6話 また問題が起きているみたいだ
風の螺旋10階層
「す、すごいです加護なしでここまで上がったのって前例がないんじゃないですか?」
アナが呟いた。
確かにそうかもしれないな。
「そうっすよね。加護なしだといいとこ5階層くらいまでじゃないですか?」
「これが、風水士の真の力なんですね!カイム様!」
「そうなのかもな。あの時にピンチになったからこそ俺の中に眠っていた風水士としての感覚が目覚めたのかもな」
「そう言えば聞いたことあるっすよ。昔は大自然を操っていた人がいるって話。故意に地震を起こしたり竜巻を起こしたりしてたって。もしかしてそれも風水士なんすかね」
ニーナが不思議そうにそんなことを呟いた。
「その話は俺も聞いたことあるな。だが俺には今のところこうやって風の流れを見切るくらいしか能力がなさそうだがな」
苦笑する、俺もその話は聞いたことがあって風の流れを操作してみようと試みたがどうしても変わらなかった。
「でもでもあの時みたいに風に乗ってバビューンっと飛んでザシューって切り付ける方が強そうじゃないですか?」
そう聞いてくるアナ。
「あ、私もそれ見たいんすよねー。どんな感じだったんすか?」
聞いてくるニーナ。
どんな感じと聞かれてもな。
そう悩んでいた時だった。
「グルルルルルル!!!!ガルルルルルルル!!!!」
「風王狼っすか!」
ニーナの言った通りそこにはあの時に出会ったあいつらがいた。
「ちょうどいいかもな」
俺は剣を抜いた。
「あいつらでどんな感じか見せてみようか」
俺の目には風の流れが全て見えている。
「2人はここにいてくれるか?ここは無風だ」
「で、でも大丈夫なのですか?」
「そ、そうっすよ。カイムって何処までいっても風水士っすよね?でも、風王狼は3匹もいるっすよ?勝てるんすか?」
2人とも心配そうに見てくるが。
「問題ない。俺には勝ち筋が見えてる」
そう言って移動を始めるとハグれた俺を追ってくる3匹の風王狼。
1人ずつ仕留めようとしているつもりらしい。
しかし
「キャウン!」
1匹の風王狼が風の壁によって阻まれていた。
「そこは突破出来ないぞ、でもな」
風に乗った俺は風王狼の首を剣で叩き落とした。
風王狼の皮はそこそこの硬度がある。
しかし風の力も乗せた一撃は防げないらしい。
「俺の方からは移動出来る」
「ガルルルルルルルガルゥ!」
2匹目の風王狼が突っ込んでくる。
こいつは風上にいたようでさっきの俺のように風に乗っている。
しかし
「甘いな」
体の向きを変えた俺は迎え撃つように風王狼と向かい合い、そして
「ここじゃなければお前の勝ちだったろうな」
そう呟いて体を後ろに倒した。
「ガル?!!!」
突然の事に驚いたらしい風王狼だが風の勢いは奴でもなんとも出来ない。
そのまま勢い余って突っ込んでくる風王狼が俺の体の上を通る。
その時に
「おらよっと」
腹部を蹴りあげてそのまま通過させ反対方向に向かわせる。
「キャウン!キャウンキャウン!!!!」
その進行方向は強風だ。
そのままの勢いで更なる強風に乗せられた風王狼はそのまま運ばれてやがて
「キャウーーーーン!!!!!!」
壁に凄まじい勢いで衝突してその身を横たえた。
「グルルルルル………」
「来いよ」
残り1匹の風王狼。
「ハッハッ!」
しかし残り1匹で不利を悟ったのか逃亡を始めた。
「逃がすかよ」
俺は風に乗り追いつくと。
「よっと!」
「キャウン!」
もう1度切り付けて倒した。
これで3匹の討伐を完了した俺はもう一度風の流れを確認して2人の前まで戻った。
「す、すごい………」
「いつ見てもすごいですね」
2人ともそう言ってくれる。
「そうか?俺は風を利用しているだけだし誰でも出来そうだがな」
「で、出来ないですよ!こんなの!」
「そうっすよ!これはカイムにだけ許された戦い方っすよ!」
そう言ってくれる2人。
「照れるな。とりあえず先に進まないか?」
ずっと要らないと言われてきた風水士だから本当にそう褒められると照れるな。
その照れ隠しをするように俺は先に進むように促した。
※
風の螺旋11階層。
「セーフエリアがあるみたいだな」
「これで一休み出来ますね」
「私ももう疲れたっすよー?2人はどうっすか?」
「俺ももう疲れたところだな。とりあえず今日はこの辺りで休んでおくか?」
「そうですね。休憩も立派な戦術だと思います」
セーフエリア。
それは常に危険に晒されるダンジョンにおいて一定の安全が保証される場所だ。
どのダンジョンにも一定階層ごとに設置してあるものだ。
多くは小屋のような形をしており外は特殊な結界で囲まれている。
「ようやく休憩できるな」
セーフエリアに入って俺は腰を下ろした。
「ふー。疲れたっすー」
「私も疲れましたよ………」
俺の両隣に座ってくる2人。
「私たちの他誰もいないっすね」
「そうですねー。もっとワイワイしてるものかと思ったのですけど」
「いや、ワイワイはしないと思うぞ」
「そうなのですか?」
「いや、そりゃまぁな。だってすぐ外は殺し殺されのダンジョンだぜ?そんなすぐにワイワイは出来ないだろうさ」
「は、それもそうですね。カイム様の強さで安心しきっていました」
「俺はそんなに強くないと思うがな。それよりも常に緊張はしておくべきだろうな」
その後も俺はアナと話していた。
だからこそ気づかなかった。
「どうしたんだ?ニーナさっきから真面目そうな顔をして」
「いや、この机の上の手紙何なのかなって」
そう言ってこちらにピラッと紙を見せてきた彼女。
「置き手紙か?しかし誰に向けて」
「んー、これなんて書いてるんすかね?すみません。私馬鹿で字があんまり読めないんすよね」
そう言って俺に渡してきた彼女。
「………やばいなこれ」
「何がどうやばいんすか?」
「なんて書いてあるんですか?これは」
アナもどうやらこの字は読めないようだった。
「遺書って書いてあるな」
「遺書っすか?」
「何なのですか?それは?」
2人とも聞いてくる。
「簡単に言うと死ぬ前に伝えたかったことを残した手紙のようなもんだよ」
「それ………やばくないっすか?」
「やばそうだな。中見るぞ」
俺は急いで封のしてあった手紙を空けて中にあった書面に目を通す。
「私は………殺されますって書いてあるな」
「どういうことっすか?」
「た、助けた方がいいんじゃないでしょうか?」
「そうだろうか。殺されるって書いてあるってことは………くそ………」
読み進めたらとんでもない言葉がそこには書かれてあった。
「どうしたんすか?」
「この手紙を書いた子はエドワードのパーティに所属しているらしい。そして━━━━魔力タンクとして使われる、と。くそ外道が………先を急ごう!」
魔力タンク、様々な使われ方があるがそのどれもが悲惨な終わり方にしかならない。
間に合えばいいんだがな………。