表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/36

2話 Sランクモンスターの討伐と生還

「な、何だ………これ」


 恐るべく早く不可視の魔法であるかまいたち。

 それが見えていた。

 軌道が………見えていた。

 このまま動かなくては当たるはずのその刃。


「こっちこい!」

「きゃっ!」


 驚いている少女の手を引いて俺は駆け出した。

 かまいたちだけじゃない見える!見える!!!

 風の流れが手に取るように見える!!!


「ガルゥゥゥゥゥ?!!!!」


 避けられるとは思っていなかったのか驚いている狼。

 俺は風の動きが目に見えることで風を利用して移動した。

 追い風だったのだ。

 いつもでは出せない速度で俺はかまいたちから逃げ切った。


「な、何ですか今の?!」

「喋るな。噛むぞ!」


 そう言って縦横無尽に吹き荒れる風の中を移動する。


「ガ、ガルゥゥゥゥゥ!!!!!!」


 しかしそんな俺を追いかけてくるモンスター。

 だがそれは叶わない。


「残念だな。向かい風だ」


 通常の速度で言うなら風王狼と人間とでは移動速度に差がある。

 決して埋まらないものだ。

 しかし俺は追い風、やつは向かい風を受けている。

 しかもこのダンジョン内の今の風は強風。


「追いつけねぇだろ!」

「ガ、ガルゥゥゥゥゥ!!!!!」


 またかまいたちを繰り出してきた風王狼だが


「向かい風だって言ったろ?」

「キャウン!!!」


 自分の繰り出した技に切り裂かれていた。

 かまいたちは強力な攻撃。それだけあって自信のカウンターになった時のダメージも大きい。

 前足が2本削ぎ落とされていた。


「こっちだ」

「は、はい!」


 俺が動き回る中少女も何とか走ってついてきてくれる。


「あいつを倒す。捕まってろ」

「え?えぇ?!!」


 驚いている少女を抱えて体にしがみつかせると腰の剣を抜いた。

 今は追い風。

 奴のいる空間は今は無風。

 俺はジャンプして風に乗る。


「これで━━━━終わりだ!」

「キャウウウウウウン!!!!!!」


 俺は剣で風王狼の首を切り裂いた。

 ダンジョン内の強風を活かして振り下ろされた剣。

 即死だったようでパタリと倒れる風王狼。


「今のは………」


 何なんだろう。

 俺は風水士だがあんなにはっきりと風の流れが見えたのは初めてのことだった。

 というより俺は


「今の………未来だったよな?」


 俺は風の動きを予めこの視界に移していた。

 風に乗れたのだってそうだ。

 俺が予め風の進行方向に移動してそこから乗ったからだった。


「す、すごい………今の風王狼………ですよね?」


 俺の剣を見てそう呟く少女。

 さっきまではこんなんこと確認する暇なんてなかったが、綺麗な銀髪の髪に綺麗な青色の瞳を持った少女だった。


「そうだな。自分でも驚いてるよ」

「もしかしてSランクの冒険者さんですか?」

「いや、俺は万年Fランクだよ。風水士って言ったよな?このジョブはこれからも固定でFランクになると言われているほど底辺職だよ」

「ご、ごめんなさい………」


 何故かシュンとする少女。


「いや、気にするな。それより君の名前は?」

「は、はいアナスタシアです」

「何でこんなところに1人でいたんだと聞きたいところだが奴隷か?」

「は、はい………」


 やはりか。

 この国で奴隷の価値は恐ろしい程に低い。


 ダンジョンを進むのも楽ではないのだ。

 物持ちをさせて運ばせるだけ運ばせて邪魔になれば置き去りにするというのはよくある話だった。

 アナスタシアも恐らくそうなのだろうな。


「アナって呼んでもいいか?」

「はい」

「俺とこないか?」

「い、いいんですか?」


 頷く。


「俺も実質奴隷のようなものだったからさ。仲良くしてくれ」

「は、はい!よろしくお願いします!」



「あんた、何者だ」


 近くの村に帰ってきた。

 とりあえずは風王狼の素材を買ってもらうことにした。

 今晩の宿代もない。


「何でもいいだろ?風王狼、幾らで買ってもらえる?」

「こんだけでどうだ?」

「構わない」

「しっかし、風王狼は狩猟難易度Sだろ?まさかソロで倒したのか?」

「そんなところだな」

「あんたジョブは?偽物じゃねぇだろうなこれ」

「風水士」

「ふ、風水士だと?」


 ダン!机を叩いて立ち上がる店主。


「信じてくれ。それは偽物じゃない。調べてくれて構わない」

「すげぇな………確かに本物みたいだな。悪かったな熱くなって。だが最近はこいつを狩れる奴らも少なくなっていてな。偽物が出回ることもあるんだ」

「いや気にしていない」


 風水士は戦闘向きのジョブではない。だから俺がソロ討伐した、なんて話信じられないんだろう。

 しょせんは自然の気を読み取って運を呼び込む、その程度のジョブだ。

 今では趣味枠としてやる奴はいてもジョブとしてやるのはかなりの少数。


「それでもう問題ないか?」

「構わない」


 俺は金貨を受け取って立ち去る。



 宿でお互い軽く自己紹介をする。


「俺は、とりあえず風の螺旋を攻略したいと思ってる」

「あのダンジョンをですか?………折角生きて帰ってこられたのに」

「俺には時間が無いんだ。俺は没落貴族でな、父親が悪い奴らにハメられて多くの借金を作った」


 そのせいで父親は王国管轄の牢獄に入れられている。

 そして俺はその父親の借金を返すためにこうして金を用意しようとしているところだ。


「風の螺旋の攻略には大金が報酬として用意されている。俺の親父の借金はその報酬と大して変わらない額なんだ。それだけ莫大な借金は攻略以外じゃ返せないんだよ」


 そう言ってアナの顔を見る。


「俺と一緒に風の螺旋に潜って欲しい。感覚は掴んだ。きっとまたあの時のように俺は風に乗れるはずだ」


 あれは恐らく風水士の本来の姿なんだと思う。

 自然の流れを的確に読み取ってそれを利用し戦う。

 それがきっと本来の姿。

 今は確信できていた。

 

「頼む」

「いいですよ」

「ありがとう」

「私に何が出来るか分かりません。でも、生まれて初めて私を助けてくださったカイム様のために尽くしたいんです」


 そう言って微笑んでくれる彼女。


「ありがとう。本当にありがとう」


 そういった時だった。


「ちょっと話が違うっすよ!ていうか何処に行くつもりなんすか?!」

「何が違うんだ?」

「報酬が明らかに違うっすよね?元々少ないのにこんな何桁も少ない額でどうしろって言うんすか?」


 俺達の取った宿、その下から声が聞こえてきたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