10話 難所を突破した
風の螺旋30階層。
「眠いですー」
「そうっすね」
「眠いけど仕方ないね」
3人がそんな事を口にしている。
「仕方ないだろ?ギルドやシュライ達を出し抜くためには早めに行動するしかない」
俺たちは1時間ほど仮眠を取って直ぐに次の階層へ向かった。
「ここからは未確認のエリアですよね?」
「そうだな。風の螺旋は30階層以上は誰もいけていないマップだ」
「そうだね。次のボス戦である、ミラージュバードがどうしても強いからね」
それはよく言われていたことだ。
このフロアのボスミラージュバードが強すぎて誰も攻略出来ていない。
「風属性吸収でしたっけ」
「そうだな。だが今回はギルドの連中も色んな属性を連れてきているみたいだからそれで何とかなっていたかもしれないな」
だから早めに出たのもある。
「ヨクキタナニンゲンドモ」
その時高空からミラージュバードと呼ばれるモンスターが降りてきたようだった。
「聞いていたとおりだな。姿が見えないな」
ミラージュバードと呼ばれる理由はその姿だ。
見えないのだ。
どこにいるか分からなずに攻撃が通らないのがこのフロアボスミラージュバード。
向こうからは見えていて様々な風魔法で何人もの冒険者を葬ってきたモンスター。
「どうする?カイム見えないんじゃ手のうち用がなさそうだが」
「ククククソウダ。キサマラハブザマニシヌガイイ」
ミラージュバードのかまいたちが飛んできた。
しかしそれはこのフロアに吹き荒れる風邪によってかき消された。
「フロアボスと言ってもこのダンジョンの真のボスが作り出すこの風には打ち勝てないようだな」
今の俺の目には風のランクすらも分かるようになっていた。
「ダガ、ソレハキサマラノホウガエイキョウハオオキイダロウ」
構わず魔法を使ってくるミラージュバード。
「俺についてきてくれ」
みんなに声をかけて俺についてきてもらう。
そうして何度も何度も奴の魔法を避け続けた。
「ナ、ナゼ!ワレノマホウヲソコマデヨケラレル!」
「焦りが見えてきたなミラージュバード。当たり前の話だよな?かまいたちの速度は凄まじい。しかもそれを本体が見えない状態で撃たれて避けられるやつはそういないだろう」
「ナニヲリカイシタヨウナコトヲイッテイル!ニンゲン!」
奴のかまいたちが再度飛んできた。
「ナ、ナゼダ。グウゼンデハナイノカ」
「ここまで避けられて偶然だと思っていたのか?ミラージュバード?」
俺は荒れ狂う風の中移動してきた。
事前にウィンドゥには加護を解除させて風に乗って移動してきたわけだ。
そして今
「捉えたぜ?」
「グッ!ナニヲ!」
「な、なんの感触ですか?これ?」
「も、もしかしてこれモンスターの上っすか?」
「どうやらそのようだね」
俺たちは無事にミラージュバード、不可視の鳥の上まで来れていた。
「ハ、ハナレロ!」
必死に旋回して俺たちを叩き落とそうとしているミラージュバードだがしっかりとしがみついた俺たちをそう簡単に落とせない。
「オマエ、ニンゲン、ワレノスガタガミエルノカ?」
「いや、見えないさ」
現にこうしている間も俺はこいつの姿が見えない。
「それよりも、なるほどね声がそっちから聞こえるってことは頭はそっちか」
おおよその位置は分かった。
「キ、キサマ!」
叫んでくるミラージュバードの上を移動して首根っこの部分を掴んだ。
「みんな、俺の体を片手でいい。支えてくれるか?」
みんなが返事をしてからそれぞれの手で俺の体を支えてくれる。
そうして俺は剣を抜いた。
「ヤ、ヤメロ!」
「チェックメイトだミラージュバード」
その剣を俺は深く、深く柄まで押し込むかのような勢いでぶっ刺した。
「グァアァアア!!!!!!」
鮮血が吹き出して見えないはずのミラージュバードに付着していく。
まさに真っ赤な鳥が出来上がっていく。
「コ、コノワレガニンゲンゴトキニウタレルトハ………」
呻きを漏らしながら落ちていくミラージュバード。
ドーン!!!!
大きな音を鳴らして落下したミラージュバードの上から降りた。
「不可視の鳥はこれにて討たれた、ね」
ウィンドゥだけは特に変わらずそこに立っていたが。
「す、すごいです………ミラージュバードを討伐………」
「すごい………Sランクパーティすら命をかけて逃げ出すことしか出来なかったあの鳥を………討伐するなんて………」
「流石カイム様です!!!!」
「流石っすねカイムー!!!」
アナとニーナが飛びついてきた。
「僕としても結構驚きだよカイム。まさかミラージュバードを討伐しちゃうなんてね」
落ち着いた頃ウィンドゥがそう言ってくれた。
「お前にそう言われても何だか嬉しくないな」
「酷くないかい?」
苦笑いするウィンドゥ。
「さて、そろそろ上に行こうか」
そう言った時だった。
「何だ!今の音は!」
下から足音が聞こえてきた。
しばらく待っていると下の階からギルドの作戦に参加していた奴らが登ってきたのだった。
「あ、あの赤い塊もしかしてミラージュバードか?」
1人が叫んだ。
「まさか、討伐されたってのか?誰が?」
「あいつらじゃねぇのか?!あのミラージュバードの横に立っているあいつら」
「すげぇな!ミラージュバードを倒すなんて!」
「でも、何者なんだ?あいつら?シュライさん達じゃないよな?」
名前を出されシュライに視線が集まっていた。
「………てめぇ………何してくれてんだ」
本人が俺に近付いてきた。
「このSランクの俺を差し置いて何討伐してんだ?殺すぞ?」
「怖い怖い」
そう答えておく。
「腐れ風水士が………次会ったら地獄に落としてやるって言ったよな?」
そうニヤッと笑ってシュライがギルドマスターに向き直った。
「ギルドマスター!ここから俺たちは単独行動をする!ではな!」
「シュ、シュライ?!」
ギルドマスターの声も無視してシュライは俺たちを追い抜いて先へ進んでいった。
「殺してやる」
だが最後に俺をふりかえってそう口にしたシュライ。
入れ替わるようにやってきたのはギルドマスター。
「君は、あの時のか」
「世話になったな」
「まさか、君がミラージュバードを?」
「そうだな」
「Sランクパーティが何度も撃退された最高難易度を誇るモンスターを討伐してしまうとは………君はいったい何者なんだ?」
「ただの風水士だけど?」
「ふ、風水士?!」
驚くギルドマスター。
風水士の信頼のなさがよく分かるな。
「すごいな。風水士がミラージュバードを討伐するなど………良ければここからの作戦に参加しないだろうか?」
「いや、遠慮しておく」
「そうか。残念だ、しかしまた気が変われば声をかけて欲しい」
「分かった」
そう答えて俺も先に進むことにする。
シュライより先にたどり着かなくてはな。




