殺るか?殺られるか?それが問題だ
殺るのを躊躇ったら、自分が殺られる。考えるのは、殺った後でいい。殺られたら、考えることもできない。そこに訪れるのは闇だ。何もない世界だ。そうだ。死んでしまったら、意味が無い。ボクは覚悟を決めた。
一瞬にして魔力を集め、それを解き放とうとした。その刹那、メイドからストゥツガルドの気配が消えた。
我に返ったメイドは、たいそう驚いて戸惑った顔をした。それを見たボクは無意識に攻撃を止めてしまった。
気づいたら、ストゥツガルドが背後にいた。その黒い手の鋭利な爪で翼の白く細い首筋を優しく撫でまわした。
「甘いなぁ〜 幼いなぁ〜 可愛いいなぁ〜 人の子よ」
赤い血がポタポタと雫となって零れ落ちた。メイドの顔は歪み蒼白になった。
「大声を出すなよ。出せば、お前のご主人様はここで死ぬことになる 安心しろ こっちの大切な頸動脈は傷つけていない」
ストゥツガルドは爪で頸動脈を擦りながら、薄気味悪い笑顔を浮かべた。
「しかし 人とは儚きものだな。いくら魔力が強大で 頭脳に優れ 身体能力にも長け 神の加護すら受けてなお 大切なところを少し傷つけただけで 死に至る」
「ボクをどうするつもりだ」
「ヒヤーハッハッハッハッ!!! だから そう警戒するな 冗談だよ 冗談だよ ブラックジョークというやつだ 人はそういうの好きだろ? はじめに言った通り 俺はお前に感謝を伝えて お前の望みを叶える ただその為に来たのだ」
へっ?!?!なにを言ってるんだ⋯悪魔って言ってたけど、人とは根本的に感覚がちがうのかな?どこまでが本当でどこまでが嘘かが分からない。
「いや こういうのはボクは嫌いだ 冗談で人を傷つけて 血を流させちゃたらダメでしょ 場所が少しでもズレていたら 本当に死んじゃってたかもしんないじゃん!!!」
「そうなのか それは悪いことをした 人の子よ 謝ろう ギャッツハッハッ!!!!」
謝れば、なにをしても許されると思うなよ。翼はガチでそう思った。




