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EDDA―エッダ―  作者: いるま
クローズドテスト
2/22

2話 EDDAへようこそ!

本日2話目投稿です。

『EDDAへようこそ!』


 キャラクターメイクの時に聞いた明るい声が頭に響き渡る。目を開けるとそこは石畳の広場だった。

 足元の石畳の形を見る限り、俺の後方を中心とするように円形に敷き詰められているようで、前方に見える広大なスペースの各所に木立やベンチとテーブル、今はまだ明かりは灯ってはいないものの街灯などが配置されていて、まさに憩いの場というにふさわしい光景だ。

 また遠くを見てみれば、おそらく2階建てくらいだろうと思われる洋風の建物が立ち並び、そのまま僅かに上を向けば青く澄み切った空が邪魔するものなど何もないかのように遥か遠くまで続いている。

 目の前に広がる景色と現実とはどこか違う新鮮な空気、そしてこれまたどこかから聞こえるジャバジャバという水の流れ落ちる音に、ついにゲームの世界に来たんだと思わず涙が出そうになってしまった。


 ふと、そういえばこちらも今は朝なのかと視界の右上の時刻を見ると『09:00:12』──つまり9時12秒と表示されていた。ゲームの世界では現実よりも2倍早く時間が進むため、現実の何時がこちらの何時に当たるのかとドキドキしていた。しかし今の時刻を見るに、どうやら現実の朝9時とこちらの朝9時は一致しているらしい。

 公式によれば、どのような仕組みなのかはさっぱりわからないが体感速度は双方一定らしく、こちらで2時間過ごして現実に戻ればまだ1時間しか経っていない仕様だ。この技術自体は近年医療などさまざまな分野で利用されていることもあって違和感自体はないのだが。



 一度落ち着き、またゆっくりと周りを見ると、俺と同じく開始時刻にポータルに乗っていたであろう人たちが続々と現れていく。彼らは3箇所ある開始地点のうち、俺と同じフレイア大陸の街【ライア】を選択したプレイヤーだ。

 使用しているフルダイブ装置がダイブボックスであるおかげで数瞬、こちらの世界に来るのが早かったのかもしれない。興奮したプレイヤー達の雄叫びにも似た声を聴きながらそんなことを思っていると、また頭に声が響き渡る。


『実績を更新しました』


 初ログインの実績か何かなのだろう。ただ、実績も気になるものの、今は周りの確認を優先したかった。

 まずは、と後ろを向くと、目の前には大きく立派な噴水があった。水の落ちる音の発生源は真後ろだったようだ。

 俺の3倍は高さがあろうかという噴水のその上部からは絶えず水がこぼれ落ち、朝日の反射により(きら)めいている。噴水があると言うことは、少なくともこの世界の人々は水に困ってはいないらしい。もちろん、この世界には魔法があるのだから当たり前ではあるのだが。


 噴水の更に奥にも広場は続いており、どうやらここはこの円形の広場の中心のようだ。奥に見える建物がかなり小さく見えることからも相当な広さがあると思われ、少なくとも人が詰まってしまって新規プレイヤーがログインできない、なんてことはなさそうだ。

 また広場の外周は道となっているようで、街中へと続く道が6本伸びていた。まだこの街について詳しくないため何とも言えないが、今いる広場は街の中心辺りにあり、6本の道がこの街の各所へ繋がっていそうだ。


 周りの光景に目を奪われつつ、歓声やら知り合いを探す声を上げるプレイヤー達の横を抜けて広場の外周までゆっくりと歩いて来てみると、遠くからでは分からなかったがかなり道幅が広かった。現実の車道2車線分以上はあるこの道は、もしかしたら馬車が通るのかもしれない。

 そして広場の外周の道とT字に繋がっている大きな通り、その角には木製の看板が立っていた。看板には『東門側』と書いており、この道の先は東門、つまり外へと繋がっているのだろう。

 他の道の先──この街全体の様子が気になるものの、魔物の生息する外にでるという好奇心が抑えきれずこの道を進むことにした。


 大通りを進みながら再びキョロキョロと周りを見ると、先ほどまで小さく見えていた洋風の建物の様子がよくわかる。それらはどれも石や木、そしてレンガで出来ており、なんとも異国情緒溢れた街並みだ。

 キャラクター作成の際に選べる開始地点3箇所は、その時点ではそれぞれの街についてほとんど情報が書かれてはいなかった。唯一わかるのは比較的容易に街から街への移動ができることくらいだ。そのため『なんとなく』でこの街を選んだのだが、他の街を見ていないにも関わらず、この街でよかったとそう思わせる光景だった。

