愛猫のために異世界から帰って来た
なんか書けそうなんで、これをエンジン代わりに他の作品も書いてきたいです。
「帰っちゃうんですねぇ……」
すっかり懐いた、わんこの目で見上げてくる美少女。
「あっちの人間はどうでもいいけど、飼い猫の世話があるからな」
「ネコちゃんはかわいいですもんねぇ……仕方ありませんね」
まあ、こっちとしても目を離すと知らんうちに不幸になってそうで、後ろ髪を引かれるトコはあるんだがな……この「女神さま」は。
他の世界からやって来た魔王の侵略から、この世界を救うため女神によって召喚された勇者……ってことになっている俺だが、現実はもっと世知辛い。
この新米女神さま、創造神としての初仕事でこの世界を作り上げたんだが、どっかポワポワしたこの女神が作っただけあって、人々も世界も牧歌的。科学だの魔術だのは全然進歩せず、それでも人々はそれなりに幸せに暮らしていた。
野生の獣はいるものの、人間に多大な害をもたらすモンスターどころか大型の肉食獣などもおらず、飢饉や大きな自然災害も起きず、病気の大流行などもなく、普通に働けばそこそこ余裕のある暮らしが出来て、ほとんどの人間が老衰で死亡するという、疲れた現代の日本人から見ると理想郷の様な世界。
こじんまりと惑星一個分で完結した、可愛い箱庭世界だった。
そこに先輩女神から「押し付けられた」のが魔王とその軍勢。
女神に人気の複数世界を創造したイケメン神のおっかけをして自分の世界の管理をさぼった結果の不始末(言ってみれば汚部屋のゴミをゴキブリごと隣の部屋に放り込む様な暴挙)を、逆らう力も気合もコネも無いこの女神の世界に押し付けたというわけだ。
優しい飼い主に恵まれたペットのハムスターの檻の中に飢えたアナコンダを放り込んだような地獄絵図。
この世界の人間にも、この女神にもどうしようも無い。
後からその状況に気付いた姉御肌の別の女神が地球の神に渡りをつけ「誰でもいいから!(女神たちの世界から見て地球は上位世界なんで中の生物も存在格差があるため、モブでも下位世界の魔王より存在の力があるんだそうだ)」と俺を借り、自分の舎弟神から力を出させて力を与えた上でこの世界に放り込んだというわけだ。
この際、姉御神のお願いに張り切った舎弟神が全力を振り絞り過ぎた結果、余った力を使って、魔王の軍勢の半分は元の世界に強制送還された(元凶の駄女神はそことは別世界のゴキブリの女神として左遷が決まっている)が、流石に親玉である魔王に干渉すると、この可愛い平和な世界自体が壊れてしまうため、勇者となってしまった俺にこの世界の命運が託されてしまったのだ。
小動物系新米女神の上目遣いの「お願い」と、姉御女神の肩に手を回してにらみつける様な「お願い」には逆らうことも出来ず。
すべてクリアすれば、こっちに来た直後の地球に戻れる上に「お土産(魔王を倒した時点で余った力)」付きで元の世界に戻してくれるというこの手の話にしては良心的なフォローあって、この春からUターン就職で地方公務員となることが決まっていた本来モブな俺ではあったものの、たった一人で魔王軍を殲滅(なんせ、戦える人間が全く居ないからな、この世界には)。
ボッチで魔王を討ち果たすという、今振り返っても「良くやれたな、俺」と思う快挙を成し遂げ、女神にお礼を言われ、元の世界に帰ろうとしているのが現状だ。
この一連の対魔王クエストの間、救った人々なんかから感謝はされたものの、ほとんどがそれっきりの関係で、こっちに来てから一番話をしたのがこの女神。そりゃ情も移るってもんである。
美少女ではあるものの、恋愛だとかそういった感情は皆無で、子供に対しての保護者、ペットに対しての飼い主みたいなもんだがな?
