23話 悪魔
水剣の渦20階層。
「泡?」
「泡ですね」
それを見てサーシャは俺と同じものに見えたらしい。
空気中を泡が漂っていた。
「何もいないですね」
「そうだな」
そう言いながら先に続く道を歩き始める。
「しかし、この泡は何なんですかね?」
「さぁな。とにかく先に進もうぜ。何故か俺たちに付いてきてくるみたいだしなその泡は。触らぬ神に祟りなし」
「そうですね。無視できるならした方がいいです」
サーシャもみんなも俺に着いてきてくれる。
そうして次の階層に向かう階段まで来たところ。
「オォォォォォォ!!!!!!」
声が聞こえた。そしてそれと同時に
「なななな、何ですか?!階段が閉じましたけど?!」
サーシャの叫びと同時にそれが起きた。
フロア内にあった水泡が一気に炸裂した。
「よっと」
その時、海の中から1人の人影、男が飛び出てきた。
その手には何かが握られていた。
そして男はそれを投げ飛ばす。
「げふっ!」
何かが呻いた。
男の投げ飛ばしたのは一人の男だった。
「おいおい、こんなもの序の口だぜ?もっと楽しませてくれ」
「もう、無理だ………」
力なく項垂れる男。
それを見て海の中から出てきた男がこちらを向いて歩き始めた。
「ようこそ水剣の渦へ。えーっと、お前が風水士?」
「そうだが」
「へー。探す手間が省けたってわけか。俺の名はアクラ。別に覚えなくていいぜ。ここで死ぬわけだしなお前は。そんな無駄なことに時間を使うなら遺書の1つでも書くことだな」
「アナ。ニーナ頼めるか?」
「は、はい!」
「任せてっす」
2人が俺の前に出て武器を構えた。
そして行う連携攻撃。
しかし
「は、外したっす!」
「そ、そんな!」
「おいおい、危ねぇな………雷属性ねぇ………」
アクラと名乗った男に避けられていた。
「おらよっと」
アクラが右手を横から前に動かした。
するとゴォォォォォ!!!!!
このダンジョン内に海水による1本のトンネルのようなものが作られた。
その中に飛び込むアクラ。
「おらおらぉ!」
凄まじい速度で動き俺たちに水の弾丸を放ってくるアクラ。
「きゃっ!」
それにマリーが当たった。
「あれ、痛くない………」
「当たりめぇよ。女は利用価値がある。俺が始末するのは風水士………男であるてめぇだけだぁ!」
そう叫びながら水のトンネルと一緒に突っ込んでくるアクラ。
「ちっ」
風の加護をみんなにかけると四方に別れてもらう。
離れるのは良くないが仕方ない。
それに
「おらおらぁ!」
水の弾丸を放つアクラ。
その狙いは俺だけに見えた。なら俺のやることは囮だ。
アナとニーナに目をやると2人とも頷いてくれた。
そしてそのままさっきの攻撃を続行してくれるようだ。
「風水士てめぇの首持ってけばマスターも俺の働きを認めるだろうなぁ?」
「どうだろうな」
突き出された拳それを延長するかのように海水もまた俺に迫ってきていた。
どうやら奴はその海水を自由自在に使えるようだ。
そしてその中は自由自在に動けるし海水自体が高速だ。凄まじい速度で迫り来る。
だが
「俺の方が速いな」
「ちっ。うるせぇな。今から追い詰めてやるから黙ってろ」
四方に海水を伸ばして俺を狙ってくるアクラ、だが
「ぐぁぁぁ!!」
「やらせませんから」
「そうっす!私たちのこと忘れてないっすよね」
2人の矢がこのトンネルに当たってそこから感電したようだ。
「くそ!」
トンネルから出てくるアクラ。
「えっ………」
「それを待っていた」
俺は一瞬にして近付くと風の刃を奴の首筋に当てた。
「………ちっ………」
「チェックメイト、だな?」
高速で回転する風の刃は切れ味もまた一流。
こいつの首くらい即吹き飛ぶだろう。
「………この俺が、海神の1人である俺が………このような奴に捕まるとは」
「相手が悪かったな」
「殺したけりゃ殺せよ………正直ここから逆転出来る………勝ち筋が見えねぇ」
「潔いんだな?」
「それが戦士だからな。俺は神であると同時に戦士だ。にしてもまさか………あんな小娘の弱魔法に捉えられるとはな」
「海水は雷をよく通すはずだ。それにお前たちも耐性のないものだと踏んでいた。相手が悪かったな」
「まったく………その通りだな。体が痺れて………思うように動かねぇ………」
「ならお前に恨みはないが眠れ」
※
水剣の渦21階層
階段を塞いでいた扉も開いたしアクラの飛ばした男を引きずり次の階層に移動した俺たちは男に声をかけることにした。
「あ、記憶が………」
「大丈夫か?」
声をかけてみるが。
「そんな男に優しくする必要はないです。カイムさん」
サーシャがそう言うと男を納刀した状態の刀でぶん殴った。
「ちっ!てめぇ!」
「ほらこれがこの男の本性ですよ!カイムさん!さぁ!」
怒りかけた男の右手を止めながら話を続けることにする。
「さぁ!がどんな意味か分からないしあんな風に急に叩かれたら誰でも怒るだろ」
「あっ………」
気づかなかったのが言葉につまる彼女。
しかし
「お前、いやお前らかな?何をやった?」
「………」
言葉に詰まる男。
近くにはすぐ壁があり海中と繋がっている。
さっきアクラが飛び出てきたところを見るに何らかの力で隔絶されているが一応出入りできるのだろう。
男の首筋を掴むと海に向かって突き出す。
「答えたくない、か?もう一度海中遊泳でもしてくるか?」
「や、やめろ………やめてくれ………頼む………」
「なら、話せ」
強引に投げ飛ばすが男は受身も取らずにその場に倒れた。
「俺はこのダンジョンに入ってからサーシャと出会ったがあんな風に初対面の人間を殴るようには到底見えない」
「そうです。そうなんですよ!この男が全部悪いんですよ!」
そう訴えてかけてくるサーシャ。
「何をした?」
「ひっひぃぃぃ!!」
男は酷く何かに怯えているようだった。
「あ、悪魔だ!超デカイ悪魔が………いたんだ………」
「悪魔?」
「こ、こんなんだ!いや、こんなんじゃない!そこのダンジョンの端から端………いや、それでも小さいな。とにかく、馬鹿みたいにデカい化け物がいたんだよ!」
「?言っていることがイマイチ分からないが」
「し、信じてくれ。いや、信じてください!」
男が俺にしがみついてそう言ってきた。
言っていることは分からない。
「サーシャ。何があったか話してくれるか?」
「分かりました」
そう言い彼女は話出そうとした。




