第3章 holiday(午後のカフェで…)〜蒼〜
〜 vision蒼 〜
久しぶりに暇を持て余した、土曜の午後。
ふと甘いものが食いたくなって、俺は宮をここへ呼び出した。
1階が洋菓子店で、2階に喫茶スペースのあるカフェ。
うちと宮家の中間にあって、落ち着いた雰囲気は悪くない。
…が、白い机と苺柄のカーテンとゆー、1人では絶対入れないセンスの店内で、かなり敬遠する。
でもシュークリームがやたら旨くて、無性に食いたくなったりして。
……だから、宮を誘った。
こんな時ほど、こいつの存在が有り難いと思えることは無いかもしれない。
「うん、やっぱりPoteカフェのロールケーキは、もっちもちで美味しい♪」
自分の口よりもはるかに大きい一口を運んで、宮は満面の笑みを浮かべた。
「疲れてる時のスイーツって、ホント幸せになるよね☆」
「お前の顔見れば、分かるな」
「ちょうどお茶気分だったの。蒼くんタイミング良すぎだよ」
「そりゃ、良かった」
つられてつい、俺も笑ってしまう。
階堂…とかいう奴との婚約白紙をかけた仕事を控えて、少しは緊張でもしてるのかと思ってたけど。
心配なかったみたいだな。
こいつの脳天気は、天然だ。
「…あ、蒼くん今心で、私の悪口言ってたでしょ?」
ソファーにもたれ掛かっていた背を起こし、宮は顔を覗き込んできた。
「いや。お前って、裏表のない奴だって感心してたんだよ」
「?」
「知り合って半年もたつのに、見事に第一印象とのブレがねーから」
ここのシュークリームを食べるたびに、実は、こいつとの出会いを思い出さずにはいられない。
「そっかぁ。蒼くんとお友達になって、もうそれくらいだね。確か、しーちゃんが見つけてきたんだよね。その力」
「…だな。で、天海に初めて宮家に連れていかれた時、あのお屋敷のお嬢さんを紹介されるって聞いて、かなり引いた」
「引いたの?」
「当然だろ。あんな怖そうなオジサンの娘で、使用人に『様付け』で呼ばれてる女子大生って……。どんな女かと思ったよ」
客間までの長い廊下を歩いて。重厚な襖が左右に大きく開かれて。
庭から差し込む眩しいほどの光が、宮の周囲を照らしていたのを見た時…。
本当に驚いた。
「お前、畳に立て膝して、シュークリーム頬ばってたよな」
「…ふふ」
「粉砂糖をそこら辺に散らかして…。強烈な出会いだった」
「あは、懐かしいね!」
でもそんなこいつが、天力だ何だってゆー異世界を、一気に俺に近づけた。
この厄介な力を、役立てる意味があるのかもしれない、と。
「…今度の仕事、1人でやろうなんて思うなよ。必ず、俺も連れてけ」
「どーしたの? 急に」
「いいから。分かったな」
「うん、ありがと! でも大丈夫、最初からそのつもりです♪」
宮は長い髪をふわりと揺らし、子供みたいに笑った。
それから1時間、俺達は他愛ない話を続ける。
「もう1個、ケーキ食べちゃおうかな〜」
そう言って一瞬携帯に目をやった宮は、キーホルダーが一つ足りない事に気づいたようだった。
「チョウチョがない〜!!」
「チョウチョ?」
「ANNA SUIのチャーム! あ、 さっき下で待ってた時かも! 私、見てくるね!」
この場で待つように俺に告げ、慌ただしく店外へ飛び出す。
数秒後、2階の窓から、歩道の植え込み辺りをキョロキョロしている宮が見えた。
〜 vision芹七 〜
(チョウチョさ〜ん!)