「戦いはもうこりごりだという話なので、今なら勇者から別のクラスに転職出来ますが、何か希望はありますか?」
「それならダンジョン・メイカーにしてくれ!」
「え? 迷宮創造者ですか? もしかして……将来を見据えて?」
「ああ、そうだな(地元じゃ家はそこそこ高いけど山はけっこう安いから……買ってトラブル無しに中を別荘化出来るし、戦闘系は今のスキルとステータスで十分だし、生産系は金につながる行為が厄ネタにつながるしな)」
「そうなんですか(将来……きっとダンジョン管理で経験を積んで、人としての生を終えた後、管理神として私を手伝ってくださるおつもりなのですね)♪」
なんでかご機嫌だな……ピコピコと動く犬耳とパタパタ動くシッポが幻視出来る。
「それじゃあ、また♪」
涙の乾ききらない顔にとびっきりの笑顔を浮かべた女神が手を振ると、俺は日本へと送還された。
「うぉおお、アッコちゃん久しぶり~!」
眠そうな眼付きで抱き着き攻撃に軽い反応を示す愛猫。
白黒のハチワレ、長い尻尾がプリティな生後3年の美猫である。
子猫の時に親とはぐれたらしい野良の状態で保護したため、当初は「アカ」と呼んでいたのだが、大きくなってからまでそれでは、ダメだろうと「アッコ」という名前にした経緯がある。
俺の主観じゃ長いこと会ってないけど、アッコの主観じゃ昨夜ぶりだもんな、仕方が無い。
寝てる間に召喚され、直後に送還という話だったが、現在、朝の5時半。
農家の多いこの辺じゃすでに起きている家も多い。
東京から地元に戻って、いつの間にか再開発が進んでた(とは言っても畑がマンションになってその1階にコンビニが出来た程度なんだが)駅前のペット可マンションの一室。
段ボールの荷解きは済んでいるし、真っ先にアッコの給餌器やらキャットタワーやら見守りカメラの設置やらは終わって居るものの、家具、生活用品など足らないものは多い。
買い出しに行くにしても、この辺じゃ車が無いとキツイ。
高校時代の友人の手を借りるにしても、連絡がついてるのは、当時一番つるんでいた有馬くらいなものだ。
噂をすれば、その有馬からの電話だ。
手に取ったスマホ見ると着信やらSNSアプリやらでやたら連絡取ろうとしてたみたいだな。
「おう、有馬か……」
「有馬かじゃねえよ、こんな時に呑気に寝腐ってんじゃねーよ!」
「どうした、空から女の子でも降って来たか?」
「……アメリカが壊滅し、中国とEUが蹂躙されてる現状で呑気過ぎるだろうが! お前がこの間まで居た東京じゃ買い占めパニックが起きてるぞ、現在進行形で!」
「すまん、話が全然分からん。俺が寝てた間に何があった?」
「宇宙人が攻めて来たんだよ!」
今日、4月1日じゃないよな?
テレビをつけるとどこもここもアナウンサーも識者とか言う連中も、タレント連中の顔も引き攣ってる。
宇宙人が攻めて来てアメリカが壊滅したというのも本当みたいだ。
東京居たら、こんな時でも平常運転のテレ東見て落ち着けたんだがな……。
都市部が壊滅、地方は割と生き残ってるし、建物の破壊はあるものの、人々を直接どうこうというのは無いようで、被害規模に比べると死傷者の数が少ないのは救いと言ってもいいのだろうか?
そうして生き残った人たちや直接の被害に遭わなかった周辺住人の撮影した映像。
空飛ぶ円盤とそこから出てくる多足歩行メカ。
泣きわめている人の姿もあるが、マジで人間スルーだな、このメカたち。
壊したビルやら停まってる車やら回収してるだけだ。
もしかして、俺が召喚された時点でこの侵略というか強奪が開始されてたってことか?
都市部の回収終わったら、地方にも来そうな根こそぎ具合だな。
「で、有馬は今、どこに居るんだ?」
「一人暮らしの爺ちゃんが心配だったからカブ飛ばして爺ちゃん家来てる。まあ、爺ちゃんもお前と似たり寄ったりの呑気さで、今、畑に出てるけどさ」
「まあ、現状ではこの田舎町に来るまでは時間かかりそうだし、将来的に流通が死にそうだから、食えるものの確保って点でも正しい行動だな」
「お前、良くこの状況でそんな冷静だな、そんなに肝据わった奴だったっけ?」
異世界召喚されてボッチ勇者やれば、そのくらいなんとも無いぞ?
アッコが被害被ってたらバーサーカーが誕生してたろうけどな?
そうだ、現状把握と言えば、今の俺のステータスとかスキルとかどうなってんだ?
名前:タクナリ ミヤケ(屯倉卓哉)
クラス:ダンジョンメーカー
レベル:001 HP:5963/5963
MP:141421356/141421356
Exp:0(31415926535897932384626433832795028841971…)
STR:8888
ATK:1111111111111
VIT:7654
DEF:718281828459
INT:625
RES:999999
DEX:813
AGI:86868686
LUK:77777
転職で下がってるステ値もあるけど、まあまあかな?
なんかテレビの映像から見た判断だけど、メカや円盤、母艦といった、地球に来てる連中程度なら問題無いと思うんだけどな、これオート回収の産業レベルのものなんで、こいつらの軍隊レベルの相手が出張るとどうなるか分からんな?
スキルや魔法や称号は見てるとキリが無い。
必要に応じて「作ったり」もしてたからなぁ。
「まあ、今すぐどうこうは無いだろ? メカっぽいからバグか暴走でも無い限り、こっちにはぐれて来る奴もいなそうだし」
「お、おう。……落ち着いてるお前と話せて良かったわ。大城なんか『特番ばっかでアニメが~!』とか泣き喚いて話にならなかったからな」
大城か……相変わらずアニオタやってんのかよ。
アイドルに沼ったらしいって話聞いて少し現実に復帰出来たのかと思ってたけど、アニメかソシャゲのアイドルだったみたいだな?
「そういや有馬、今爺ちゃん家って言ったよな?」
「そうだけど?」
「じゃ、爺ちゃんに裏山貸してくれって頼んでくれ!」
メカ共の好きにはさせんよ?
資源目的のエイリアンとそれに対する反抗ってどっかの映画とダブる設定ですが、数年転がしてた話なんで、パクリじゃありません(涙目)