17話 修行 その1
魔法はルネ導師というお爺ちゃんに教えてもらうことにした。ルネ導師は神聖ミライリアの宮廷魔法使いの中で一番に偉い人らしい。僕よりちっちゃくて地べたに引きづるほどに長い白ヒゲを蓄えている。可愛らしいお爺ちゃんに見えるが以前にボクが皇帝グラムと戦った時に誰よりも早くノリノリでボクを殺そうとした人だ。
「魔法の使い方を教えてもらえませんか?」
「白き魔女様は老人をからかいなさるのかな お主はワシより凄い魔法を使っておったよね むしろ ワシがお主に魔法を教えてもらいたいんだけども」
「いや えっと ボクが魔法を使えるようになったのはあの日の前日なんです まだ覚えたばかりなんで いまいち魔法というものがどういうものなのか分かってなくて」
「なぬ 魔法を使えるようになって1日であんな恐ろし魔法を使っておったのか ワシ 自信がなくなってきたわ もうなんか死にたくなってきたの」
「なに言ってるんですか? 戦った時に年齢を140歳って言ってましたよね そのくらいで死にたくなるんだったらそんなに長生きしてないはずです 真面目に答えてもらっていいですか?」
「おお 白き魔女様は怖いのぅ 老人にはもっと優しく接しなくちゃいかんよ」
なんかこのお爺ちゃんはかなり面倒くさい人かもしれない。
「それで魔法とはなんなのですか? ボクがもっと強力な魔法を使うためにはどうすればいいんでしょう?それと今使えない魔法って覚えることはできますか?回復魔法を使ってみたいんですけど」
「え?なんだって ワシは耳が遠くての もっと大きな声でハッキリと言ってくれんかのぅ」
注文が多いなぁ。まあ140歳なら仕方ないか。ボクのお爺ちゃんは80歳で耳が遠くなっていたもんな。
「ま ほ う と は な ん な ん で す か ?」
ボクは声を張って聞きやすく発音することを意識してゆっくりと喋ってみた。
「はっはっはっ!引っかかった 引っかかった!聞こえておるわい ワシはそんな年寄りじゃないぞ」
このクソ爺ッ!殺してやろうか。翼はイラッとする。
「そんでなんじゃったっけ 魔法とはなにかだっけか そんなことはな ワシはわからんよ 魔法の定義など存在せん」
おいおい。引っ張っるだけ引っ張ってわかんないのかい!もう話すのやめて帰ろうかな。このお爺ちゃんと話しをしていても時間の無駄な気がしてきた。
「そうですか わかりました 今日はありがとうございました それでは・・・」
「まてまて 慌てるない まだ話の途中じゃい」
ルネ導師はそそくさと帰ろうとする翼を引き止める。
「ただ言えるのは魔法は想像したものを具現化する力ということじゃ むろんなんでもかんでも具現化できる訳ではないし 人によって具現化が出来るものは千差万別じゃ」
「強力な魔法を使いたいなら想像力を鍛えるのじゃな その魔法を使っている己の姿を具体的に そして詳細にイメージするのじゃ その精度が高ければ高いほど魔法は強力になる」
「もちろん魔力の量には個人差がある お主の魔力の量は莫大なものじゃ それはきっと神から与えられたものであろう しかし上手くイメージすることが出来なければ つまりはその者の精神力が弱ければ 強力な魔法を使うことはできん」
やっぱり思った通りで魔法をうまくイメージすることが重要になってくるということか。
「あとは具現化したいものを実際に見てみるのもよい 火の魔法を使いたいなら 実際に火を目で見て 手で触って 匂いを嗅ぐ そういったことも大切だの」
「それと回復魔法を使いたということだか 回復魔法を使えるか試して見たことはあるのかね?」
「試したことはあります でも何も起きませんでした」
「なるほどの お主には回復系の魔法の才能はないのじゃろう ただ才能がなく今使えなくても 使えるようになる可能性はある」
「繰り返し繰り返しイメージをして練習してみることじゃな まぁ それでもダメな時はダメじゃがの」
「とにかく魔法は使えば使うほど上達するし魔力の量も増えていく 毎日練習するんじゃ もちろん 週に一回くらいは休息日を摂るのも必要じゃぞ」
「あと生活もおろそかにしてはならん 毎日3食ちゃんと摂る 夜ふかしはしちゃいかん お肌にもよくないからの」
「健康第一 身体が資本じゃ ワシも健康のために毎朝 散歩をしておる もし良ければお主も一緒にどう?」
このお爺ちゃんはなんの話をしているのだろうか。散歩しても強くはなれないよね。
「具体的に回復魔法のやり方を教えてもらうことはできないんですか?」
「ワシ 人に魔法を教えたことはないのよ それにやり方は人それぞれじゃ アドバイスくらいはできてもそれを自分のモノにするかは本人次第 努力して己の限界を超えていくことでしか道は開かん」
「で どうじゃ ワシと散歩せんか?」
ずいぶんとこのお爺ちゃんはボクを散歩に誘おうとする。もしかして話す相手が欲しいのかもしれない。そう言えばウチのお爺ちゃんもボクが遊びに行くと嬉しそうにずっと一方的に話をしていたっけ。
独居老人だから寂しいのよ。悪いけど話を聞いてあげて。
と母親から言われてたな。もしかしたらルネ導師もそんな感じで寂しくて話し相手が欲しいのかもしれない。そういえばボクのお爺ちゃんに少しだけ雰囲気が似ているかも。ちょっと親近感が湧いてきてしまった。
「わかりました いいですよ 散歩」
「おー いいのか それは嬉しいのぅ」
ルネ導師は目を細め喜ぶのであった。結局たいした話を聞けるわけでもなく、ただ朝に老人と一緒に散歩をすることになっただけだった。ボクは厳しい修行をやりたいんだけどな。どうしてこうなった。




