1話 追放されて死にそうです
「はぁ、悪いねぇ風水士君。君には【不慮の事故】で死んでもらうよ。知ってるよな?目撃者もいない、証拠もないダンジョン内での殺しは事故死になる。だから━━━━殺すには持って来いってさ」
この世界にはいくつものダンジョンがある。
中にはかなりの難易度のダンジョンも存在する。
それがこのダンジョン。
「ぐぅ………!!!!」
【風の螺旋】と呼ばれる最難関のSSSランクであるダンジョンに俺、Fランク冒険者のカイムはいた。
そして地に倒れ伏していた。
当然このダンジョンにはモンスターが出現する。
だが俺はモンスターにやられた訳ではなかった。
「最低職の【風水士】を入れると思ったか?」
訊ねてくるパーティーリーダーのシュライ。
こいつは俺とは正反対の最高職である【魔法剣士】だ。
各属性の魔剣を扱って戦う現状最強と呼ばれているジョブ。
「………俺を………ハメたな?」
「バカを言うな。お前がハマったんだろうがマヌケ。冷静に考えて風や水の流れを利用して運を呼び込む、そんな胡散臭い何の役にも立たないゴミをパーティに入れると本気で思ったのか?」
俺の頭を踏んでくるシュライ。
鼻で笑っている。
「風水士如きがこの風の螺旋に挑戦すること自体がおこがましかったんだよ。弁えろ。ゴミクズが。えー、誰だっけ名前忘れたけど」
「ごめーんwww俺も名前忘れちゃったわ誰だっけ風水士君www」
シュライの後に俺のことを誰か分かっていなさそうな言葉を吐いた男ザスティン。
「ひょーっひょっひょっひょ貴方はもう不要ですよ。おほほほほほ。そぉぉぉぉれ」
気持ち悪い顔をした男シュピーネが気持ち悪い動作で俺の腹に蹴りを入れてきた。
「それ以上はやめて」
だがそんな俺をかばうようにシュライの足を退かしてくれた少女がいた。
「歯向かうか?この俺に」
「そうは言ってない………」
「いいんだぜ?マリー?社会的に殺してやっても。俺が一言言ってやればいくらお前でもお前の立場は終わる。俺は最高職、誰もが憧れる魔法剣士、そのことの意味が分かるよな?」
シュライがマリーにジリジリと近付く。
「………私は変わらずにシュライについて行く。でもカイムにそれ以上暴力はやめて」
「ほう?カイムに手を出すな………か。そいつの名前はカイムというのか。奴隷など多すぎていちいち覚えていなかったが」
「それ以上カイムに手を出すなら私はこのパーティを抜ける」
「それはお前の地位が無くなってもいいということか?」
「当然」
マリーは怯むことなくシュライを睨む。
「お前の地位を奪うことではやはり脅迫にはならないか。いいだろう。ここで抜けられても困る」
そう言うと俺に目をやるシュライ。
「良かったな?命拾いしたな?勿論追ってくるなよ?お前はもう用済みだ。もっともお前のようなゴミ以下の雑魚ではこの先の強風の前では一歩も進めないだろうが。せいぜい身の程をわきまえろよゴミカスが」
そう笑いながら言って先に進んでいくシュライ達。
だが残ってくれたマリーは俺に回復魔法をかけてくれた。
「ごめん。今はこれだけしか出来ないけど………」
「いや、ありがとう」
マリーの回復魔法のお陰でボコボコにされた俺だったが何とか立ち上がることが出来た。
「ううん。こっちこそありがとうだよ。風水士………みんな嫌ってるみたいだけど私はカイムに助けられた。だから本当に感謝してる」
「おい、マリー早く来い!」
「ごめん、もう行かなくちゃ。じゃあね」
彼女は立ち去った。
シュライ達の元へ走っていった。
「くそ………」
※
俺は1人で風の螺旋から離脱ようとしていた。
このダンジョンが風の螺旋と呼ばれている理由だが風が螺旋のように渦巻いて出来ているダンジョンだからという単純な話だ。
そんなダンジョンなだけあって中は風が吹き荒れている。
弱風から強風様々だがここではありとあらゆる法則が無視され縦横無尽に風が吹く。
そしてそんなダンジョンの中で
「………おうちかえりたい………」
「またか………」
少女が捨てられていた。
黒髪を肩で切り揃えた瞳の大きな黒髪の少女だった。
こんな少女がここに置き去りにされるのは日常茶飯事の事だ。
「………誰か助けてよ………」
小さく蹲って膝を抱えている。
「大丈夫か?」
普段ならこんな高難易度のダンジョンで人を助ける事なんてしない。
正直な話自分が生存するので精一杯だ。
でも今の俺はこの少女と似たような境遇だったから話しかけたのだろう。
「………だれ?」
「俺はカイム。風水士だ」
そう名乗ったその時。
「ガルルルルルルルル!!!!!!」
モンスターの声が聞こえた。
背後を振り返ると。
「こんな時に………風王狼だと」
「グルルルルルルル!ガルゥゥゥゥゥ!!!!」
姿勢を低くして今にも飛びかかってきそうなモンスター、風王狼がいた。
「あ、あのモンスター強いんですよね?」
訊ねてくる少女。
正直このダンジョンの中では1,2を争うほどのかなりの強敵に入るモンスター。
「ガルゥゥゥゥゥ!!!!!」
風王狼が魔法を使おうと予備動作に入った。
「くそ!かまいたちか………ここまでか………」
鋭い風の刃で切り裂いてくる遠距離攻撃。
それがかまいたち、現状風属性最強と呼ばれている魔法だ。
その攻撃が当たって生き残れる冒険者などそうはいない。
特に俺のような奴隷階級が着るような装備ではマトモに受けては致命傷は避けられないだろう。
そしてその速度は恐ろしく早い。
並の冒険者では視認することすら出来ず気付けば死んでいると言われるほどの魔法。
「しょせんは………無様な風水士か………」
今の俺にあのかまいたちを防ぐ手段なんてない。
かまいたちにぶつけられるほどの魔法なんて使えない。
圧倒的に向こうが有利な読み合いになっている。
もし俺が避けるのを読んで回避先にかまいたちを放てば?
「くそ………」
一か八かステップしてみるか?
ダッシュはどうしても硬直が生じる、その隙を狙われればお終いだ。
だがステップを読まれていては動作後の隙に直撃するだろう。
一瞬の逡巡だった。
「ガル!!!」
そして放たれたかまいたち。
その瞬間俺の視界には
「何だ………これ………!」
ありえないものが映っていた。