表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

     episode2『紫己と銀河』

「…で、本家を飛び出してきたわけ? サイフも携帯も持たず、ただぽてだけ連れて?」

 時刻は午後8時。

 紫己の家のリビングルームにちょこんと正座をして、芹七は小さく肩をすくめた。

 お説教は覚悟していた。いつものパターンだ。

「そんなカッコでウロウロして、アキバ系に襲われても文句言えないよね」

「う…寒かったです」

「僕が家にいなかったら、どーするつもりだったの?」

「たぶん、蒼くんのお宅にお邪魔することに……」

「へ〜、あのマンション行くまでに、アニメ街を通ってかなきゃだね〜。はい、ご愁傷様」

「……しーちゃん」

 2人のやり取りを見かねたのか、ぽてちが淋しそうにキュンと一声あげる。

 紫己はふーっと息をつき、彼女のしっぽをムギュっと掴んだ。


「紫己様、それでは私はこれで」

 サイドテーブルにお茶の用意を整え、天海家のお手伝いさんは退出した。

「わ〜い、フランスのガレット♪ しーちゃんママのお土産?」

「そっ。相変わらず、向こうが肌にあってるみたいでね」

「昔から、しーちゃんちに来る、楽しみの一つなんだよね〜! いただきま〜す♪」

 そう満面の笑みでお菓子をつまんだ芹七の姿に、紫己は呆れ顔。

「…で、どーしたいの?」

 アールグレイに口を付け、本題に戻した。

「もちろん、そんなの無視だよ! 今時、政略結婚なんて!」

「だからセリは、甘いって言うんだよ。自分の立場、そろそろ理解したら? ギンから逃げられたとしたって、自由な結婚なんて有り得ないと思うけど」

「そんなーー。 だって私の力なんて、いつかはなくなるものだって…」

「だから、急ぐんでしょ? 千年に一度と言われる女性天子が産む子供に、どんな天力が宿るのか…。おじ様じゃなくても、興味そそるね」

「う……」

 脱力して、毛足の長いカーペットに倒れ込む芹七を見下ろしながら、紫己は考えるように口元に指を当てた。

「それにしても、ギンか……」

「そーいえば、知ってるの?」

「まあね。別に、お友達ってワケじゃないけど。階堂家の嫡子で、家柄、頭脳、天力者としての能力のどれをとっても文句ない優等生。条件としては、ぴったりの相手だよ」

「えー、でもそーゆうなら、しーちゃんも当てはまるんじゃ…」

「だって、僕は断ったから」

「はい!?」

「そりゃあ、声はかかったよ。でも、当然でしょ? 誰が、こんな手のかかる、甘えん坊の世間知らずと…」

「……しーちゃんってば…」

 サバサバとした紫己の態度。

(確かに、甘えただけどさぁ)

 それにちょっぴり複雑な思いを抱いて、芹七は腕に絡みついてきたぽてちをギュッと抱きしめた。


 ピンポーン♪

 そんな時、インターホンが鳴り響く。

 モニターに映った訪問者を一瞥して、紫己は面倒くさそうに髪をかきあげた。

「さて、どうしよっかなぁ」

 相手は、階堂銀河だった。



「お迎えに、上がりました」

 広くモダンな造りをした、天海家のロビー。

 来客用のソファーに腰掛けることもせず、銀河は隙なく、真っ直ぐに歩み寄ってきた。

 先ほどの印象と違って見えたのは、彼がシルバーフレームの眼鏡をかけていたせいだろうか。

 インテリジェンスな雰囲気のそれに多少トキメキながらも、芹七はなおさら近寄りがたさを感じていた。

「久しぶりだね、ギン。まさかお前が、わざわざこんな所に来るなんてね」

「紫己……」

 紫己の嫌みな物言いと、それを受けた銀河の目の鋭さに、2人の仲が良くないことはすぐに悟った。

 同等な高さの格式を誇る家柄。

 同じ年に産まれた、天力を授かった子供。

 幼い頃から何かと比べられ、お互いにライバル視してきたのかもしれない。

「姫を返してもらう。私の婚約者だ」

「あー、聞いたよ、その話。でも当のセリは、あんまり乗り気じゃないみたいだけど?」

「…貴様には関係ない。さあ、帰りましょう。天主も心配してます」

 紫己を軽く睨みつけて、銀河は芹七にスッと右手を差し伸べた。

 が、芹七は警戒して紫己の背中に身を隠す。

「あーあ。嫌われちゃったね」

 意地悪っぽくそう言い放つと、紫己はわざと怒りを煽るかのように、芹七の体を引き寄せて顔を近づけた。

「気安く、触れるな」

 銀河は冷静さを欠き、勢いよく紫己の胸ぐらを掴む。

「なに? もう亭主気取り?」

「少なくとも貴様よりは、権利を持ってるつもりだ」

「……ホント、お前のそーゆーとこ、ムカつくんだけど」

「ふ、2人とも、ヤメテよ〜」

 緊迫した空気に、芹七はただオロオロしてしまう。

『天主の娘』に、そこまで執着する価値があるとは思えないのに……。

 銀河は右手を緩め、荒立てた事を芹七に謝罪した。

「……決めた」

 紫己はシャツの襟元を直しながら、そう静かに呟く。

「…しーちゃん?」

「セリ、とりあえず今日は帰りなよ。どーにかしてあげるからさ」

 不敵な笑みを浮かべた紫己を、芹七は不安な気持ちで、ただ見つめていた。



〈続く〉

ご覧頂きありがとうございました☆

「どーにかしてあげる」と言った紫己は、いったい何を考えているのでしょうか…?

次回もお付き合いくださいね☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