58話 チェイコフ・ストロノガノフ
「なるほど して貴国はどのような形で罪を償うのですかな?」
「貴様ッ!! 無礼であろう!我が神聖ミライリアが罪を犯した そう申すのか?!」
急に小太りの男が怒鳴りつけてきた。クロセット・オバラはその男をまじまじと見つめる。
ハゲ散らかした頭、整ったちょび髭、ポッコリとでた腹・・・見るからに高そうな服を着て、今にも後ろに倒れそうなくらいにふんぞり返っている。
傲慢と堕落を絵に書いたような男である。こういう輩は基本的に小物だ。自分の自信の無さの裏返しで偉そうな態度をとっているに過ぎない。
普段は相手にしない。だが今日は大いにおちょくってバカにしてやろう。そうして激怒されて最終的に私が殺される。それで私の仕事は終わりだ。
「失礼ですが 貴殿は?」
「吾輩はチェイコフ・ストロガノフである 」
「チェイコフ殿 貴殿の国も奴隷を使っていたのですから我々と同罪です これは紛れもない事実でしょう 罪人が罪人を裁き金をむしり取ろうなど言語道断 こんなことは子どもでさえ分かる話です 我々がすべきことは共に反省して奴隷のない平等の世界を作ることのはずでしょう それこそが神のご意思ではありませんか?」
「な・・・なにを偉そうにッ 詭弁を弄しおって 神のご意志をお前ごときが語るなど不敬であるぞ」
「はて 神の前では全ての者が平等であると貴国の国教である聖教法の教義に書かれているではありませんか? あなた方が神の意思を語るように私が神の意思を語るのに何も問題は無いはずです だって我々は平等の存在だと他でもない神がお考えなのですから」
もし私が神に対して不敬というならば、神聖ミライリアも同じように不敬だということになるはずだ。勝手に神を代弁して民衆を操ろうする、この者らにこそ天罰が下るべきであろう。
「それともなにか 貴方は間違えを反省して奴隷のいない皆が平等に暮らせる世界を創ることが神の意思ではないとお考えか? 」
「だから、詭弁を弄すでないと言っておろう 口だけは達者な奴だ 白き魔女様に逆らうなどして・・・天罰が下るぞ」
天罰を喰らうべき者が、お前に天罰が下ると脅すとはな・・・本当に神聖ミライリアの連中は唾棄すべき存在のようだ。
「話にならないな この様に仰られていますが 白き魔女様はどう思われますか?」
・・・そこでボクに振らないでよ。なんでボクがボクを攻撃していた人を擁護しないといけないわけ?
そもそも、二人の話を聞いてチェイコフの馬鹿さ加減に呆れて、むしろ恥ずかしくなっていた。
たしかにボクは賠償金を求めるように言った。でもそれは神聖ミライリアの人たちに得があるようすれば、みんなが動いてくれるかなと思ったからで別にどうしても欲しいわけではない。
それに、言われてみると賠償金を求めるのはおかしな話である。オバラさんの言っていることは完全に正しい。
でも、いったん言ったことを変えるのはどうなんだろう。みんなに信用されなくなるんじゃないか?
「えっと その・・・」
どう答えればいいのか悩んでると急に、オバラさんの顔つきが変わった。
「・・・とは、いえ 白き魔女様には深い考えがおありのはず 数々の無礼をお許し下さい 世界商会は神聖ミライリアに従います」
あれ、態度が一変してしまったぞ?!?!?!




