29話 牢の中の会話
「魔法は自由に使えそうだ 対策はされていない そうジョンさんはボクに言ったよね だから 転移魔法で一気にシュリのいる牢屋の中にやって来たわけだけど 魔法が使えなくなっちゃったじゃん どうゆーことですか?」
ボクはジョンさんに詰め寄った。
「あの その 私が来た時は問題なく魔法は使えていたんです 本当です 信じて下さい」
・・・いやジョンさんに責任を押しつけちゃいけない。これは頭に血が昇ってしまってこういう可能性を想定できなかったボクの落ち度だ。少し落ちつかなくちゃだね。てか誰か気がついて教えてくれればいいのにな。
「はっはっは! 今は魔法を使えなくさせて貰ったんだ 自由に切り替えることができるのだよ もちろん私達は魔法が使える その眼鏡の男は泳がしておいたのだ いろいろと嗅ぎ回っていたようだったからな」
シルクハットをかぶった色白の男が後ろから出てきた。両目にレンズをいれている。なんかエラそうにしているからこいつがボスかな。
「なにを探ってるのか全く見当がつかなくてな 獣人の奴隷を救うために動く人間なんているはずはないが 我ら世界商会と敵対する勢力の存在も心当たりがなかった だから 目的がわかるまで捕らえないでいたのだよ」
「そうしたら姿を見せなくなってしまったから 失敗したと思っておったのだが 念の為に その獣人のガキを殺さないで生かしておいて良かったよ そして今度こそは逃がさないようにすぐに捕まえに来たというわけだ」
ジョンさんダメダメじゃん。全部つつぬけだったのね。
「信じられんことだがこの獣人のガキが目当てだったのかな どこぞの貴族のご令嬢がきまぐれで奴隷に情が移って助けにきたということか まぁ 親からたんまり金をゆすりとってやろう とりあえず男を拷問にかけて全部吐かせるか なんにしろバカなガキどもだ おままごとは家の中でやるんだな」
「無礼な この御方を誰だと心得る 神聖ミライリアの・・・」
急にエマちゃの口調が変わっちゃった。まるで時代劇みたいなセリフだ。
「そんな脅しは効かんよ ミライリアのどんな偉い人間だとしても 私は別に怖いとは思わん 我々はあの国に多額の金を貸し与えている 皇帝だろうが私には頭があがらんのだよ お前らにはわからんだろうが 翼とかいう白き魔女を語るガキが現れてからというもの あの国は政治も経済もガタガタで 我々にとってはいいカモでしかない」
「言ってることは正しいのかもしれないけど それはあなた達がシュリにした事とは関係のないことだ 報いを受けさせたいところだけど おおごとにはしたくないし なによりシュリの治療を早くしたいからサッサッと帰らせてもらうよ」
「話が通じないお嬢ちゃんだ 自分の置かれている状況がわからんのかね 君たちは檻の中にいて完全に包囲されている そして魔法を使うことができない 我々は魔法を好きに使うことができる 腕に覚えがあるのもいる 抵抗するならお遊びじゃすまなくなるぞ いいかい お嬢ちゃん もう君は自分の力でお家に帰ることはできないんだ」
「うるさいな そこにいると危ないよ」
翼は手をかざして魔法を撃ち放った。
牢の扉が吹き飛び扉がシルクハットの男に直撃する。その衝撃で目につけていたレンズは砕け散り、男は呻き声あげながら床に倒れ込んだ。翼はゆうゆうと牢の外に出る。
「て てめぇ なぜ 魔法が!? ボスになんてことしやがるんだッ」
男が剣を抜き斬りかかる。強化魔法もかかっているみたいだ。
「喰らえぇっ・・・!」
ボクは逆にその男に魔法を喰らわす。
「うぎゃあああ〜」
男は後ろにいた人達を巻き込みながら吹っ飛んだ。
「動くなッ! ボクはここでも魔法を使うことができる 殺されたくなければ 手を上げて跪いてなにもしないで 少しでも動けば容赦なく魔法を撃つよ」
みんなが跪いて周りはシーンと静まる。誰も抵抗する人はいないみたいだ。
「エマちゃ シュリを運ぶことできる?」
「大丈夫だよ」
「えとジョンさん 外までの道案内を頼みます」
「わかりました こちらです」
「さあ みんな逃げるよ」
翼達は出口を目指して走りだすのであった。




