7話 エドワードを追い詰めた
風の螺旋15階層。
そこにそいつはいた。
「エドワード………」
俺達は急いで階層を駆け上がってきた。
「おや、お前はあの時のクソガキか。それにニーナか。今更Sランクのこの俺様に何の用だ?」
「それはこっちのセリフっす!セーフエリアにこんなものが落ちてたっす!」
そう言って怒ったようにエドワードに遺書を突き付ける彼女。
「ほう。奴隷の分際で字が書けるなどやるではないか」
くくくと笑うエドワード。
「人の命をなんだと思ってるんすか」
「人?奴らは人ではない俺を盛り立てるための道具に過ぎん」
「その通りだエドワード。それでこそこの俺が率いる風林火山のメンバーだな」
さっきから存在が気になっていたが、そう口にしたのはエドワードの横にいたシュライだった。
「ところで風水士?お前は何をしに来た?せっかく助かった命を捨てに来たのか?」
「風水士は脳みそまで風水だから死にに来たんでしょうねぇwww」
「ひょーひょっひょ。そうですなぁ。風水士は馬鹿なので」
いつもの面子で俺を笑ってくるシュライ達。
「それで、死ぬ準備は出来たか?風水士、と聞きたいところだが」
「ここは俺に任せてくださいよ。シュライさん」
「そうだなエドワード。幹部候補である貴様に任せることにしよう。奴隷はいくら使い潰しても構わん。奴隷は爆!発!させるために存在するからなぁ!ガーハッハッハッハ!」
「ヒョーヒョッヒョッヒョ!奴隷は爆発に限りますなぁやはり」
「そうだよなぁwwwゴミなんだから死に際くらいは輝かせてやらんとなぁwww風水士それはお前も一緒だぞwww」
「だが良かったな?ゴミの風水士?俺は今忙しいんだよ。ここでくたばっていろ」
そう告げて次の階層に向かうシュライ。
「とまぁそういう訳だ風水士。ここでお前を殺して俺は風林火山の幹部になる」
そう言ってエドワードが剣を抜いた。
「ほかの人達はどうしたんすか?」
「え?死んだけど?」
「あんた本当にクズっすね」
「何を言っているゴミが人類のために死ねる。それ以上の栄誉があるかよ。ハーハッハッハ」
顔に手を当てて笑う男。
「俺がどれだけ搾取されたと思っている。次は━━━━俺が捻り潰す番だヒャーッハー!」
突っ込んでくるエドワード。
だが
「そこは突風だ」
「ちぃっ!」
俺たちに剣を振るおうとした直前横凪の風に吹き飛ばされたエドワード。
「加護のランクはやはり低いか」
「はっ。お前を捻り潰すのにこれ以上のランクは必要ないハンデだよ」
「その言葉後悔するなよ?」
俺はアナ達に声をかけ服を掴んでもらう。
「俺の移動する方に付いてきてくれ」
「わ、分かったっす」
「はい」
返事を貰えたし俺はエリアを自由自在に移動する。
エドワードの連れてきた奴隷の周囲には10分後に強力な突風が吹く。それまでには何とかしないと。
「はぁっ!はぁっ!」
エドワードは無属性魔法の使い手らしく、次から次に魔法で作り上げた剣を作り投げてくる。
「甘いな」
しかし距離が空いていては避けやすい。
それにここは俺の戦場だ。
「す、すごい………こんなに自由自在に飛び回れるなんて」
「ほんとですー飛んでるみたいです!」
「舌噛むなよ」
そう言いつつ俺は各所にバクエンフンを撒く。
これは見られていても見られていなくても構わない。
「ちぃっ!風水士の分際でちょこまかと!黙って殺されろ!」
「お前がな」
しばらくそうして必要な分のバクエンフンを撒き終えた。
それも終わったころ奴が顔をしかめた。
「何だこれ」
風によって運ばれたバクエンフンはエドワードの周囲を漂う。
「何だ?この大量の粉。服にも付いてやがる」
「知らないなら知らないでいい。己の無知を恨むのだな」
「無知?何を言ってやがるこの馬鹿風水士が!それに何をするつもりだ貴様!服を汚しやがって、それにこんなもの出てしまえばこちらのもの!」
「残念だな。そこが貴様の墓場だよエドワード」
「何を言ってやがる!こっちには加護があって風なんて無視して移動出来………何だこれ」
その場から移動しようとしているが出来ないエドワード。それもそのはずだ。
「風が………!何だこれ!」
「今その場は強風が集中している。お前のかけてもらった加護ランクで防げない強風がな」
「ば、馬鹿な!おい!どうなってやがる!奴隷共!俺を助けろ!」
「………」
虚ろな目でエドワードを見つめる奴隷達。
どうやら強風のあまり全部聞こえていないようだ。
この調子なら俺たちの声だってギリギリ聞こえているのかもしれないな。
「その粉何だと思う?」
「し、知らねぇよ!」
「バクエンフンって聞いたことないか?」
「バクエンフン………?」
「アホなお前のために説明してやるけどな。爆弾の原料に使われる可燃性の粉だよ」
「可燃性………粉?爆発………?」
「見せてやるよ1回だけ」
そう言って俺は別の場所に流れるようにバクエンフンを撒いた。
そこに
「ニーナあそこに向けて矢を撃ってくれ。アナ、ニーナの矢の先端に火を」
「了解っす」
「はい」
2人は返事をして直ぐに実行に移った。
そして矢を放つ。それと同時に俺は持ち帰ろうと思っていた風王狼の死体を放り投げた。
またいつでも回収できるしここで使った方がいいだろう。
すると、ドカーン!!!!
大爆発が起こった。
勿論死体は粉々になった。
「な、何なんだよ今の………」
その場に座り込むエドワード。
「やはり、知らないか」
「い、今何が起きたんですか?!」
「ば、爆発?でも、どうしてっすか?」
2人も知らないみたいだし説明しておこうか。
「粉塵爆発だよ。可燃性の粉塵に引火して起きる爆発さ。バクエンフンはこれを起こすのに適した粉塵。さて、エドワード君に質問です」
「な、何だよ!」
ガチガチと体を震わせるエドワード。
ようやく自分の立ち位置を理解してくれたらしい。
「あの爆発━━━━人体が喰らえばどうなるか気にならない?」
「や、やめろ………やめてくれぇ………」
「なんでやめないとダメなんだ?。それにしても無様な姿だな」
皮肉気に笑う。
今まで自分に絶対的な自信を持っていたくせに少し状況を理解したらここまで必死に命乞いするんだな。
「か、金ならやる!悪かった!この通りだ!」
ようやく自分が追い込まれていることに気付いたのか目から涙を流して土下座するエドワード。
「命は惜しいか?」
「当たり前だろ!助けてくれ………悪かった。だから………命だけは………」
「言いたいことはもうないか?」
「………ゴミ扱いしてすまなかった。この通りだ。命だけは………頼む!帰れば自首もする!必要ならば風林火山の話もギルドにする!頼む!」
「どうする?」
俺はニーナに顔を向けた。
「言いたいことはそれだけっすか?」
「ほ、報酬も払う!すまなかった!やめてくれ!やめてくれ!」
「へー。そうなんすねー」
「た、頼む。命だけは」
「仕方ないなぁ」
「あ、ありがとう!ニーナ!必ず金は!」
「なんて言うと思いましたか?」
冷徹な目でエドワードを見つめるニーナ。
「みんなあんたにそうやって命乞いしたんじゃないんすか?知ってるんすよ。あんたが奴隷達にしてきたことの仕打ち」
そう言ってゴミを見つめるような目をしているニーナの姿はやけに印象に残るのだった。