28話 牢の中に侵入
『翼ちゃ マジで怒っているみたいだ 頭に血が昇って落ち着きを失ってるわ・・・』
エマ・アラバスターは翼とジョンの話を横で聞いてひどく心配になっていた。奴隷商人と下手に接触するのは危ないということで慎重に立ち回っていたはずなのにいきなり翼ちゃ本人が敵の本拠地に乗り込むと言い出すなんて一体どうしちゃったんだ。向こうで魔法を使うことは一応できるみたいだけどあまりに危険だって。それがわからないはずないのに・・・
そもそも翼ちゃが出向く必要なんてなくない?ジョンって人にお願いして助けにいって貰えばよくない?
ジョンが信用できないから自分で全部やるということなんだろうけどそれにしたって他に方法があるはずだ。
さっきまでの翼ちゃは慎重すぎてウチはむしろ歯がゆく感じていたけどそれが一気に反転しちゃって大胆を通り越して無謀な子になっちゃった。
ここはウチが一旦止めて翼ちゃに少し冷静になってもらった方がいいかもしれない。でも・・・
無謀だろうがお構いなしにやりたいことをやるのが翼ちゃのいいところなんだよね。そこにウチは憧れを抱いているんよ。
だいたいウチはこうやってごちゃごちゃ考えちゃうからあの時にシュリを助けることができなかったんよね。
エマはユリウス・レオンハートがおこなったシュリに対する暴行を止めれなかったことを後悔し続けていた。
ユリウス王子を守る騎士であった自分が殿下に反逆するなんて絶対にあってはならないことだ。そう教わってきたしそう信じこんでいた。
だけど絶対にそうしなければならないなんてことは人に決めてもらうことじゃない。自分でそれを決めるべきなんだ。ウチは翼ちゃに出会ってそれに気づいたんよ。
翼ちゃはユリウス様を殺したけどそうしなければシュリと同じように暴行をうけていた。そして奴隷を無くそうとして今まさにシュリを助けようとしている。これは否定されることだろうか?
人によっては否定するヤツもおるだろけどウチの心は翼ちゃが正しいと言っている。自分が納得すればそれでいいんじゃないってウチは思うんよ。とにかくウチは人は自分の思いを貫き通してもいいということを翼ちゃに教わったんだよ。
それにそうしないと自分の良心の呵責に耐えられなくなっておかしくなっちゃう。
どうしてもエマはシュリを見捨てたという後ろめたさを自分の中から消すことができないでいた。どうにかできる立場じゃなかった。そう何度も自分に言い聞かせていたがどうしても納得できなかったのである。
シュリの叫びを・・・シュリの涙を・・・あの悪夢のような出来事を毎日毎日、思いだして苦しくて苦しくてたまらなかったのである。
ウチは見ているだけだった。助けることができなかった。今度は今度こそは助けるんだ。
・・・そっか。やっぱり翼ちゃが正しい。初対面の胡散臭いおっさんにこんな大切なことを任すことなんてできるわけないや。
どんなに危険でもウチが必ず翼ちゃを守ればいいじゃん。簡単なことだ。ウチが敵を全員切り捨てればそれですむ。
エマは覚悟を決めたのであった。
「それでは行きましょうか この魔法陣に入って下さい」
翼ちゃとウチとそしてテスタロッテが魔法陣の中に入った。どうやらジョンは転移魔法を使いこなせるみたいだ。それならテスはいらないと思うけど彼女もついてくるんね。危険って事がわかっているのかしら。戦闘が出来るようにはみえないけど・・・
そうして4人は魔法陣に吸い込まれるように姿を消した。
ここは・・・牢屋の中っぽい。部屋の中は薄暗く大きなボロ雑巾のようなものが落ちている。
「シュリ!!!」
それは人だったのだ。翼ちゃは髪を振り乱しすぐに駆け寄った。
「よかった まだ息がある テス 転移魔法をお願いッ すぐ王宮にもどるよ」
そう指示をだすと自分のロープをシュリにかけた。
「あれ あれ 使えない 使えない 使えないよ 翼ちゃん 魔法が・・・」
テスタロッテは小刻みに震えながら翼に訴えた。
その瞬間に牢屋の外の地面に魔法陣が浮かび上がりイカついガラの悪そうな男達が現れた。
「魔法反応を感知したから 来てみりゃーこいつは大漁だな 牢屋の中に自分達から入ってくるとは おめーら もしかして奴隷になりたいんかぁ?」
男達の下卑た笑い声が薄暗い牢屋の中に響くのであった。
しばらく更新をサボっていてすいませんでした。楽しんで頂ければと思います。よろしくお願いします。




