episode4『紫己の提案』
春には桜、この季節には紅葉と、庭の四季が楽しめる『彩りの間』は、父のお気に入りの客室だった。
二十畳の和室に、長いブナ材のテーブルを横倒らせ。
上座の誕生日席に父親、庭を背にして銀河、その向かいに紫己、隣りに蒼。
そこから5・6人分の距離をおいて、芹七は気配を消して正座した。
「…前々から探していた、『妖石』の事だが……」
全員が着席したのを確認し、天主はおもむろに話し始めた。
(…何だ、やっぱり仕事の話だ。私には関係ないや)
ほっとして、出されていた『とらやの羊羹』に早々に口をつける。
「銀河の報告によると、どうやら秀麗院大学の研究室に、紛れ込んでいるということだ」
「ふーん。神楽坂ね……」
紫己の呟きに、銀河が鋭く反応した。
「不服か?」
「別に。ただ、ずっと行方知れずだったくせに、ずいぶん圏内で見つかるんだなって、ね」
「……あくまで、状況判断だ。真相はこれから確かめる」
必要以上にピリピリした空気が、2人の間に流れた。
(『妖石』…? 聞いたことある……)
祖父の時代の天力者が、浄化できなかった上級妖力者を、封印したことによって現れた、2つの石。
不思議と色や形を変えていくそれは、持つ者を選び、いつしかこの本家から姿を消してしまった、と言うのだが……。
「石探しか…。今回は、深刻な仕事じゃなさそうだな」
多少、緊張感を緩めた蒼を、銀河は鋭い目つきで一喝する。
「月島蒼…か。やはり、天力者として、日が浅いだけの事はあるな」
「…どーゆー意味だ…」
「あの石は、言わば妖力の塊。本来なら天主か天子の力で、常に封印を施さなければ、その形を保てない」
「………」
「何年も姿を現さなかった物が、今になって動き出した。貴様、それがどういう事か、分からないのか?」
銀河の物言いに多少イラッとしながらも、蒼はすぐに状況を把握する。
「……封印が解けかかってるのか。それも、すでに事件が起きた……?」
「学内で3人。石に携わる人間が、妖人となった」
「!?」
一瞬静まり返った部屋に、誰かのお茶をすする音だけが響いた。
「もしそれが本物の妖石なら、厄介だね。僕たちが見つけたってことは、妖力者にも気づいたヤツがいるかもしれない」
「その通りだ。敵の手に渡る事だけは、絶対に避けなければならない」
「……それでセリが、ここにいるワケね…」
「…私が天主に、提案した」
突然、紫己と銀河に視線をふられ、芹七は湯呑みを両手にキョトンとする。
「芹七!」
そのタイミングで、更に父親の低い声が刺さり、芹七は体をビクッとさせた。
「なに、急に…」
「妖石回収の仕事、お前に命じる」
「…はい!?」
何を言われたのか、理解できなかった。
今まで巻き込まれたことはあっても、天力者として動かされたことなどなかったのに……。
「む、ムリだよ! お父さん、私そーゆーの…!」
「そうだ。いくら何でも、宮にやらせるなんて危険だ。俺が代わりに…」
間に入ってくれた蒼の肩を、隣りの紫己がポンと叩く。
「石は人を選ぶんだよ。本物かどうか、そのオーラを見極められるのは、天子以上の天力者だけなんだ」
「…っ……」
「そんな〜……」
芹七はその場にへたり込んで、力なく声を上げた。
そこへ静かに歩み寄ってきた銀河は、片膝をついて手を差し伸べる。
「私が、必ず姫をお守り致します。だからどうか、その力をお貸し下さい」
「銀河くん……」
忠実な優しさ。でも、ただ戸惑ってしまう。
芹七は助け舟を求めて、紫己と蒼を振り返った。
(どーすればいいの…?)
少したった頃、紫己は天主に向き直る。
「ねえ、おじ様。15年、セリの守り役をやってきた僕からも、提案があるんですけど」
そしてニコッと笑った。
「その妖石回収の仕事を、セリが無事クリアーできたら……。とりあえず銀河との婚約の件、白紙にしてあげません?」
思いもよらない彼の言葉に、芹七はただ驚愕していた。
〈続く〉
ご覧頂きありがとうございました☆
この章は、そのまま次に続きます♪ 紫己の提案に、芹七と銀河は……?
よろしければぜひ、またお付き合い下さいね☆