12話 あと一人
風の螺旋39階層。
「そういえばウィンドゥ様はたまに何か採取していますけどあれは何なんですか?」
30階層を超えてからウィンドゥが頻繁に拾い物をしていることを疑問に思ったのか聞いているアナ。
「あぁ、これかい?」
今もそうして拾った鉱石を見せながら聞いているウィンドゥ。
「これは風の魔石だよ。これにこのダンジョンに発生している風の力が封じ込められているんだよ」
そう説明しているウィンドゥだが。
「そ、そうなのですね」
よく分かっていなさそうなアナだった。
「まぁ、アナが使うことは無いだろうし知らなくていいことだぞ」
一応それだけは教えておいてやる。
「そういえばカイム」
ニーナが話しかけてきた。
「次は多分シュピーネって人が邪魔してくると思うんだけど」
「ふむ。それがどうかしたのか?」
「えーっと、そのー火炎無効ってさっきの人は言ってたけど大丈夫なんすかって思って」
「そんな事か」
「そんなことって、私たちのメインの戦法じゃ、無効化されて終わりじゃないっすか?」
不安そうにそう聞いてきたが急になにか思い浮かんだような顔をする彼女。
「あ、もしかしてとっておきの作戦とかあるんすか?」
「とっておきとまでは言わないが俺なりに作戦は考えている」
「ほんとなのですか?ちなみにどういった作戦なんでしょうか?」
「別に作戦というほど大げさなものじゃないがな」
そうして話していたらウィンドゥが参加してきた。
「どうする気なんだい?君にはいつも驚かされる。良ければ何をするつもりか教えてもらえるかい?」
「別に何も普通の事だよ。今まで通り粉塵爆発を使おうと思う」
「だがさっき火炎無効と言っていなかったかい?爆発も一応火炎に分類されるんじゃ?」
そう口にするウィンドゥだが狙いはそこじゃない。
「今ここでドヤ顔で語っても失敗した時辛いから黙ってていいだろうか?」
「まぁ、そう言うなら楽しみにしてるっすよ」
返事をしたのはニーナだった。
「そうしてもらえるとたすかるよそうして貰えると助かるよ。さて、行こうか」
※
俺たちは1層登って40階層までやってきた。
そこには
「ようこそ風水士殿。お待ちしておりましたよ」
慇懃に腰を折るシュピーネがいた。
「シュライさんはこの先に行かれました。追いたいならば」
シュピーネが炎の剣を抜いた。
「私を倒してから行くのですねぇ?ですが」
顔を気持ち悪くゆがめて笑うシュピーネ。
「もっとも、あなたみたいなゴミ風水士になど負ける気がしませんがねぇ?」
「いや、俺はお前をここで殺す手筈については考えてきた」
「何を考えてきたのですか?教えてくださいよっほっほっほ」
そう言って炎の剣を投げてくるシュピーネ。
その数はいつの間にか何十にもなっていた。
しかし
「………な、何故私の剣を避けられる!」
シュピーネのこの投擲は狙った的を外さない。
そう言われているほどの速さと的確さを持っているのだが。
「風が教えてくれる」
そう答えて俺は次から次に避けていく。
風が全て教えてくれていた。
「ふ。何をするかと思えばまたバクエンフンですか?」
くくくと笑うシュピーネ。
どうやら俺を馬鹿にしたいらしい。
「貴方は火炎無効という私の特性を知らないのでぇーすぅーかぁぁぁぁぁ??ばぁぁあかぁぁぁ???」
そう言われているあいだも俺はせっせとバクエンフンを撒き続けた。
そうして
「チェックメイト、かな」
俺は皆の元に戻ってニーナに弓を引かせた。
「おほほほほほ!そちらが積みでしょう?!」
そう言って構わずに剣を投げ続けるシュピーネ、だが、
そのうちの1本がバクエンフンを起爆させた。
ドドドドカーン!!!!
爆発が連鎖する。
「ふはははは!!!!!馬鹿め!私は火炎無効………あれ」
首を横にひねるシュピーネ。
「………何だこの違和感………貴方はかつて私の隣で戦っていた」
「そうだな」
腕を組んで答える。
何かに気付いたらしい。
「………そして風水士殿、あなたは頭がよかった。没落したとはいえ貴族の出だ。初めはとち狂ったのかと思いました」
黙って俺の目を見るシュピーネ。
「ですが風水士殿、私の知るあなたはもっと聡明だ。貪欲に………どんな窮地だろうとどれだけ仲間が弱っていようとそこから生還させ見事に勝利を掴むことのできる御仁」
「俺をそこまで評価していたんだなお前」
「そうですよ。貴方はシュライさんにも評価されるほどの人だった」
何かに気付いたようで顔を真っ青にする男。
いや、真っ青にしているのではなく自然になっているのだろうか。
「何だ………この息苦しさ。私は、何か大変な見落としをしている………のか?」
「そうだな。お前は俺を好き放題に動かせた段階で敗北は決まっている」
顔をゆがめる。
「いったい………何をした?この私に!何をしたのですか!」
つかみかかって来そうな形相だが。
「ひ、ひぃあぃ!!!!!」
伸ばそうとした指は先端が消し飛んでいた。
「言ってなかったか?今その空間から出ようとしたら指………いや、体が消し飛ぶぞ?」
それだけの風の速さが周りにあった。
「き、聞いていない………た、助けて………」
「自分の血を見て死ぬということを理解したか?」
「し、しました!た、助けて!く、ぐるしぃぃぃぃ!!!!」
「悪いがもう無理だよ」
そう言って宣言してやる。
「俺がお前に手を伸ばせば体が吹き飛ぶし、何よりお前もう長くないよ。苦しいんだろ?」
「く、ぐるじぃぃです!!!死ぬのですか?!私は?!」
「あぁ、お前は死ぬよ」
「な、なぜですか?!!」
笑って答えることにする。
「そんなこともしらないのか?簡単なことだよ。酸素不足。人が生きるのに必須なものを取り込めてないんだよお前の体は」
「さ、酸素?」
「そうだ。粉塵爆発………もそうだが火を燃やすのにも酸素というものは必要だ。そして俺がさっき行ったこと、覚えてるよな?」
「………まさか粉塵爆発で………酸素を消費した?」
「正解。お前は自分で引き金を引いたんだよ。加えてそのエリアは風の流れの関係上空気が外部から入ってこい。死ぬ以外にないんだよ」
そう答えてやると胸を抑えて倒れ込んだシュピーネ。
「いや………です。死にたくない死にたくない死にたくない!!!!」
「諦めろ。それがお前の死だ。さぁ、無様に死んでくれ」
黙って見ていると奴の顔はどんどん青ざめていった。
そしてやがて動かなくなった。
それを見て俺はみんなに声をかけることにした。
「次に、進もうか」
「は、はい」
「そ、そうっすね」
アナとニーナは俺を驚いたように見ていた。
「そうだね。先に行こう」
ウィンドゥは何故か面白いものを見たようなそんな顔だった。




