32話 交渉
「すまない………カイム」
アリスに謝られた。
見た限りあの件を気にしているらしいな。
「また………君に借金をさせてしまった」
「気にするなよ。ただ次は最低限書類を書かせてくれ、悪いが今回は言い返せる気がしなかった」
実際にあったことだという証拠がなければ、証明のしようがないからな。
「怒ってるか?」
「別に」
「なんて優しいんだカイムは」
何故か知らないが後ろから俺に抱きついてきたアリス。
「絶対………嫌われてると思った」
「アイムのやり方は知ってる。それを伝えなかった俺にも落ち度はあるだろう」
だから気にしない。
あいつはもともとあんな奴だ。
かなり頭が回る。
「すまない………」
「謝るな。謝るくらいなら反省をしてくれ。ただただ謝罪の言葉を吐くなんてことは誰でも出来るが、それを反省して次は同じ過ちをしない。これは誰にもできることではないんだよ。俺はアリスにそういう誰にでも出来ないことをして欲しいと思っている」
「カイム………分かった」
「分かったならよかった」
そんなことを話していた時だった。
グーーーー。
「………////」
顔を赤くするアリス。
聞くまでもないことだが一応聞いておくか。
「腹減ったか?」
「う、うん」
「何か食べようか」
※
「おい、ギルドマスター」
俺が酒場でアリスと食事をしていたらシュライが近くに来ていた。
「何で先日のダンジョンの攻略の功績がお前のものになっているんだ?」
「それは………確かにカイムのもののはずなのに私なのがおかしいが………」
「あ?てめぇ何言ってんだ?」
シュライがアリスの目を睨む。
「今はそこのゴミの話はしてねぇ。だいたい何だ?ゴミの功績?笑わせるなよ?あのダンジョンで活躍したのは俺だしあのダンジョンを攻略したのも俺だしダンジョンマスターを倒したのも俺だ。てめぇらの出番なんて1秒たりともなかったんだよゴミ共。それが何で俺がいなかったかのように扱われてんだって聞いてんだよ能無し」
ここまで汚い言葉を吐けるのもすごいな。
「の、能無し?」
「そうだろ?ノータリンが」
シュライが今度はアリスに手を伸ばそうとしたので俺は逆に手を掴んだ。
「あ?離せよゴミが。誰が触れていいと許可を出した?」
「それはこちらのセリフだシュライ」
「誰が名前を呼んでいいと言った?」
今度は俺に向かって拳を振ってきたが。
それを避ける。
「誰が避けていいつった!」
避けたことに怒ったのか拳を振ってくる。
しかし
「俺の目には全て見えてるぞ?」
その全てを避けた。
「ノータリンのゴミが………ふざけんじゃねぇぞ。俺は!Sランクの冒険者なんだぞ?その俺に功績がなく、何故お前にあるんだ?ギルドマスター!」
「だってお前力尽きて倒れてただけじゃん」
それは当然の話だろうよ。
しかし俺の言葉に顔を怒りに染めて奴は掴みかかってきた。
「シュライ!いい加減にしろ!」
「黙れ!黙れ!黙れ!何故この俺に功績がないのだ!そんなの認められるか!」
俺の胸ぐらを掴んだその手を掴むアリス。
「それ以上騒ぐなら王に報告するぞ」
「くそが………覚えてろよ。今度は………殺す」
今までも大概だったが今回こそは逃がさないと言うような目で俺を見て去っていくシュライ。
そろそろあいつともケリを付けなくてはならないかもな。
※
「おかえりなさいませーカイム様!」
村に戻るとナナが出迎えてくれた。
「あぁ、戻ったよ」
「ご苦労さまなのですー」
「ナナこそ。ありがとな」
彼女と会話していたところウィンドゥが近寄ってきた。
「やぁ、カイム。久しぶり、だね」
「あぁ」
「君に頼まれていた分の飛空船は完成したよ」
そう言って彼は村の外に作られた飛空船に目をやった。
「それにしても君の作ってくれた制作図は完璧だったね」
「それはよかった。歪みとかはなかったか?」
「全くないよ。僕もね。人間に話を聞いてみたんだけどこういうものを作るには優れた知識が必要だって聞いたんだけど、君も何か習っていたりしたの?」
「いや、独学だよ」
「独学なんですか?!すごくないですか?!それって!」
俺の手を取ってきたナナ。
「時間だけはあったから一通りの知識は詰め込んだだけだよ」
「そんなことを事も無げに出来るのが君の凄さだよねカイム」
そう言って微笑むウィンドゥ。
そんなものだろうか。
そんなことを思った時だった。
「失礼する」
男が声をかけてきた。
「君がカイムという者か?」
そちらを向くと男が立っていた。
隻眼の男だった。
「そうだが」
「私はアルカディス王国のマグルスという者だ」
そう言って俺に礼をしてきた。
「その礼は………」
俺が呟くと俺の顔を見てきたナナ。
彼女にはこの礼の意味が分からないらしい。無理もないだろうが。
「君も貴族だと聞いている。この礼の意味が分かるだろう?」
「分かるが何故俺に敬意を表した?」
この礼は最高位にある礼の仕方だ。
これ以上はないという敬意を表す時にするもの。
「単刀直入に言おう。君の………」
ナナやウィンドゥを見る男。
「君たちの制作した飛空船はこれ以上ない代物だ。どこをどう見てもこんな飛空船を作れる人間はそうはいないし、この飛空船を超えるものは今後中々出てこないだろう」
そこで、だ。と口にして続けるマグルス。
「この飛空船を売ってもらえないだろうか?」
「飛空船を?」
「金は出す。そうだな。一般的に取引されている飛空船の10倍出そう。それだけ出しても問題ないほどの性能がこの飛空船にはある。どうだろうか?」
俺はナナに目をやった。
「どうだ?」
「カ、カイム様が決めてください!わ、私には決められませんよ」
「いや、これを制作したのはナナ達だ。どうするかは任せるよ」
そう言うと困ったような顔をするナナだが。
「申し訳ないのですが考える時間をもらっても大丈夫ですか?」
「構わないよ。私も既にそこの彼に経緯は聞いている。思い入れもあるのだろう?なら私も君たちに敬意を表して待つことに抵抗はないよ」
そう口にしたマグルスという男だった。
さて、ナナはどのような答えを出すのだろうか。




