06話 牢の中なう その3
1人は寂しい。家にこもってゲームをやり続けていた時に頭の中ではアイツらはみんな馬鹿だと思っていたけれど心のどこかでは自分のことをわかってくれる人を求めていた。
それを埋めるためにネットの匿名掲示板に書き込みをしたりしていたが、ああいうものは結局のところマウントの取り合いで自分がみんなより優れている事を伝えたくて書いているものだ。なので何を書いても否定される。否定されてそれでまたむきになって書き込みをするとやれ真っ赤になってるとか煽り耐性がないとかブーメランだとか書かれるので嫌になってやめてしまった。
だから久しぶりに実際に人に会って優しくされてつい信じてしまったのだ。
ボクはみう達に何かしたか?なにもやっちゃあいないじゃないか。
それなのに異世界にやってきたばかりでなにも知らないボクを親切なふりをして家に連れこみ無理やりお酒を飲ませ眠らせ牢屋の中に監禁した。
「許さない 許さない 殺してやる 殺してやるッ 絶対にだ!」
怒りがふつふつと沸いていた。
だいたいボクが奴隷になりたいと思う訳ないじゃないか。みうは馬鹿なのか。そう言えばエリカがボクのことを頭が悪いと言っていたけど頭が悪いのは彼女達だ。あんなに大泣きして情けない姿を見せて・・・恥ずかしい。絶対にボクはみう達を許さない。
まずはどうにかしてここから逃げ出さなくちゃ。
だけど・・・逃げたとしてどうやって暮らせばいいのだろうか。ボクはこの世界のことはまだなにもわからない。
そうだ。みう達を騙せばいい。とりあえず奴隷になったフリをしてボクを信頼させてこの世界の情報を集めよう。そうして隙をみてみう達を殺してここから逃げればいい。いや殺すのはやり過ぎか?まぁ何にしろここから絶対に逃げださなくちゃ。彼女に媚を売るのはしゃくだけど我慢しよう。うん。
「痛っ」
無理な体勢で長時間拘束されていた腕がついに悲鳴をあげた。痛みをどうにかするためにうつ伏せになったが今度は、胸が押しつぶされて苦しい。つるぺたなのに・・・体を動かすとどうしてももう片方に負担がくる。拘束されていると痛みを逃がすことができないのだ。腕は痺れて感覚がなくなってきた。少し動かすだけで猛烈な痛みが翼を襲う。
もう4~5時間は経っただろうか?みう達が戻ってくる気配は全くない。
「ヤバっ トイレにいきたい・・・」
だが拘束されてるのでどーする事もできない。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
あれから1日くらい経っただろうか?
お腹が空ききってクラクラする。家では母親が必ずご飯を用意してくれていた。それを僕はすぐに食べずに残したりしていた。今更それを後悔する。有り難みはなくなってから気づくものだな。しかし恐怖はまだ始まったばかりだった・・・
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
何時間たったか?何日たったか?もうわからない・・・
夜の寒さで体がガクガクと震える。朝になっても震えが止まらない。寒い。寒い。腹部に激痛が断続的に走る。
「はぁッ・・・はぁッ・・・はぁッ・・・」
我慢できない・・・死ぬんじゃないか・・・冗談抜きでそう感じる。
でも拘束されてるのでどうすることもできない。激痛に耐え続けるしかないのだ。
「もう ダメだ・・・ 頭がおかしくなる」
それでも苦しみは終わらない。何時間も何時間も続く。終わりのない痛み・・・気が遠くなる。みう達はまだ戻ってこない。忘れてしまったのだろうか?思考することさえままならなくなってきた。
「早く 早く 戻ってきて・・・」
翼は心の底からみう達が戻ってくることを願った。だが願ったところで叶うわけではない。
「・・・死にたい」
この痛みと苦しみからなんでもいいから逃れたかった。だが人はそう簡単には死ぬことはできない。翼には舌をかみ切るような勇気もない。
「なんでボクは転生なんてしたんだろう」
転生したからまたこんな苦しみを受けることになった。あの事故の時に死んでいればよかった。なぜ神は僕をわざわざ生き返らせたのだ。翼は神を恨んだ。だがもちろん恨んだところでなにも変わらない。
しかし翼に救いが訪れないわけではない。「死」は確実に近づいてきていた・・・
翼の意識が朦朧となる。
「どうしてボクはいつもこんな目にあうのだろうか」
目には涙が滲んでいた。意識が途切れる。