19話 修行 その3
またやってしまった。
翼は後悔していた。自分の愚かさが嫌になる。どこかも分からない場所に何を考えているかも分からない人間と二人きりになるという選択をするとは馬鹿すぎる。あまりにも迂闊だった。でももう後悔しても遅い。
落ちけボク・・・
翼は大きく息を吸い込む。アルナの「ルネ導師は翼のことをライバル視しているのかも」という言葉がボクの頭の中でこだましていた。
きっとこの場所でボクはルネ導師と戦うことになるのだろう。でもまあ大丈夫だ。ボクには魔法が効かないからね。
・・・いや本当に大丈夫なのか?
ルネ導師はボクには魔法が効かないことを知っているはずだ。それをわかっていて戦いを挑んでくるわけだから何かしらの対策をしているのかもしれない。
殺されるということはまずないだろうけど注意しなくちゃ・・・いや殺されないと言い切れるのか?
ボクは王様を殺している訳で、もしかしたら深い怨みを持たれているのかもしれない。それに以前に戦った時はあんなにも好戦的だったじゃないか。昨日話したときは可愛らしいお爺ちゃんという感じだったのでついつい油断してしまったけど、ルネ導師の本質はどこまでも魔法を鍛えようとする求道者なんじゃないかな。そんな気がする。
「なに突っ立っておる 私についてくるのじゃ 老人のわがままをちと 聞いてもらうよ」
ボクは美しい湖の周りをルネ導師に連れられて一緒に歩く。だけど行けども行けどもなかなか決闘の場所につかない。
もしかしたらただのボクの勘違いで本当に散歩をしているだけなんじゃないの?そんな考えが翼の頭をよぎる。
いや自分に都合のいいように物事を考えちゃダメだ。人はどうしても現実をみないようにするもの。物事を直視するのを避けて自分の見たいものを見ようとする。だけどボクは違う。ボクは現実から逃げたりはしないぞ!
翼はヒドく緊張していた。いつ戦いになるかビクビクしていた。いやこんなんじゃダメだ。気合いだ。気合いを入れろ。そしてこの危機から無事に生きて帰るんだ!
そう自分に言い聞かせながらボクは一時間くらいかけて湖を一周した。そしてそのまま王宮の庭園までルネ導師に送り届けられた。
「じゃあ 明日も 同じ時間に来るのじゃよ 絶対だからの」
「え あ はい これで終わりですか?」
「おー! もっと散歩したかったのかい では明日はもう少し長いコースにしようかの♪」
「いや 別に そういうわけでは・・・」
ルネ導師が上機嫌で去って行くその後ろ姿をみてボクは体から力が抜けてしまって、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。
「あぁ 疲れた」
しかし散歩を続けることがのちにボクの運命を変えることになるとはこの時は知る由もなかったのである。たぶん。




