14話 人は平等なんかじゃないから
「何が自由で平等な社会だ そんなものはまやかしだ」
帰りの馬車の中でボクは自分が言った言葉に心の中でツッコミを入れていた。だってそうでしょう?日本に自由や平等ってあったっけ?
人は平等じゃない。金持ちの家庭で生まれるか貧乏人の家庭で生まれるかで全然違う。育児放棄されて虐待受けて死んじゃう子だっているんだ。そんなのは本人になんの罪もないだろう。
完全な自由なんてない。自由というならボクはボクをいじめた人達を殺してやりたかった。だけど当然そんなことをしたら警察に捕まってしまう。
ボクは前にいた世界ではいじめを受けていた。この異世界では奴隷にさせられた。いつもボクは社会の底辺だ。カーストの最下層だ。騙されて蹴落とされていろいろなものを奪われてきた。
だからこそ言える。どんな世界にも自由や平等なんていうものは存在しない。それがあたかもある様に見せかけているだけなのだ。
学校の歴史の授業で習ったよ。戦前の日本には自由や平等がなかった。アメリカが自由と平等を与えてくれて日本は民主主義国家として生まれ変わったってね。
でも家に引きこもってネットサーフィンをして知ったけど戦前から日本には民主主義はあったらしい。選挙だっておこなっていた。そして人種差別の撤廃を世界で最初に提案したのは日本でそれをアメリカは握り潰したというんだ。
アメリカ人は勝手にイギリスからやってきて先住民のインディアンの人を殺して土地を奪って国を作った。そしてハワイにいた先住民も殺してそこも自分達の領土にした。それでも足りずに日本に攻めてきた。
そういう話であって決してアメリカが正義で日本が悪といわけじゃない。いやむしろアメリカが悪だ。
学校ではアメリカの作った嘘の話を教えていたわけだよ。ボクは戦前の日本人は軍部に騙されてアジアの人達に迷惑をかけて悪いことをしたって聞いて騙されるなんて当時の日本人は馬鹿だな。ボクは騙されない。そしてアメリカには逆らわない。そう思ったね。
なんということはない。そういう風にアメリカ人に騙されていたんだ。結局さぁ世界は支配するものと支配されるものに別れるんだ。
でもそれだと不満がでるでしょう。人は誰でも誰かに支配されたくはない。社会が平等じゃなければ文句を言う。だから支配者は支配されていることに気づかれないようにする。そこで使われるのが自由と平等という言葉だ。人はみんな平等だと言うんだ。私たち達はあなた達と同じ人間だ。差はないよ。そう信じ込ませるわけだ。そして格差が生まれたらこう言うのさ。
「努力が足らない 本人が悪いんだ 自己責任だ」
努力したってどうにもならないことがある。ボクの父親は本屋さんをやっていたけど潰れてしまった。同じ商店街にあったCD屋さんやおもちゃ屋さんあと服屋さんも潰れた。Amazonのような大企業にはかなわないって父さんは暗い顔をして話していたよ。自由に競走すれば大きなところが一人勝ちする。小さいところはお客さんを奪われて潰される。全然平等じゃない。結局は自分に有利なルールを押し付けてるだけなんだ。
金持ちはもっと金持ちになって格差はどんどん広がっていくのさ。でも世の中そんなもんだ。世界はやっぱり弱肉強食なんだ。自由と平等というのは自分達の支配を正当化するための建前に過ぎないんだよ。
そういうことがわかっている人間が学校でも社会でも上のカーストに入ってわかってない人は下のカーストに落っこちて食い物にされるのさ。
「人は神のもとで平等」
そうボクは言った。だけどボクは人じゃなくて神の使徒だ。いや実際にはそんなことはないけどみんなから神の使徒だと思われてる。つまりはボクはみんなより上の存在になることができるのではないか?
ボクは前の世界ではカーストの一番下にいたけどこの世界ではうまく立ち回れば一番上に立てるかもしれない・・・
それは悪いこと?人を騙して人の上に立つのはいけないこと?人は平等?
ボクはずっと人は平等だと思っていた。だから人の上に立ったり人を騙したりするのはいけないことだとどうしても考えてしまう。でもそんなんだから前の世界でもこの世界でも騙されていじめられて奴隷にされてカーストの一番下に落とされたんじゃないかッ!
「奪われるなら奪ってしまえ」
そんな声が聞こえてきた。お前は結局騙されていたんだよ。支配する人間に都合のいいように洗脳されていたんだ。ここまで考えてボクは自分が高揚しているのを感じた。ガジャさんの言っていたこともアリかもしれないと思えてきた。
「今度はボクが奪う側に立つ ボクがこの世界の神になるんだ」
翼は一人で冷たい笑みを浮かべていた。




