表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

第3章 holiday(午後のカフェで…)〜蒼〜

 〜 vision蒼 〜


 久しぶりに暇を持て余した、土曜の午後。

 ふと甘いものが食いたくなって、俺は宮をここへ呼び出した。

 

 1階が洋菓子店で、2階に喫茶スペースのあるカフェ。

 うちと宮家の中間にあって、落ち着いた雰囲気は悪くない。

 …が、白い机と苺柄のカーテンとゆー、1人では絶対入れないセンスの店内で、かなり敬遠する。

 でもシュークリームがやたら旨くて、無性に食いたくなったりして。

 

 ……だから、宮を誘った。

 こんな時ほど、こいつの存在が有り難いと思えることは無いかもしれない。

「うん、やっぱりPoteカフェのロールケーキは、もっちもちで美味しい♪」

 自分の口よりもはるかに大きい一口を運んで、宮は満面の笑みを浮かべた。

「疲れてる時のスイーツって、ホント幸せになるよね☆」

「お前の顔見れば、分かるな」

「ちょうどお茶気分だったの。蒼くんタイミング良すぎだよ」

「そりゃ、良かった」

 つられてつい、俺も笑ってしまう。

 階堂…とかいう奴との婚約白紙をかけた仕事を控えて、少しは緊張でもしてるのかと思ってたけど。

 心配なかったみたいだな。

 こいつの脳天気は、天然だ。

「…あ、蒼くん今心で、私の悪口言ってたでしょ?」

 ソファーにもたれ掛かっていた背を起こし、宮は顔を覗き込んできた。

「いや。お前って、裏表のない奴だって感心してたんだよ」

「?」

「知り合って半年もたつのに、見事に第一印象とのブレがねーから」

 ここのシュークリームを食べるたびに、実は、こいつとの出会いを思い出さずにはいられない。

「そっかぁ。蒼くんとお友達になって、もうそれくらいだね。確か、しーちゃんが見つけてきたんだよね。その力」

「…だな。で、天海に初めて宮家に連れていかれた時、あのお屋敷のお嬢さんを紹介されるって聞いて、かなり引いた」

「引いたの?」

「当然だろ。あんな怖そうなオジサンの娘で、使用人に『様付け』で呼ばれてる女子大生って……。どんな女かと思ったよ」


 客間までの長い廊下を歩いて。重厚な襖が左右に大きく開かれて。

 庭から差し込む眩しいほどの光が、宮の周囲を照らしていたのを見た時…。

 本当に驚いた。


「お前、畳に立て膝して、シュークリーム頬ばってたよな」

「…ふふ」

「粉砂糖をそこら辺に散らかして…。強烈な出会いだった」

「あは、懐かしいね!」

 でもそんなこいつが、天力だ何だってゆー異世界を、一気に俺に近づけた。

 この厄介な力を、役立てる意味があるのかもしれない、と。


「…今度の仕事、1人でやろうなんて思うなよ。必ず、俺も連れてけ」

「どーしたの? 急に」

「いいから。分かったな」

「うん、ありがと! でも大丈夫、最初からそのつもりです♪」

 宮は長い髪をふわりと揺らし、子供みたいに笑った。

 それから1時間、俺達は他愛ない話を続ける。

「もう1個、ケーキ食べちゃおうかな〜」

 そう言って一瞬携帯に目をやった宮は、キーホルダーが一つ足りない事に気づいたようだった。

「チョウチョがない〜!!」

「チョウチョ?」

「ANNA SUIのチャーム! あ、 さっき下で待ってた時かも! 私、見てくるね!」

 この場で待つように俺に告げ、慌ただしく店外へ飛び出す。

 数秒後、2階の窓から、歩道の植え込み辺りをキョロキョロしている宮が見えた。




〜 vision芹七 〜


(チョウチョさ〜ん!)

