地上最強の猫、爆誕す!
寒いですねぇ、布団包まって、無線キーボードで書きました。
有馬の爺ちゃんの家は、自己所有の裏山があることからも分かる通り、山がいくつかある郊外にある。
半寝ぼけのアッコをリュックの様に背負えるケージに入れ、東京では大活躍だった折畳みチャリで出発しようとした俺だったが、今の俺のステに耐え切れず一漕ぎ目でチャリはぶっ壊れてしまった。
チャリに強化魔法かけときゃ良かった。
空を飛ぶ魔法具は持ってるし、ステ値に任せたダッシュでもあっという間だが、田舎町の朝は早い、人通りは少ないとは言え、目撃者は必須だし、被害者まで生んでしまうかもしれない。
駅前の「空」表示の看板見なくても空き具合が明瞭なコインパーキングにただ1台だけ停まってるシェアカーを借りると、有馬の爺ちゃん宅へ車を走らせる俺だった。
◆◆◆
「おう、有馬、引っ越しの時はサンキューな」
「お前、飯も食わずにあの後寝続けてたのかよ、大分痩せてんじゃねーか!」
そういや、召喚されてかなり体が引き締まったもんな。
筋肉ばっかなんで体重はそんなに減ってないんだけどな。
「裏山オッケー貰えた?」
「『いい年してまた秘密基地ごっこか?』って笑われたけどな? マジでなにすんの?」
「俺の見てくれも含めて説明すんから客人に茶の一杯も出してくれない?」
「なに、それ? ま、いいけどよ」
文句を言いつつも茶を淹れに行ってくれる。
婆ちゃん居た頃はこれに手作りのお菓子がプラスされてたんだけどなぁ……。
自分トコの婆ちゃんが死んだ時より泣いたぞ。
「ほれ、茶だ」
婆ちゃん仕込みで有馬の淹れる茶は美味い。
ああ、日本に帰って来たって実感がわいてきた。
◆◆◆
「かなり荒唐無稽な話なんでな? まずは見てもらおうか『ダンジョン・クリエイト!』」
爺ちゃん家のすぐ裏手、山の斜面に右手をかざし、呪文を唱えると脳裏に様々な項目の一覧とワイヤーフレーム画面が表示される。
モードはヘルで規模は最大、死亡時アイテム半減、12時間ステ値4分の1で出口送還。
形状はウィ◯ードリィタイプの石造りの迷宮。
ダンジョンボスは8時間でリポップのクリア時崩壊無しタイプのダンジョンで。
主観ではそこそこ時間をかけてるが現実では一瞬。
裏山の斜面にゲームなんかでお馴染みのダンジョンの入り口が形成される。
主なモンスターはメカ戦を想定してゴーレムで。
「え、え? なにこれ、こわい」
口元に両こぶしを当てて可愛ぶって言うが、八頭身パタリ□とも言うべき外見の有馬が言っても全く可愛くない。
おっと着電。
え?
女神?
「もしもし?」
「あ、タクナリさん♪ さっそくダンジョン作ったんですね。どうです? 上手くいきました?」
「はい、おかげさまで……世界越えても電話出来るんですね?」
「はい、なんか地球の神様からプレゼントということでタクナリさんに電話出来るスマホいただきまして、そちらの世界へ少しだけ干渉出来る様になりました!」
「(あまりに不憫だったからだろうな、地球の神GJ……でも今は侵略なんとかしろ!)元気になったみたいでなによりです」
「おかげさまで、この世界の人たちの顔にも笑顔が戻りましたし、亡くなった方も大勢出ちゃいましたけど、その方たちの分まで頑張らないとですもんね」
力こぶを作って見せているのだろう「ふんす」という愛らしい鼻息が聞こえる。
こんな状況でも癒されるな。
「こっちは戻ってもヘビーモードでして、ダンジョン作ってなんとかしようとしてるトコです」
「だ、大丈夫ですかっ!」
「まあ、直接被害を受けるレベルの相手じゃないんですけどね。目の前に来たらワンパンで倒せる相手ですし」
「無理はしないでくださいね。私に出来ることがあれば、なんでも言ってください!」
有難いが、こっちの神様がなんとも出来てない状況だしなぁ。
あ、もしかして?
「あの、俺がしてもらったみたいな転職って、こっちの生き物や人間に出来ますか?」
「ちょっと待ってくださいね…えっと、ここをこうして…あ♪ ステータスとかはいじれませんし、基本職だけですけど出来るみたいです!」
ダンジョンで鍛えても無職とクラス持ちでは伸びが違う。
基本職とは言ってもバカには出来ない。
カンスト当たり前のゲームとは違うのだ。
「じゃあ、ウチの猫お願いします!」
「アッコちゃんって言うんですか、美人さんですねぇ。撫でさせてもらいたいなぁ……あれ? アッコちゃん勇者選択出来ますよ?」
ま、マジか!
