3話 ステータス
ロイと話を終え東門に向けて再度歩みを進めた俺はふと足を止めた。流石に現在の状態を確認せずに外に出るのは問題だと思ったのだ。
そうとなれば東門につくまでの間にステータスや所持品について確認しておく必要がある。
右手の人差し指を前に出してスッと右に動かすと、指に沿うように僅かに透明感のある白色の画面が空中に現れた。これはフルダイブ機能全般で用いられているコンソール機能だ。俺の場合ゲーム選択前のあの『ホーム』で経験済みのであったため、違和感なく開くことができた。
EDDAでのコンソールは上から、『ステータス』、『スキル』、『インベントリ』、『フレンド』、『パーティ』、『マップ』、『実績』、『設定』、『ログアウト』と表示されており、ここに触れると各項目を確認できる仕組みとなっているようだ。また、公式サイト曰くログアウトの項目は安全地帯以外ではグレーアウトされるとのことで、唯一、フルダイブ装置側でバイタルに異変有りと判断した際の緊急ログアウトは可能らしい。
ゆっくり東門へ向けて歩き出し、上から順に確認していく。
一番上に表示されている『ステータス』を人差し指でそっと触れると縦長のステータス画面が表示された。
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名前:カナタ
種族:ヒューマン
クラス:ソードマン
称号:なし
リスポーンポイント:ライア
現在値/最大値/自然回復量
HP:13/13/1
MP:9/9/1
【能力値】
魔力:5
筋力:5 体力:4
知力:4 精神:4
器用:4 敏捷:4
【装備】
初心者用布の服
初心者用皮の靴
現在装備重量:3
装備可能重量:20
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ステータスはなんら問題なくキャラメイク通りとなっていた。
外見を除き、キャラメイク時に決められる項目は全部で五つある。
まず一つ目が名前。
長方形のステータス画面、その一番左上に『名前』と書かれた枠があり、そこには俺の設定した通りカナタと表示されていた。先ほどロイに名乗った通りであり奏汰の読み方を変えただけのものだが、今までゲームで操作キャラの名前に使ってきただけあって俺にとって愛着がある名前だった。公式サイトにプレイヤーの名前は重複禁止と書かれていたため、俺がキャラクターを作成した時すでに誰かに取られていないかとヒヤヒヤしたものだ。
名前欄の下には『種族』と書かれた枠がある。キャラメイクで設定する二つ目だ。
この世界にはヒューマン、つまり人間以外にも様々な種族が存在する。各種族にそれぞれ得手不得手があるほか、キャラメイク時点での習得可能なスキルが違ったりするのだが、俺はヒューマンを設定した。一番平均的で大きく欠点のない種族がヒューマンであり、せっかく自由度の高いゲームなのだからいろいろ手を出してみたいと考えたのだ。
名前と種族欄から数列下には『能力値』が記載されており、これが三つ目だ。
能力値は魔力、筋力、体力、知力、精神、器用、敏捷の7つあり、例えば魔力であれば最大MPや魔法攻撃の威力に影響があるなどする。
当然、具体的なダメージ計算式が公表されているわけでもなければ、そもそもフルダイブゲームなのだから攻撃が当たる位置で与えるダメージが変わることは容易に想像がつく。そのためあくまで目安程度に考えていたほうがいいだろう。
割り振れる値は合計30ポイント。一か所につき最大6までの制限付きとなっており、俺は順に、5,5,4,4,4,4,4とかなり平均的に設定した。
四つ目のスキルはステータス画面とは別画面となっているので一度置いておくとして、最後五つ目がスポーンポイントで、俺はこの街【ライア】を選択したわけだ。
しかしながら、ステータス画面には俺の設定した覚えのない項目がいくつかあった。
まず、名前および種族の下には『クラス』『称号』『リスポーンポイント』と上から順に表示されている。そしてそれぞれの枠には『ソードマン』『なし』『ライア』と書かれていた。
リスポーンポイントについては初期状態ではキャラメイク時に選択したスポーンポイントと同じ場所が設定され、称号についても今後入手時に変更可能になると考えて間違いなさそうであったが、クラスについては間違いなく俺の意思とは別に設定されたものだろう。