 Poteカフェの軒先に並んだ一台の自転車のタイヤの下に、それはあった。

 ストラップが下敷きになってはいるものの、どうやら無事みたいでほっとする。

(う〜ん)

 数台の自転車の脇から腕を伸ばし、キツい態勢で蝶を回収しようと試みた芹七。

「あれ〜、交通事故? 」

 少したって背後より、聞き覚えのある声が響いた。

 デニムにカーキのTシャツ、白とネイビーのギンガムチェックのシャツを羽織った、可愛い顔をした男の子。

(徹平くん!?)

 先週、新宿でぶつかってきて、かなりの衝撃を与えて去った、あの子に間違いなかった。

 彼はひょいと自転車を軽く持ち上げて蝶を救出すると、しゃがみ込んでいる芹七のところまで、かがんで視線を落としてくれる。

「あ〜。また、会ったね!」

 無邪気な微笑みに、ドキドキが隠せなかった。

「…ありがと……」

 彼の差し出したチャームを受け取ろうとして、芹七はハッとその手を引っ込める。

「ん? どーかした?」

「だって、徹平くん……」

「…てっぺい? オレ、そんな偽名使ったっけ?」

「あ、違う! 何でもない…」

「……う〜ん。 もしかして、かなり警戒させちゃってる? ごめんね。 大丈夫、この子を助けたお礼なんて、言わないって!」

 子犬のように大きな黒目をクルッと動かして、彼は蝶を目の前で揺らした。

 人懐っこい、優しい表情。

 何だか昔から知っている友達みたいな、そんな錯覚さえおこしそうになる。

「ありがとね」

 素直にそう言えた時、彼はスッと左手を伸ばし、芹七の長く柔らかい髪に触れた。

「君って、何かカワイイ。かなりタイプなんだけど」

「え……」

「今日も、キスしてもイイ?」

「え!? ちょっと、待って…」

「…大丈夫。コレは、見返りってわけじゃないから……」

 あまりにも突然の展開に、体が固まってしまう。

 彼の甘い言葉に、思考回路がストップしてしまう。

 力で押さえつけられてるわけでもないのに動けなくて、芹七はただ彼の長い睫毛だけを見つめていた。




 〜 vision蒼 〜


(何をやってるんだ、あいつは!!)

 窓から見えた光景に、俺は店を飛び出さずにはいられなかった。

 無くしたキーホルダーを、ただ探しに降りただけの事。

 それがどーして、あんなことになる?

 

 気づいたら俺は、間一髪で、宮の体を後ろから引き寄せていた。

「うわ、蒼くん! 何でココに……」

「…何でじゃねーよ。丸見えだっつーの」

「あのね、何か体が一瞬フリーズしちゃって……」

 我に返ったのか、宮はすがるような目で俺の腕にすがりついてくる。

(ったく。危なっかしくて、目が離せねー……)

 俺はふーっとため息をつき、相手の男を睨みつけた。

「こいつに何か? 悪いけど、ナンパだったら、他のとこでやってくれ」

「…えっと、彼氏さん?」

「お前に教える義理はねーけど」

「ふーん。オレも、この子が良かったんだけどな〜」

 悪びれもなくそう言うと、男は茶色い髪をさらりと揺らして、俺越しに宮に声をかける。

「じゃ、またね☆」

 男がスマートに消えた後、2人きりになった宮は、手をモジモジさせながら俺を見上げた。


「ごめんなさい…」

「阿呆。この前も似たような事があったんだろ? 少しは警戒しろ」

「はい、それがね……」

 宮の話を聞いて、驚かずにはいられない。

「何…? 新宿の男って、あいつだったのか?」

 偶然だろうか?


 いやに腑に落ちない感情を抱えたまま、俺の休日は過ぎていった。



 <続く>

ご覧頂きありがとうございました☆第3章スタートです。

実はここまでは、書き溜めていたものをただアップさせて頂いてました。なので、きっと分かりづらい部分も多くあったかと思われます。m(_ _)m

ですがココからは、読んで下さる方の目を意識しながら、物語を作っていこうと思ってます♪

エッチな表現にも挑戦してみたいなぁと考えてますので、どうぞお付き合い下さいね☆

次回のupは、日曜日の夜か、月曜日を予定しております!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