31話 またやってしまった
「カイム」
俺が夜1人で夜風に当たっていると話しかけてきた奴がいた。
「世話になったな」
「父さんか」
「お前には手間をかけてしまったな。だがありがとうカイム。お前のおかげで私は牢獄から開放された。何とお礼を言えばいいか分からない。でもこれだけは言わせて欲しい、今まで済まなかった。今ではお前は私の誇りだ」
「別に気にしなくていい」
「いい仲間を持ったみたいだな」
「あぁ。みんな良い奴だ」
「私には手に入らなかったものだ。大事にするがいい」
「言われなくてもな」
そう答えると父さん………カイザが心苦しそうな顔をした。
「本当に済まない。お前に借金を擦り付けてしまったような形になってしまって。それに………アイムの奴が随分好き勝手にやっているようだ」
「また何か借金が出来たのか?」
「あぁ。あいつはまた難癖を付けてお前に借金をさせている」
「またか。ずる賢いやつだ」
しかし、俺も自由にさせるつもりは無い。
「俺に対策がある。それより親父はどうしてここへ?」
「お前に礼を言いたくてな。無理を言ってこちらへ来たのだ。まぁ伝えたいことはこれで終わりだ」
そう言うと父さんは手を振りながら去っていった。
それにしてもまた借金か。
面倒なことになりそうだ。
※
「カイム・ブランフォード」
俺はまた王国の王城に呼び出されていた。
呼び出した主はやはり兄のアイム。
「用件は理解しているな?」
「借金と言いたいのだろう?」
「ふん。話が早いではないか」
鼻で笑うアイム。
「水剣の渦の攻略は見事であった。しかしお前はまたしてもギルドを………」
そう言いかけたところダン!と机を叩いて立ち上がるギルドマスターのアリス。
「それについては私からお話があります。アイム殿」
「何だ?私は王の騎士だが、何か言いたいことがあると?」
「地位は関係ないでしょう。アイム殿。ここにいるカイムはかけがえのない人材です」
「ふん。それがどうした?」
「彼は水剣の渦、その攻略に貢献してくれていました。各ダンジョンの攻略は王の悲願ですよね?それを果たした彼にまた借金ですか?」
「口を慎め?ギルドマスター?」
次はギルバートという貴族が立ち上がった。
「ここは神聖なる場だ。ギルドマスター。一介のギルドマスター如きが簡単に口を挟むなよ?」
「し、しかし」
「口を慎めと言った。お前はただあったことをたんたんと報告していればいい」
「報告しました。カイム・ブランフォードは王の悲願を果たした。借金を背負わされるような真似は………」
「ない………と?アイム殿の目には狂いがある、とそう反対するつもりか?」
「………ぐっ………」
ダメだなあのギルドマスター。
助け舟を出してやろう。
「やめてくれ。ギルドマスター。アイムの言ったことに間違いはないだろう。というより最後まで聞いていないのに決断を下すのは些か早計というものだ」
「ギルドマスター。本人がここまで利口なのだ。少しは見習い給えよ」
ギルバートは俺を小馬鹿にしたような言い方をして座り直した。
それを見たアイムが告げる。
「カイム・ブランフォードは無断でギルドの大勢を動かした。2度目だ。知らなかった、では済まされないことは分かっているな?」
アイムがそう告げるが今度こそ
「無断ではありませんアイム殿!私は貴方に確認を取りました!」
アリスがもう一度立ち上がる。
「貴方は許可を下さいました!それで私は………」
「ギルドマスター?」
にこやかな笑顔を彼女に向けるアリス。
「私が━━━━いつそのような許可を出した?」
「なっ………出したではありませんか!作戦決行のかなり前に貴方に許可を取りに来ました!」
「証拠は?」
「証拠………」
「私には記憶が存在しないが」
そう言って薄ら笑うアイム。
間違いなく記憶があるが追求を避けられる奴にしか浮かべられないタイプの笑みだ。
「まさか口頭で許可を貰った、とは言わないよな?」
「ぐ………」
「くくく………ふふふ………」
アイムがそういい笑い始めると
「くくく………」
「ははは………」
周りの貴族達も笑いだしたこと思えば。
「「「「ははははは!!!!」」」」
包み隠すことなくこの部屋にいた貴族達全員が笑い始めた。
「まさか口頭での約束に効果があるとお思いか?ギルドマスター殿」
ギルバートがそう問いかけた。
「ギルバート卿、ギルドマスター殿はそこのカイムに『口頭』で求婚されて頭の中がお花畑にでもなっているのだろう。そしていざ自分が嫁になろうとした時に紙面での契約もないのに『私たち結婚の約束したよね?』と喚き散らしているのだろう」
くすくすと笑い始めたアイム。
性格の悪い男だ。
「なっ!そ、そんなことは………」
「例えだよギルドマスター殿?君の言っていることはそれだけ愚かな事だと言っているだけだ。口頭での約束?笑わせるなよギルドマスター。そんないくらでもでっち上げられるものが本気で証拠になるとそう思っているのか?」
「ぐ………」
その場で黙って座り込んでしまうギルドマスター。
「やはりこれだけ若くてはギルドマスターは務まらないな。前代はこんな馬鹿げたことを口にしなかったが」
やれやれと首を横に振って席に座るギルバート。
「さて、カイム」
アイムが俺に目をくれた。
「貴様が作戦のリーダーを担っていた。それで相違ないな?」
「ない」
黙って答える。
もうお手上げだ。
「なるほどな。では貴様にはやはり借金をもう一度抱えたということになるな。前回の借金は我々のありがたーい心で今回の報酬と相殺してやる。しかし今回の分もやはり前回と同じくらいの額………いや前回の倍程になってしまった」
「は?え?」
いや、それはないだろう。
「おかしいだろ?内訳を教えてくれ」
「鉱石を取りに行かせただろ?その人件費と本作戦での実働、その他諸々を含めての借金だ」
「ばかな」
「きっちりと計算した請求書をくれてやろうか?」
「………いらねぇ」
こいつの事だからどうせ無理やり金額を合わせに来ているはずだ。
なら未来が変わることも無い。
「いい返事だカイム。では次は返済の時に会おうか」
奴がそう言って今回の集会は終わった。
落ちこんでいる姿が目に入ったが、ギルドマスター………ダメじゃないか………。