Poteカフェの軒先に並んだ一台の自転車のタイヤの下に、それはあった。
ストラップが下敷きになってはいるものの、どうやら無事みたいでほっとする。
(う〜ん)
数台の自転車の脇から腕を伸ばし、キツい態勢で蝶を回収しようと試みた芹七。
「あれ〜、交通事故? 」
少したって背後より、聞き覚えのある声が響いた。
デニムにカーキのTシャツ、白とネイビーのギンガムチェックのシャツを羽織った、可愛い顔をした男の子。
(徹平くん!?)
先週、新宿でぶつかってきて、かなりの衝撃を与えて去った、あの子に間違いなかった。
彼はひょいと自転車を軽く持ち上げて蝶を救出すると、しゃがみ込んでいる芹七のところまで、かがんで視線を落としてくれる。
「あ〜。また、会ったね!」
無邪気な微笑みに、ドキドキが隠せなかった。
「…ありがと……」
彼の差し出したチャームを受け取ろうとして、芹七はハッとその手を引っ込める。
「ん? どーかした?」
「だって、徹平くん……」
「…てっぺい? オレ、そんな偽名使ったっけ?」
「あ、違う! 何でもない…」
「……う〜ん。 もしかして、かなり警戒させちゃってる? ごめんね。 大丈夫、この子を助けたお礼なんて、言わないって!」
子犬のように大きな黒目をクルッと動かして、彼は蝶を目の前で揺らした。
人懐っこい、優しい表情。
何だか昔から知っている友達みたいな、そんな錯覚さえおこしそうになる。
「ありがとね」
素直にそう言えた時、彼はスッと左手を伸ばし、芹七の長く柔らかい髪に触れた。
「君って、何かカワイイ。かなりタイプなんだけど」
「え……」
「今日も、キスしてもイイ?」
「え!? ちょっと、待って…」
「…大丈夫。コレは、見返りってわけじゃないから……」
あまりにも突然の展開に、体が固まってしまう。
彼の甘い言葉に、思考回路がストップしてしまう。
力で押さえつけられてるわけでもないのに動けなくて、芹七はただ彼の長い睫毛だけを見つめていた。
〜 vision蒼 〜
(何をやってるんだ、あいつは!!)
窓から見えた光景に、俺は店を飛び出さずにはいられなかった。
無くしたキーホルダーを、ただ探しに降りただけの事。
それがどーして、あんなことになる?
気づいたら俺は、間一髪で、宮の体を後ろから引き寄せていた。
「うわ、蒼くん! 何でココに……」
「…何でじゃねーよ。丸見えだっつーの」
「あのね、何か体が一瞬フリーズしちゃって……」
我に返ったのか、宮はすがるような目で俺の腕にすがりついてくる。
(ったく。危なっかしくて、目が離せねー……)
俺はふーっとため息をつき、相手の男を睨みつけた。
「こいつに何か? 悪いけど、ナンパだったら、他のとこでやってくれ」
「…えっと、彼氏さん?」
「お前に教える義理はねーけど」
「ふーん。オレも、この子が良かったんだけどな〜」
悪びれもなくそう言うと、男は茶色い髪をさらりと揺らして、俺越しに宮に声をかける。
「じゃ、またね☆」
男がスマートに消えた後、2人きりになった宮は、手をモジモジさせながら俺を見上げた。
「ごめんなさい…」
「阿呆。この前も似たような事があったんだろ? 少しは警戒しろ」
「はい、それがね……」
宮の話を聞いて、驚かずにはいられない。
「何…? 新宿の男って、あいつだったのか?」
偶然だろうか?
いやに腑に落ちない感情を抱えたまま、俺の休日は過ぎていった。
<続く>
ご覧頂きありがとうございました☆第3章スタートです。
実はここまでは、書き溜めていたものをただアップさせて頂いてました。なので、きっと分かりづらい部分も多くあったかと思われます。m(_ _)m
ですがココからは、読んで下さる方の目を意識しながら、物語を作っていこうと思ってます♪
エッチな表現にも挑戦してみたいなぁと考えてますので、どうぞお付き合い下さいね☆
次回のupは、日曜日の夜か、月曜日を予定しております!