 

 そしてこの通りを歩き出して数分ほど、正面から誰かが近づき、突然声をかけてきた。


「おっ! 兄さん、もしかして光の民か?」

「んっ? ああ、そうです。今日からこちらにやってきました。カナタといいます。」


『実績を更新しました』


 その男は俺より若干背が高く、少し日焼けした肌と、いかにも力仕事をしていますといった体格の持ち主だった。そんな男に突然話しかけられたことで少し動揺しつつ、返事をする。

 公式サイトにも書いていたが『光の民』とは我々プレイヤーのことであり、プレイヤーは『この世界にいると考えられている光の神が元々住んでいた世界』からの来訪者という扱いとなっている。ゲーム的に言えば『運営のいる現実世界』といったところなのだろう。

 服装はプレイヤーに配布されている初期装備とは見た目が全然違う上、なによりこの言葉がスッと出てくることからもこの男はNPCなのだろう。 そしてNPCとの初会話で実績が更新された、と推測できる。

 ただ、俺としてはこれから初めてのことをするたびにこの声が頭に響くのは嫌だと思ってしまった。なんせせっかくの現実とは違う──異世界なのだ。邪魔されずに楽しみたいというのにこれでは感動が薄れてしまう。後でこの声に関する設定を変更できるか絶対に確認しようと心に決めるのだった。


「そうかそうか! 俺はロイってんだ。よろしく。今日から光の民がたくさん来るって聞いてたんだけどよ、いざその日になって外歩いてたら周りをキョロキョロ見てる奴がいたからな! こりゃ間違いねえと思って声をかけたんだよ。お前さんら光の民と、良き隣人となれることを祈ってるぜ」

「こちらこそ。よろしく、ロイ」


 ロイが少しオーバーな身振りでそう話した後、ガッシリとした手を差し出してきた。そして差し出された手に対して俺も右手を出し握手を交わす。

 こちらの世界ではあいさつの基本は握手なようだ。もちろんこれが同性同士の挨拶の時だけの可能性もあるし、目の前の彼が特殊な可能性もあるが、少なくとも後者についてはわざわざそんなNPCを作るのかと言えば微妙なところであるし、その可能性は切ってしまってもよいだろう。


 そして、ロイのニカッとした笑顔を見つつ俺は次に発する言葉を考える。何を考えるかと言えば『良き隣人』というワードに対する回答だ。

 なぜかと言えば、間違いなくすべてのプレイヤーが良き隣人とはなれないからだ。もちろん俺としては良き隣人でありたいとは思う。しかし、全ての者がそうとは限らない。なんせプレイヤーは犯罪者にもなれると公式で記載があったくらいだ。そういった遊び方を進んでする者だって当然いるはずであり、俺が少しくらい伝えておいてもいいかもしれないと思うのもまた当然だろう。


「ただ、数は少ないと思うが悪い奴なんかもいるかもしれない。あとは、しばらくは慣習の違いとかからいざこざなんかが起きるかもしれないが……。悪いやつには容赦しなくて良いけど、慣習の違いについてはどうか暖かく見守ってくれると嬉しいかな」


「なーに! こっちもいいやつばっかじゃねえんだ。そこはお互い様よ!」


 まるでビシッという効果音が目に見えるような勢いで、ロイがサムズアップをしながらそう答える。どうやら彼らNPCも『光の民は善人だけでは無い』ということは分かっているようだ。

 ただ、サムズアップは現実の一部地域ではあまり良く無い意味を持っている気がするし、今後プレイヤーの多国籍化が進んだ時のことが不安にもなるのだが。


「助かるよ。お互い仲良くやっていこう。そうだ、この後この通りにもたくさん光の民が訪れるだろうから、もしよければ私に声をかけた時のように、気さくに話しかけてもらえるか?」

「おう! 言われずとも声をかけるさ! なんせ俺らもこの日を待ってたんだからな!」

「ありがとう。じゃあ、私は一度外に向かうからこれで。また会ったらよろしくな」

「おう! 東門ならこっからまっすぐに、もうちょっと先まで行ったとこだぜ! またな!」


 ロイが再びニカッと歯を見せながら笑い、俺も笑顔で軽く手を振り別れた。

 数歩進み、ああそうかと俺の体に何かがストンと落ちる感覚がした。ここはゲームの世界だ。

 しかし──

 彼の話し方や仕草は現実の人間のそれと何ら変わりがなかった。彼らNPCはここで生きているのだ、と。

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