20話 サーシャという少女
「私をお供にしてください!」
少女の言葉に少し驚いた。
「お供?」
「はい。お供から始めましょう。そして仲間となりやがては………恋人となるのです」
「は?え?」
「ということでさ、行きましょう!」
彼女が何故か俺の背中を押して先に進ませようとしてきた。
「いやいや、まてまてまて」
「私をお供にはしたくないのですか?」
「いや、そういう事じゃなくてな」
「じゃあどういうことなのですか?もしかしてこの中に既に恋人がいるとか?」
周囲をサラッと見た少女。
「そ、そうなのですか?!」
「そうだったの?カイム」
「そうだったんすか?知らなかったんすけど!」
アナ達が何故か俺に向かってそう言ってきたが。
「いや、いないけど」
「ふっふっふーならば問題ありませんね。さ、行きましょう、この道の先に私たちの道が続いているのです」
よく分からないことを口にしているが先に聞くことがある。
「名前は?それからジョブは?色んなことを聞いていないぞ」
「はっ!忘れていました!」
そう言って俺の背中から離れるとみんなの見える位置に立った少女。
「私の名前はサーシャです。好きな物はカイムさん。好きなことはカイムさん。好きな色はカイムさん。好きな食べ物はカイムさん。ジョブは水魔法使いです。よろしくお願いします!」
答えとして間違っているものがいくつかあった気がするがとりあえずスルーしておくか。
「あぁ、よろしくなサーシャ」
「では、行きましょうカイムさん!」
「何だか強力なライバルの出現な気がするんですけど?!」
「サーシャ………油断ならない子だね」
「そうっすよ。抜け駆けはさせないっすからねー」
サーシャの後にアナ達がよく分からないことを口にしていた。
なんの話をしているんだろうか。
そんなことを思いながら俺たちは下に向かうことにした。
「カイムさんカイムさん!見てくださいよーあれぇ!!!!」
下に降りた途端サーシャがはしゃぎ出した。
俺の手を掴んで前へ前へと進んでいく。
「何なんだ」
俺も尋ねてみたが。
「あれですよーあれ」
彼女の指さした先には特段特別でもなんでもないモンスターがいただけだった。
「あれ風王狼に似てませんか?」
「似てるな。というより亜種だろうな」
「亜種、ですか?」
頷くと簡単にだが説明することにした。
「あぁ、ちなみに風王狼も亜種と言えば亜種だ。元々はウルフと言う名の何の特性も持たない原種がいたんだが。それが突然変異を起こし各ダンジョンで生活出来るようになったものが亜種だ。それに名前が着いて風王狼となった」
「じゃああれも名前があるんですか?」
「あぁ。水王狼と言う名前だ。昔本で読んだことがある」
「カイムさんは物知りなんですねぇ」
俺を凄いものを見るような目で見てくるサーシャ。
「特別力を持たない俺にとって知識というのは大事だったからな」
そう答えた時だった。
「ガルゥ!!!!」
こちらに向かってくる水王狼の姿。
それに向かって
「やっ!」
ニーナが弓を撃ってくれた。そしてその矢先には軽くだがアナの魔法によって雷が纏われていた。
それは真っ直ぐに飛びモンスターに突き刺さる。
「キャウン!!」
犬みたいな鳴き声を上げて沈むモンスター。
「すごい………あんなに簡単に倒しちゃうなんて………」
それを見てサーシャが今の連携を見せた二人を見ていた。
「い、今のなんなんですか?!」
今度は何故か俺に聞いてきたサーシャ。
「その質問は俺にじゃなくて2人にするのが正しいんじゃないのか?」
「はっ、そうですね!でもカイムさんも分かるんですよね?」
「まぁな。あれは、そうだな。水ってのは雷をよく通すんだよ。特に塩を含んだ海水のようなものはよく通すらしい。それをまだ乾き切ってない水王狼に使うとどうなるか答えは簡単だ。体が麻痺して動かなくなる」
「そ、そうなんですね!初めて知りました。そう言えばあのモンスターさっき海の中から出てきましたもんね。流石です。モンスターに合わせて戦い方を変える………これがカイムさんの戦い方なんですね!すごいです!」
「そうか?」
自分ではそうは思わないが。
「そうですよ、カイム様。普通は皆さん定石通りの戦い方をするのですが、カイム様はそんなものに囚われず臨機応変に対応しますよね。それがカイム様の強さだと私は思いますよ」
そう言ってアナも微笑む。
「そうっすよ。フェニックスの時のダンジョン内で戦わず敵の思ってもいない攻め方をする。誰にも出来ない戦い方っすよ!」
「そうだね。私もあの作戦には驚いたよ。なんて言うのか意表を突くってこういうことなんだなって思った」
まぁたしかにあの作戦はそうかもしれないな。
そんなことを思いながらも俺たちは先に進むことにした。
※
水剣の渦5階層。
俺たちのいる場所だ。
なのだが………
「厄介だなこれは」
「そうですね。どうするつもりですか?こんな水の壁どうやって進むつもりですか?くぐろうとした瞬間全身の骨が砕けそうな勢いですけど」
俺たちの進行を妨げているものがあった。
そしてそれは俺だかではなく。
「ったくSランクの俺がこんなゴミと同じところで足止めを食らうなんてな」
「全くだ。この俺達がこんなギルドにも所属していない奴らと並ぶとはな」
シュライ達がここにはいた。
「まぁまぁ、2人とも落ち着いてよ。僕達がこのダンジョンを攻略するのは既に決まりきっている事実じゃないか。そんなダンジョンに今更挑んできたこいつらを今は笑おうじゃないか」
「そうだな。ゴミはいつまでたってもゴミ。俺としたことがそれを忘れていたようだな」
自分たちが攻略することを疑いもしないシュライ達がそんな会話をしていた。
「誰ですか?この人たち」
サーシャが空気を読めなかったのか俺にそう聞いてきた。
「俺が誰か?そんなことも知らないのかゴミの仲間は流石だな」
苦笑するシュライ。
「いいぜ。知らないなら答えてやるよゴミが。俺の名はシュライ。この世に存在する全ての高難易度ダンジョンを攻略する人間だ」
「でも、風の螺旋を攻略したのはカイムさんですよね?」
「いや、あれを攻略したのは俺だ。断じてそこのゴミではない。俺がフェニックスを相手に殆ど体力を減らしたところでそのゴミが全てをかっさらっていったのだ。つまりこれは俺が攻略した事にほかならない」
言っていることがめちゃくちゃだ。
「感謝するのだなゴミが。俺のおかげでお前は英雄を気取れるのだものな?」
お前がそんなことを口に知るのなら俺も考えがある。
「あぁ、感謝してるよお前がいいところで負けたくれたもんであとは楽だったよ」
「貴様………風水士の分際で………必ず殺してやる」
くくくと笑い奴は何をするのかと見ていれば何故か戻り始めた。
「ここは開かない。この先には進めない。俺たちは優雅に他の手法を探すとしよう。ははははは!!!」
高笑いして去っていく男たち。
「嫌な人ですね」
「嫌な奴の1人は2人はいるものだがな」
そう答えながら俺は俺でこの水の壁をどうしようかと悩み始めていた




