異世界転生における思考回路の言語設定問題
気がついたら異世界に転生していた。
……まあ、最近では珍しくない現象らしいので、あんまり深刻には考えないことにする。
どうやら俺はどこぞの王国の騎士で、騎士団長であり姫に仕えている身分らしい。わりと転生ガチャ的にはアタリなんじゃなかろうか。こういう場合チートスキルがないと身分ってあんまり役に立たないとも聞くが。
状況としては、いままさに決戦の朝。俺は幕屋の中で準備を整えたところだった。鎧を着終わっていたのは助かる。正直、21世紀地球の日本人としての意識が確立してしまった現状で、板金鎧を装着するのは無理ゲーだ。
俺は自分の足が動くのに任せて姫の元へと馳せ急いだ。王国軍はすでに展開をほぼ完了させている。こちらと向かい合いに、地平の彼方まで大草原を埋め尽くしているのは、オーク軍団だ。連中は戦が大好きらしい。
本営直下の旗本騎士として俺の居場所はあった。姫のかんばせが十歩ほどの間近に見える。とびきりの美少女だ。うん、この転生はアタリ、そうに違いない。
旗指物と長槍を掲げているオーク軍団のほうへ、姫が開戦前の啖呵を切るべく口を開いた。
「聞くがいいオークども! われこそがドインラン・デ・ビッチナマンコ! エロスギオッパイの皇女であり騎士団長なり!」
「……ヴォファッ!!!?」
駄目だった。俺は地球時間にして3分半ほど、呼吸困難に陥って生死の狭間をさまよった。
「ぜぇっ、はぁっ……」
「だいじょうぶか? 急にどうしたのだ」
ひと心地ついて顔をあげると、姫が心配げに俺のことを見おろしていた。お優しいかただ。でも名前が……
「姫さま……その、ご芳名はいかなる意味でありましょうや?」
「なにをいうておる? 古代エロスギオッパイ語において、ドインランは『高貴な花』の意であり、デは『女性王族』を表し、ビッチナマンコは『飛竜の裔』のことではないか」
……な、なるほど。どうやら、異世界に転生したにもかかわらず、俺の脳内ではあいかわらず日本語で思考回路が形成されているらしい。
そりゃあ、地球にだってヤキマンコとかエロマンガとかが地名として実在するんだから、異世界であればエロすぎおっぱいのド淫乱でビッチなマ○コ姫だろうと、卑猥な意味とは無縁であってもなにもおかしくない。
……頭では理解できるんだけど。
「すみませんドインラン姫、自分は、オークどもになんと名乗って啖呵を切ればよろしいのでしょうか?」
「おぬし……頭でも打ったのか?」
呆れ顔の姫に、俺はあごを掻きながら応じる。
「じつは、今朝がたベッドから転がり落ちてしまいまして」
「しょうのないやつじゃなあ。おぬしの名は、ロリダイスキ・オマワリ・サン・コッツィーヨじゃぞ。自分の名くらいはちゃんと憶えておくようにな」
神さま、俺はこの世界でこの先生きのこれるかどうか、自信がありません……。