9話 準備
風無効は中々に便利なものだった。
俺はウィンドゥと共にかなりの高さまでダンジョンを登ってきていた。
「今何階層なんですかね」
「今は29階層だよ。次はフロアボス戦のはずだよ」
「ウィンドゥ様ちゃんと数えてたんですね」
「当然のことだよ。って答えたいところだけど僕もカイムに聞いたんだよね」
「流石カイム様ですね」
「別に、普通だろ?」
「普通じゃないっすよー。私はぐーるぐるぐーるぐる回るダンジョン内で目ぇ回ってぎゃーって感じで今何階層か全く分かんないっすー」
………このパーティは俺がいなくて成り立つのだろうか。
ふと上を見ると夜になりつつあった。
「日が暮れてきたな」
「そうだね。不思議な感じだけどダンジョン内でもちゃんと昼夜はあるんだから」
「なら、今日のところはセーフエリアで休んで明日フロアボスと戦おうか」
「そうだね。闇雲に歩き回っても仕方ないよね」
ということで俺たちは今日の探索は切り上げることにした。
※
ここのセーフエリアはかなりでかいようでいくつも部屋があった。
しかも俺たち以外にも利用客がいたのだ。
更にタイミングの悪いことに。
「ちっ、ゴミクズ風水士が」
「こんなところで風水士君と出会うとはヒョーヒョッヒョッヒョ。面白くなってきましたなぁ!」
シュライとシュピーネに出会った。
「俺の前に顔を出すなって言ったよな?【事故死】させてやろうか?」
「シュライさんそれはまずいですねぇそれはまずいですよぉ。今回はギルド主体の作戦なんですからねぇ〜」
何をどうしたらシュピーネはここまでうざい話し方が出来るのだろうか。
「別にあんたらの邪魔はしない」
「たりめぇだろうがよ。ゴミの分際で足引っ張ったら殺す。ところで」
シュライの目付きが鋭くなる。
「エドワードはどうした?」
「風に流されて飛んでったよ。死んだんじゃないか?」
「ふん。たしかにな。奴の加護のランクは低かった。ありえないことでは無いが━━━━風水士、お前がここにいることは本来ありえない事だ。何をした?」
「とある風属性使いがパーティに加入してくれたんだよ」
「やぁ、こんにちは」
その時ひょっこり俺の後ろから顔を出したウィンドゥ。
「誰だテメェ」
「僕はウィンドゥ。カイムの仲間さ」
「ヒョーヒョッヒョッヒョ、聞いたことない名前ですねぇ。流石は風水士殿ですなぁ。やはり有名どころの風属性ではないようですなぁ」
「確かにな。その幸運どこまでもつかな?」
奴らはニヤニヤ笑って去っていった。
「彼ら感じ悪いなぁ。でも君が復讐したくなる気持ちもわかるよ」
「それはありがたい話だな」
その後ウィンドゥと別れて俺は部屋に他のふたりを呼び出した。
「ギルド主体の作戦が行われているみたいっすね」
「定期的に行われているあれだな」
聞いたことがある。ギルドが有力なパーティを集めて風の螺旋に挑む、という話は。
それが今回行われているらしい。
「で、何の用で呼び出したんすか?」
「私も気になります」
そう言われて俺は扉が閉まってるか確認してから口を開くことにした。
「率直に言ってウィンドゥの事だ」
「ウィンドゥのことっすか?」
「彼がどうかしたんですか?」
「これを見てくれ」
俺はポケットからとあるものを取り出した。
「羽っすか?これがどうしたんすか?」
「あいつが落としたんだよ」
「これがどうかしたのですか?」
俺はこれを室内の火に近付けてみた。
すると
「ひ、光ってるんすか?」
「すごい綺麗ですねー」
「ここからが本題だ」
俺は羽をアイテムポーチにしまった。
「このダンジョン内でこんな羽を持つモンスターは確認されていない」
「そうなんすか?」
「俺は貴族の子で期待はされていなかった。だからこそ勉強する時間は与えられていたがこのダンジョン内にはこの羽を持つモンスターはいない」
「そうなんですね。でも他のダンジョンではどうなんですか?」
「現在確認されている限りでは━━━━いない」
そう言うと場に沈黙が降りた。
「ならあの羽は、何なんすか?」
「さぁ、分からない。ただまぁあの男から裏切りの意思があるようにも見えない。だから一先ずはこれまで通りの関係を続けたいが。ここで話したことは絶対に他言するな。それと表情にも現すなよ」
※
「やぁ、カイム」
「ひとつ聞きたいことがあるんだがいいか?」
「いいよ。何を聞きたい?」
「このダンジョンのモンスターは多くが風属性で有利を取れないし、いいとこ等倍だ。なのに何故螺旋に挑んだ?」
「やっぱ気になる?そうだよね。螺旋での風属性の役目は加護の付与だけだもんね」
「そうだな。なら他のダンジョンに挑んでメインアタッカーとして活躍した方がいいんじゃないかって思ってな」
メインアタッカーと加護の付与役では報酬に大きな開きが出る。
この男ほどの実力があるなら他に行った方がよさそうだが。
「風が好きなんだ」
「風が?」
「火は嫌いだし水も嫌いだ。だから風の螺旋に来た。それに風の魔石が取れるのはここだけだし」
そう言って夜空を見上げるウィンドゥ。
「僕は聖竜騎士に憧れてる。だから今は自分の力を高めたいんだよね」
「そうなんだな」
「それにいいとこが等倍な敵ばかりが相手だとやっぱり自分も強くなるんじゃないかってそう思ってる。力と力が拮抗してるなら頭を使うしかない。戦術性って言うのかな?それも身につけたいんだよね」
「なるほどな。それもそうだ」
「強さって力だけじゃないだろ?知識もそうだって僕はそう思う」
口にしてることは何も間違っていなさそうだ。
「飯は食べたか?」
「ご飯かい?まだだよ」
「一緒に行かないか?今ギルドの連中が食事にしているらしいが俺達も食べていいって言われてるからさ」
「おっと。それはいいね」
そう答えたウィンドゥと俺は食事に向かうことにした。
「あれ風水士君じゃんwww」
食事からの帰りザスティンと出会ってしまった。
「まさか本当にいるなんてwwwシュライさんのジョークかと思ってたんだがwww風の螺旋のレベルも落ちたのかなぁwwwまさか難易度お子ちゃまレベルになるなんて風の螺旋も落ちたもんだwww」
笑いながらそう口にしているザスティン。
「ところでさ。風水士君と、そこの君wwwこれ、整備室まで持ってってくんない?」
そう言ってザスティンが俺たちに装備を預けた。
「今回ここの料理の材料取ったの俺たちなんだよ。ありつけたのは俺たちのおかげwwwよろしくねwww有難いと思えよな俺たちの荷物を持てるなんてwww」
そう言って去っていったザスティン。
「癪だが面倒事をこれで回避できるならな」
俺は適当に持つことにしたらそれに倣って持ち上げるウィンドゥ。
「重いねこれ」
苦笑する。
まぁ軽くはないな。装備だし。
「ふぅ………重かった………」
整備室まで運んだら本気で疲れたようなウィンドゥ。
「お疲れさん」
そう言った時俺はウィンドゥが俺を見ていることに気付いた。
「どうした?」
「いや、なに次のフロアボス知ってるよね?」
「分かってる。ミラージュバードだろ?」
「そうだね。不可視の幻鳥。それを相手に君はどんな戦いを見せてくれるか………それが楽しみでね」
「別に、どうということはない。ただ普通に戦うだけだ」
「今日はもう寝ようぜ」
「そうだね。疲れたよ」