57話 全面戦争 その2
例えば、ここで私が神聖ミライリアの皇帝に逆らったら殺されるだろうか?
私の読みではそれはない。世界の平和を謳っておいていきなり人を拉致して処刑したら国内外問わずに非難が殺到することは必死だ。極力そのような事態になることは避けようとするはずである。
無論、逆らった人間を素直に返すような甘いことをすることなど有り得ないがね。
まずは金や女や権力といった私が欲するものをあてがうなどして、なにかしらの手段で懐柔を試みるだろう。
そして、それを拒否しようものならば力ずくで無理やり従わされるという訳だ。
警戒しなければならないのは魔法による洗脳だ。神聖ミライリアには人を完全に操る魔法があるという。
それをかけられてしまえば、私は神聖ミライリアの下僕と化し世界商会に仇なすものに変貌するだろう。
身内はそれに気付くだろうが、指示系統の混乱は必死であり大きな打撃を受けることになってしまう。
拷問などの暴力によるやり方もある。60歳を過ぎてから苦痛と恐怖により服従を誓うようになるまで拷問を受け続けるなど御免こうむりたいものだ。
兎にも角にも、悲惨な目に合う前に恭順の意を示し、解放されてから反旗を翻すべきだ。
──と、凡人ならそう考えるだろう。
だがこれは悪手だ。確かに嘘をついて相手を欺くという手段は効果的なケースもある。
しかし、この戦いは『世界商会』が正義で『神聖ミライリア』が悪だということを世間にアピールすることが勝敗に直結することとなるはずだ。
なぜなら、戦力的には神聖ミライリアが有利であり、こちらは国際世論を味方につけなければ勝ち目はないからである。
正式な講和条約を結んだ後であれはその場しのぎの嘘でしたという訳にはいかないのだ。そんなことをすれば世界商会は神聖ミライリアの反感を買うのみならず、世界各国の信頼を損ない支持を得ることが出来なくなってしまう。
戦争にもルールはある。それは国際条約という形で存在している。もしこちらがルールを破れば相手もルールを破るだろう。ルールのない戦争は悲惨なものだ。女は犯され大量虐殺が巻き起こるということにもなりかねない。
もちろん国際条約が守られないことはよくあることではあるが、抑止力になっていることは確かなのだ。そのタガが外れた時の人の残酷さというものは筆舌に尽くし難いものである。
私の嘘がそのような最悪な事態を引き起こすようなことがあってはならない。
今、私がすべきことは正論をもって彼らの言い分を論破することなのだ。その結果として牢に繋がれ鞭で打たれて魔法によって精神を壊されたとしても構わない。
私はここで殺されるのがベストなのだ。それによって『神聖ミライリア』の正当性を否定することができる。
そもそも、これは丸腰で敵陣にのこのことやって来た私の失態だ。こういう状況をつくってしまった以上、捨て石として今の自分が出来ることを全うするのみである。
腹を決めて正義の戦いの布石となるしかあるまい。