なにがあっても平気な様にパワーレベリングさせるの確定だったけど、クラスが勇者なら初期は厳しいけどカンスト近くなってからのステ上昇が凄いからな、これは勇者で行かせてもらいたい。
それにしてもやっぱウチの猫は凄いな!
「じゃ、アッコは勇者に転職でお願いします。あ、ついでに俺の友達もいいですか?」
「大丈夫ですよ」
「おい、有馬、戦士と盗賊と魔法使いと僧侶だとどれがいい?」
「ど、どれってなんだよ、それ!」
逆ギレすんなよ、おい。
選ばないと勝手に決めるぞ?
アッコの壁役として戦士に……。
うん、俺が勇者時代に使ってた装備品で釣って戦士を薦めることにしよう。
「これからこの出来立てのダンジョンに入ってもらうんだが、それに先立ってのクラス決めだ。無職とクラス持ちじゃ一番大きなステだと2倍くらい伸びが違うからな?」
「なんでダンジョン入るの確定なんだよ? そもそもダンジョン作れるってなに?」
「召喚勇者やって勇者カンストしてダンジョン・メイカーに転職した」
「召喚勇者って、どこのネット小説だよ!」
「異星からの侵略だって現在進行形だぞ?」
「そうだった……俺の日常、カムバック~!」
「で、ダンジョン入る理由だが、俺が異世界行く前の日本なら不要だったけどな、今の状況じゃ一般人のお前だと雑魚メカにすら殺されかねないから、ウチのアッコちゃんのついでにパワーレベリングしてやろうという心遣いだ」
「猫のついでって……。まあ話は理解は出来てないけど分かった。爺ちゃんはどうする?」
「ウチの親たちですらまだだしなぁ、実際、有馬からの電話に出る直前に異世界から帰って来たばかりなんだよ、実のトコ。今回はお前だけ、中はヘルモードにしちゃったから、人数増えると守り切れないかもだし」
「分かった……そのクラスの中だと僧侶か魔法使いかなぁ? 戦士や盗賊で生身で渡り合うってのも無理だろうし」
「いや、ステ上がればなんとかなるし、僧侶でもガチ殴り合い出来るよ? 魔法使いもステ的に貧弱とは言え、装備次第で前衛出来るし」
「お前、マジで異世界帰りなんだな。ゲームじゃない現実でその考え方はおかしい」
そうかなぁ? 自分では分からん。
元々、こういう人間だったと思うんだが?
「やっぱ魔法使いだな」
「戦士なら俺が勇者やってた時の伝説級武器とかもあるぞ? 自分が使わないものはあっちの人たち用に女神のトコに置いて来ちゃったからな、魔法使い用装備ってあんま無いぞ?」
「で、伝説の武器……男の子的には惹かれるものがあるけど、右目の封印が疼いちゃったりするけど、ここは魔法使いで……戦闘マジ怖い」
うーん、まあ日本人なら仕方ないか。
むしろ、覚悟ガンギマリのチェストな殺魔スピリッツだったらドン引きだしな。
「じゃ、こいつは魔法使いでお願いします」
「はいはーい、じゃアッコちゃんが勇者でアリーマーくんが魔法使いで……」
「アリマです、アリマ、そんな裸パンツ男に倒されそうな名前じゃありません!」
小学生時代にからかわれてたから必死だな。
俺は言ってないよ?
有馬温泉の旅館のCMが頭に刷り込まれてたからな!
こうしてアッコは勇者に、有馬は魔法使いに(あと何年かすりゃ自動的になってただろうに)転職したのだった。
◆◆◆
「ぎゃあ、死ぬ、殺される」
「いいから魔法撃っとけ!」
「全然、効いてない、効いてないよ!」
一階層のゴーレムでも異星人のメカの2倍は強いからな。
レベル4程度の魔法じゃ効く訳が無い。
俺が適当に剣を一振りするだけでHPはじけ飛ぶけど。
杖とサークレットとマント渡してあるから、5~6発なら殴られても死なないんだけどねぇ。
ゲームと違って痛いからな。
アッコちゃん?
俺の背負ったケージの中でぐっすり寝てるよ、やっぱウチの子は凄いな!
