないだとか、そういった制限をかける項目なはずだ。
最後の四つ目は『物理攻撃力』が8となっていた。しかしフルダイブゲームである以上、攻撃した部位や振り下ろす速度など様々な要素によって与える威力が違うというのは容易に想像がつく。ゆえに、あくまで武器性能の目安として見ておくべきだと奏汰は判断した。
なお、ステータス画面に書いてあったため装備に重量があることは分かっていたので『重量』という項目があることに別段驚きはない。この片手剣は5と書いており、現在のステータスで装備しても何も問題はなさそうだった。
情報を閉じ、今度は『実体化』に触れると、俺の目の前の中空に片手剣が現れた。
刃渡りは70センチほどだろうか。鞘に入っているが、おそらく形からして両刃のようである。
片手剣のグリップを握るとズッシリとした重さがある。この剣でもってこれから魔物と戦うのだと思うと気分が高揚してしまう。
片手剣を腰につるし、次は初心者用小盾の情報の確認だ。
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【初心者用小盾】
初心者に与えられる盾
使いやすいが長く使うものではない
カテゴリー:盾
等級:コモン
装備要求:なし
重量:3
《効果》
物理防御力:6
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こちらも等級はコモンで装備要求はなし。それから『物理防御力』が6に重量がわずか3だ。情報を閉じて実体化させるとやや小さな丸い盾が出現し、裏側には腕を通す輪があったため左腕に装着した。
これでようやく戦闘準備完了だ。
さて、しばらく歩いて魔物を探してみよう。
◇
「ん……?」
しばらく道なりに周囲を観察しつつ歩いていると、ふいに何か生き物がいる気配を覚えた。おそらく気配察知の効果が発動したのだろう。気配のする草原の奥へと視線を向けてみれば、奏汰からはまだ少し離れた位置で生き物らしき何かが僅かに動いていた。魔物だろうか。
身をかがめつつ慎重に近づいてみると、ややグレーな体毛をしたウサギが1匹だけのようだ。いや、見た目はウサギだがそれにしては少し大きい。身長がはゆうに30センチ以上はあり、低い草から大きく体がはみ出してしまっていた。普通の動物と違い、魔物は大きいのかもしれない。
魔物と動物の見分け方はどのようになっているのだろうか。まあ調べればわかることだろう。街に戻ったら確認しようと思いつつまたソロリソロリと近づいていった。
残りあと数メートルというところまで来ると、急にウサギが周囲をキョロキョロと見回しだした。匂いか音か、何が原因かはわからないがどうやら敵──つまり俺がどこかにいると勘付いたらしい。
そして、逃げるつもりか襲ってくるつもりかはわからないが、まだこちらの位置が分からないのであれば一気に襲い掛かったほうがよさそうだ。
「うぉおおおっ!」
足に力を籠めて一気に駆け出し、雄叫びを上げながら右手に持った剣をそのままウサギへと突き立てる。剣が肉を切り裂く感触が手に伝わり、鳥肌が立つような感覚がするが気にしている場合ではない。切り裂かれたウサギが大きくプウウとうめき声を上げて暴れ出すが、そこからさらにもう一撃。
次第にウサギの声が小さくなり、息絶えると同時にわずかに光を放ちながら消える。そして消えたと同時にピロンと小さく音が鳴り、その場にドロップアイテムの画面がポップした。
「よしっ! やった! 初討伐だ!」
右手に剣を持ったまま、思わずガッツポーズしながら歓声を上げる。初めての魔物の討伐に、テンションが上がらないわけがなかった。今まで何度も実際に戦ってみたいと思っていて、それがついに実現したのだから当然だ。
30秒か1分か、ひとしきり興奮した後、右手に持ったままであった剣を腰に提げた鞘にしまい、ドロップアイテム画面を見る。
落ちたアイテムはグラスラビットの肉が2つとグラスラビットの魔石が1つだった。表示されたアイテム名に触れるとインベントリへ移ったようで、全て回収するとドロップ画面が自動的に閉じていく。
この画面を見る限りどうやら魔物討伐自体ではお金は手に入らないようだ。ゲームによっては敵がお金を落とすパターンもあるのだが、どうやらEDDAは違うようである。
どうせ手に入れたアイテムを売ればお金になるのだ。そこまで気にする必要はない。どちらかと言えば今手に入れたアイテムが何に使えるかの方が大事なはずだ。
インベントリを開きグラスラビットの肉を選択、『情報』に触れると情報画面が現れる。
そこには簡潔に『グラスラビットの肉。料理素材』と書かれていた。
キャラメイク時の大量に並んだスキル、その中の生産スキル群の中に【生産《料理》】があったはずなので、その素材として使えるのだろう。
正直あってもなくても変わらない情報だったが、本番は次の魔石だ。こちらは錬金素材のはずだと勘が訴えていたのだ。
期待しつつグラスラビットの魔石の情報を開く。
「よしっ!」
思わず声が上がる。画面に『グラスラビットの魔石。錬金素材』と書かれていたからだ。
流石に声を上げてしまったのはまずいと周囲を見回すが、どうやら近くに他の魔物はいなかったようで襲ってくる気配はない。そして、そういえば【気配察知】スキルがあったじゃないかと思い直し、改めて画面を見つめた。
まだ街での情報収集もしていないし錬金スキルも確認していない。そのためまだ魔石が錬金にどう使えるのかはさっぱりわからないが、少なくとも序盤に手に入るアイテムなのだから軽く調べればわかるはずだ。
先ほどの魔物の見分け方含め、錬金についても頭の中のToDoリストに入れておくことにした。
そして結果の確認を終えたのなら、また次の獲物探しだ。
今回は剣で倒したが、次は魔法も使ってみたい。現実時間の昼まではまだ時間もあるし、このまましばらく狩りを続けていいだろう。