episode1『騎士』
学園祭まで、あと10日。
ゼミのみんなでやるメイド喫茶の衣装が出来上がって、自宅に帰って1人ファッションショー。
宮家執事の柏原(28歳男性・独身)が現れて、父が客間で呼んでいると聞いたのは、ご機嫌に鏡の前でボーズをつけていた時だった。
嫌な予感はした。
(こんな時間に帰ってくるなんて…)
そしてそれは的中する。
「彼がお前の婚約者、銀河だ。発表は、そうだな。クリスマスの時期に親族を集めて、パーティーでも開くか」
天力者たちの絶対的な長、『天主』と呼ばれた芹七の父親は、有無を言わせぬ強気な姿勢で、横にいた1人の男を指し示した。
この客室にいるのは3人のみ。
『お前』というのは、どうやら自分の事のようだ…と、把握できるまでに、何回まばたきをしただろう。
「初めまして。階堂銀河と申します。本日はお会いできて、光栄です」
ツインテールにゴシックなメイド服という、突っ込みどころ満載の芹七の姿を完全に無視して、彼は畳の上で丁寧に頭を下げた。
(武道でもやってるのかな)
凛としていて、立ち居振る舞いが美しい。
体つきはしっかりとしているのに、どこか繊細で。なおかつ、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。
(深い瞳の色をした人……)
第一印象はそんな感じだった。
「……姫?」
挨拶も返さず、ただボケっと見つめていた芹七に、銀河は顔色を変えずに問いかける。
「どこか、お加減でも?」
長い指がスッと目の前に伸びてきて、芹七はやっと我に返った。
「お父さん、いきなり何!? 困るよ、勝手なことされたら!!」
「もう、決まったことだ。銀河も納得してる」
上座にいる父親に食ってかかるが、笑顔で交わされる。
「…何よ、ヤダよ、19で結婚なんて」
「心配するな。結婚は大学を卒業してからだ」
「そーゆー問題じゃないよ! 銀河くんも、困るよね? ね?」
「いえ。私はもう二十歳ですし」
「だから、だよ〜」
「それに、天主の命は絶対ですから」
「!?」
長めの前髪をサラリと揺らし、クールにそう答えた銀河を見て、芹七は絶句した。
ダメだ。
紫己や蒼なんかとは違う、典型的なナイトタイプ。
天力者という立場や、力の存続を何よりも重要視する、父親の取り巻きで最も多く、理解不可能な人種だ。
そういう輩は決まって、芹七のことを『姫』と呼ぶ。
(そーゆーの、キライなのに…)
もともと宮家は公家の出であり、天主の娘で、なおかつ天子である芹七は、時代が時代なら崇拝される立場にあるのだ。
「姫。本日から、私があなたの守り役となります」
真っ直ぐな言葉と瞳に、思わずドキッとしてしまった。
が、力強くそれを振り切って、芹七は冷静を装う。
「どーゆーこと? ここに住むの?」
「はい、部屋をお借りします。仕事も大学も、こちらから」
「…困るよ、突然〜! それに守り役なんていらない。私には昔からしーちゃんがいるし、今は蒼くんも一緒だもん」
「!」
芹七の台詞に、初めて銀河の顔色が変わった。
「婚約者に選ばれたのは私です。あなたに何と言われようと、私がそばでお守りします」
丁寧な口調の中にある、冷徹な強さが何だか怖かった。
芹七はその場を逃げ出したくて、勢いよく部屋を飛び出す。
「婚約者なんて、私が認めない。もう今日は、帰ってこないから!」
父親と銀河に、そう捨て台詞を残して……。
〈続く〉
ご覧頂きありがとうございました☆
第2章がスタートして、芹七の周りに新たな男の子が登場いたしました♪
彼との関係は、これからどうなっていくのでしょうか?
またぜひ、覗きにきて下さいね☆