所持スキルで自動的に設定されるのであれば、現在の俺のスキル構成では剣士系か魔法系か判別がつかないはずなのだ。一体どのような仕組みで設定されているか俺には見当がつかなかった。
リスポーンポイントの下は、1行分の空白をあけてHPとMPが記載されていた。左から順に現在値、最大値、自然回復量が記載されており、HPは13,13,1と、MPは9,9,1となっていた。おそらくこの値は能力値から計算しているのだろう。
その後、属性耐性やら移動力、装備重量などといった様々な項目に目を通していく。とはいえあまり時間を無駄にするわけにもいかないため、数分ほどで確認を終えるのだった。
ステータス画面の確認が終わり、次は『スキル』画面だ。
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武器熟練《片手剣》:Lv1
防具熟練《盾》:Lv1
魔法熟練《火》:Lv1
魔法熟練《空間》:Lv1
遠視:Lv1
気配察知:Lv1
生産《錬金》:Lv1
採集《植物》:Lv1
暗視:Lv1
第六感:Lv1
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開くと先ほどより大きな横長な長方形の画面が現れ、キャラメイク時に選択した10個のスキルが表示されていた。
まず一つ目が【武器熟練《片手剣》】だ。スキル選択時の注意書きに『どのような遊び方でもどれか一つは武器熟練スキルを取得することをお勧めします』と記載されており、数ある中から選んだのがこれだ。
選んだ理由は簡単で、単純に使い勝手がよさそうであったことと、二つ目に選択した【防具熟練《盾》】との相性がよさそうだったからだ。
なお盾スキルを取得した理由は単純に魔物の強さがわからないのだから身を守る術はあったほうがいいと判断しただけである。
三つ目と四つ目は【魔法熟練《火》】と【魔法熟練《空間》】だ。せっかくゲームの世界に入って遊べるのだから魔法は必ず使いたいと考えていたこと、前者は攻撃その他活用範囲が広そうであること、後者については移動に便利そうだと判断したため、数ある魔法熟練スキルのうちこの2つにした。
五つ目と六つ目が【遠視】と【気配察知】の2つで、こちらは効率と安全を考慮して選択した。狩りや探索で便利なことは間違いなく、これは間違いなく取っておくべきだろう。
七つ目と八つ目が【生産《錬金》】と【採集《植物》】で、自己の強化と金策のためだ。
どのようなMMOでも金策というのは非常に重要で、これを疎かにして強くなることは不可能。中でも序盤から中盤に大きな後れを取るとそれを取り戻すには絶大な苦労を要するものだ。採集系の金策は終盤にはあまり役に立たないこともあるが、少なくとも序盤に役に立たないことは無いと思われる。そして、実際に使ってみて必要なければオープンテスト以降は選択しなければいいはずとの考えもあった。
九つ目が【暗視】で、これはゲーム内夜時間に遊ぶためだ。
夜時間が現実の日中に普通に訪れるのだから、その時間に何もできないというのは時間がもったいなさすぎる。これも必須だろう。
そして最後が【第六感】だ。
何故取る気になったかと言えば、公式トレーラーの遺跡探索時に発動したスキルがこれではないかと予想したからだ。また、もしそうでなくとも後からの取得が難しそうというのも理由の一つで、どちらにせよいざというときに役立ってくれると信じたいところだ。
ただ、このスキルはスキル説明文があまりにも簡潔だった。たった一言『第六感を得る』と記載されたのみであり、本当に取るかどうか最後まで悩むはめになった。しかし、あくまでクローズドテストであるし、最悪失敗だとしてもかまわないとすら思いつつ選択することにしたのだ。
選択通りとなっていたスキル画面にどこか満足しつつ他に何か確認できることはないかと画面に指を這わせていくと、スキルに指を合わせた際に変化があった。どうやらスキルに触れることでキャラメイク時に見ることのできた説明文、そして熟練系スキルの場合現在使用可能な武技または魔法を確認できるようである。