ヘタレの有馬とは大違いだ。
パーティ組んでるから有馬も何もしなくてもレベルは上がるが、効果がなかろうが撃ってりゃその分魔法使うのに慣れるのも早い。
低級MP回復薬なんか腐るほど持ってるからなぁ。
女神のトコでも3分の1くらいしか受け取って貰えなかったし……。
「あ、なんか落とした」
「低級ポーションだな。片手くっ付けるくらいしか使い道ない」
「片手くっ付けるだけでも大したもんだよ?」
「中級ならフレ/ンダになってもくっ付くぞ?」
ヒットポイントが残ってる限り、常識的に見て即死レベルの怪我でも死なない。
上級ならミンチレベルからでも回復する。
あっちでも無職にはHPが無い。
ステータス表記ではマッチョだろうが幼女だろうが、同じ様にこちらの世界と同様に致命傷があるのである。
クラスを獲得する恩恵の一つでもあるな、これは。
うん、あっちでも一般人死にまくりで、魔王の侵略後、女神が慌てて転職させまくったおかげで多少は被害抑えられたけど、農夫で魔法使いとか、商人で僧侶とかが溢れて、あの陽だまり異世界じゃなきゃ国家崩壊フラグだしな、現状。
その辺、理解するためにも有馬は一回殴られといた方がいいんだけどなぁ。
上手いこと俺を盾にして被弾を防いでいる。
俺が殴ってもパーティー組んでるからダメージいかないしな。
◆◆◆
レベルアップで強くなった魔法にはしゃぎ捲って、魔法使い過ぎてMP枯らしてへたり込み、低級MP回復薬を飲んで同じ行動を繰り返し、お腹がタプタプになったのが現在の有馬の姿だ。
「喉までMP回復薬がせり上がって来た、なんとかならない?」
「飲み過ぎ、食い過ぎと同じだからな、こっちの胃腸薬の方が効くぞ?」
「薬飲む水すら入りそうも無い。まだ、先長いの? ステータス上がってるっぽいから足はそんな疲れてないんだけどさ」
有馬の現在のステータスは、単独で円盤2~3機は無傷で落とせるくらいだな。
まあ、侵略者に殺されない程度の強化としては十分だが、今回の目的はアッコのカンストである。
1回目で到達しなければ、8時間後に再チャレンジだ。
アッコはまだ寝てる。
時々、モゾモゾしてるが起きて来る素振りは無い。
一応、ちゅーるとカリカリは持ってきてるけど、今のところ出番は無い。
猫は寝子とも言うし、良く寝るのは正しい姿だ。
ライオンや虎なんかも良く寝てるしなぁ。
動物園で見るとおっきな猫そのもので、構い倒したくなる。
今の俺のステなら可能か?
アッコのステは現時点でライオンや象を超え、Tレックスをも超えて、あっちで俺が倒したことのあるドラゴンに迫る勢いである。
「正義は強くなくてはいけない」とどっかの誰かも言ってたし、「可愛いは正義」とも言われるから、アッコが強いのも問題無いな。
「あと10階でダンジョンボスだ。そこクリアすればお土産付きで入り口帰還だから、頑張れ!」
◆◆◆
「異星人が温和に見える凶悪さですね」
思わず丁寧口調になっている有馬。
ヘルモードのダンジョンのボスだからな。
そりゃ、ステもスキルも半端じゃないよ?
「うにゃ?」
流石にアッコちゃんも起きたか。
危ないからそのまま中に居てね?
「ここまで俺がほとんど処理しちゃったからな、最後くらい有馬も頑張れ!」
「いやいやいやいや、無理無理無理無理! 足首までで俺の身長より高いんだよ? 顔見上げると首が痛くなるくらいの位置に顔があるんだよ? これ人間サイズじゃ無理だよ!」
魔王配下じゃけっこう居たけどな、このサイズ。
最大サイズのドラゴンなんかタンカーよりデカかったし……。
「まあ、出来るトコまででいいから頑張ってみ? 異星人の母艦よりは小さいし、危なくなったら倒してやるからさ」
凶悪ステのボスでも今の俺なら魔法無しでも楽勝。
「くう、なんか凄いっぽい魔法覚えたんだけど、全然、勝てそうな気がしない。俺ツエー状態なんだろうけど俺ツエえ? って感じだし」
「いいから行け、じゃないとお前置いて帰還魔法で帰っちゃうぞ?」
「この、おにちくめ! くっそー開幕『デスインフェルノ』!」
文句を言いつつも戦い始める有馬。
なーにそうそうケガもしないハズだよ、今のステなら。
痛みは感じるけど、それは慣れるしかない。
俺と違って命の保証ある分楽勝じゃん。
意外とと言っちゃ悪いが頑張る有馬だがボスのHPは2割も削れていない。
「どわぁ」とか「なにくそ」とか、有馬って戦闘中結構喋るタイプだったんだな。
アッコちゃんがモゾモゾ動き出した。
本格的に起きてきそうだな、起きる前にクリアしときたいトコだったんだけどな。
そろそろ、手を貸そうか?
そう思った時だった。
「バリバリ」と言う音と共に俺の背負ったケージがはじけ飛び、すっくと俺の前に降り立ったのはアッコちゃん。
「危ないからダメだよ」と抱える間もなく、俺じゃなきゃ目で追えないスピードで走り出すと引っかき一閃。
3本の筋が刻まれたボスは、あっさりと崩れ落ちた。
ウチの子、最強。
これで主人公がしつけでピシっと軽く叩いても大丈夫です