残念ながら武技はまだ何も使えないようで『使用可能武技:なし』と記載されているだけだが、【魔法熟練:火】と【魔法熟練:空間】はそれぞれファイヤーボールとショートテレポートが使えるらしい。
しばらくまだなにかないかと探した後、さすがにもうないと判断してスキル画面を閉じ、今度は『インベントリ』にそっと触れた。
するとまた別の画面が現れ、所持アイテムの一覧が目の前に映し出された。
「ああ……完全に忘れてた……」
俺はため息をつきつつ額に手を当てて独り言ちる。
インベントリにはアイテムが2つ入っていた。一つが初心者用片手剣、もう一つは初心者用小盾だ。
これから外に出ようというのに今の俺は剣も盾も装備しておらず、ただ初心者用布の服と初心者用革の靴を装備しているのみ。どう考えても舞い上がりすぎであった。
今後気を付けようと反省しつつ、外に出たタイミングで取り出せばいいのだし今この場で出す必要もないだろうと考え、一先ず先送りにして他の確認に移る。
画面の下部には所持金欄があり、現在の手持ちは5000ギルとなっていた。もし初期の所持金が0ギルの場合、戦闘を行うつもりのないプレイヤーが相当苦労することは容易に想像がつく。
1ギルがどのくらいの価値なのかはわからないが、生産職用の道具であるとか、素材を買える程度の最低限必要な額が5000ギルなのだろう。
『インベントリ』画面を閉じた後も各項目を順に確認していき、最後は『設定』だ。設定に触れると機能設定、通知設定、画面設定の3つのボタンが付いた画面がポップしてくる。
まずは邪魔な天の声をオフにしようと通知設定から触れ、ズラッと表示された一覧をスクロールさせていくと実績の通知という項目があった。当然オフにし、これで問題はないはずだ。
その後ゆっくり他の通知系の設定を見ていくとフレンド関係やワールドアナウンスの通知項目などがあったが、ひとまずこれらはオンのままにしておくことにした。
一度通知設定を閉じ、今度は機能設定を表示する。どうやら視界に映す機能のオンオフ、及び透明度が選択できるほか、痛覚設定もこちらで行えるようだ。
まず視界右上の時刻表示はそのままでいいとして、HPとMPの表示が可能だった。視界左上に表示するように設定して一度保存すると赤いバーと青いバーが現れ、赤の下には13と、青の下には9と表示されている。ほかの一般的なゲーム同様、HPバーが赤でMPバーが青色のようだ。
そして次に痛覚設定だ。現在の設定は痛覚30%で、最大で90%に設定できるようだ。
中学、高校の頃は柔道部に所属していたのである程度の痛みは慣れている。しかしそれは決して切り裂かれたりするような痛みでは決してない。
RPGである以上当然キャラクターが死ぬことだってあり得るのだから、それほどの痛みが襲ってくるのかもしれない。
けれど――
「せっかくだしな……」
せっかくのフルダイブゲームなのだ。痛覚、あってもいいんじゃないだろうか。もし嫌になったならその時にまた設定を変えればいいのだ。
痛覚を90%に設定し、画面下部の保存に触れる。すると、設定画面の前面にまた更に1つ、唐突に画面がポップした。何かと思って画面を見てみれば『体力が全快の時のみ変更可能です。よろしいですか?』との注意書きだった。
おそらく、痛みに耐えかねて変更する者を阻止するためなのだろう。確かにそれで変更できてしまうのはどこかずるいような、そんな気がしてしまう。
しかしいざ『承認』に触れようとすると俺の指がわずかに震え、どこか冷や汗が流れる感覚に陥る。絶対後で後悔すると、頭に警鐘が鳴り響く気すら感じる。
そして、数秒か、はたまた数十秒だったか、ゆっくりと息を整え、そっと『承認』に触れた。
機能設定はを閉じ、最後に画面設定を除いてみる。こちら色彩や視覚系の設定の項目だった。現実で視力が低い者や、色覚に異常がある者が現実とこちらとの差異で違和感を覚えるなどすることがあるらしく、その場合に変更する項目のようだ。幸い俺には関係がないため設定画面を閉じる。そして、これで全ての確認が終了した。
右手の人差し指を左に動かしてコンソールを閉じ、ふと顔を上げると奥には大きな壁がそびえ立っていた。魔物の脅威に対抗するために街の周囲には外壁が作られているのだろう。
そしてこの道の先、つまり正面には大きな門が見える。あれが東門だろう。
ついに街の外に進出だ。