02話 人を操る秘法
聖法教会の教皇であるヨハン17世は翼の身元を洗っていた。あの小娘の言っていた事がどこまでが本当でそしてどこまでが嘘なのかを調べてなければならい。それをもとに翼を白き魔女としてプロデュースするのだ。
なんせ翼はこの神聖ミライリアの皇帝と皇太子を殺しているのだ。なんとかあの場は収めたもの不満を持つものは多数いるだろう。きっとカーリー将軍辺りは私の企みをつまりは翼を白き魔女と祭り上げてこの神聖ミライリアを牛耳るという計画に気づいているはずだ。軍の最高責任者と皇族が手を結んだらこちらの不利は明白だ。アイツらを早めに殺して内戦が起こるのを防がなければならない。
翼の服と杖を宮廷魔道士に鑑定させたところ人の手で造られたものではなさそうだと言われた。神の創りし武具ではないだろかという話だった。神聖ミライリアの宝物庫には白き魔女が使っていたとされる杖や服が残っている。それらはこの世界には存在しない物質で出来ており翼のものもそれと類する物質で作られていたというのだ。
また翼を奴隷として売ったという人物は国家をまたいで活動している大規模な人身売買組織の一員だったことが判明した。彼らは自分達が異世界からやって来たと周囲に語っているという。さらに地下の闇のオークションに出展した時にも翼を異世界の人間であると紹介していたようだ。
「一応 話の筋は通っている」
そもそもこの世界では異世界から来たという人間はかなり珍しくはあるがいることはいるのである。異世界から来た彼らが神の使徒であり救世主なのではないかという話は今までも語られてはいた。だがそれを証明できる者はいなかった。それに異世界から来たという者たちはみなたいした力を持ってはおらず救世主として扱われることはなかったのである。しかし翼は桁外れの力を持っていた。これは最初の白き魔女以降初めてのことのはずである。
あの小娘は自ら進んで奴隷になったと言っていたが誰が好きこのんで奴隷になるものか。翼は王宮に来てから力を覚醒させたとみて間違えないだろう。あの力は圧倒的でありまさに神の使徒といってよいものだった。
白き魔女と同じ神の武具を持っていたことからみても異世界の人間は神の使徒である可能性は高くなってきたな。しかし多くのものは力なきものでありごく稀に強大な力を持つものが現れるということなのだろうか。
今のところ翼は私に対して敵対心をもってはいないようだが信頼はしていないようだった。そして国を治めるのは全て私に任せると言っていた。つまり地位や権力に全く興味がないということだ。こういう手合いはやっかいだ。
あの小娘は奴隷は間違っていると思うと言っていた。子どもだな。しかし強大な力を持っている子どもほどヤバいものはない。その振る舞いは危険極まりない。城から逃げる事ができたのにわざわざ自らの命も顧みずに空を飛び戻ってきて王宮を半壊させ王を殺した。いや殺したなど生易しいものでは無い。消滅させた。文字通り王は塵一つ残さず消え失せたのだ。背すじがゾッとする。
地位も名誉もいらない自分の命すらどうでもいい。ただ自分の思ったことをやる。翼はヨハンの思い通りに動くようなタイプではない。
考えていることもよくわからない。だかきっと無理やり動かそうとすれば容赦なくヨハンを殺すだろう。王の二の舞いにはなりたくない。であるならば早めに対処をしなければならないな。
異世界の人間が本当に神の使徒だとして何もかもが思い通りになるわけではないはずである。そして神の加護のようなものもないはずだ。なぜなら今まで多くの異世界の人間がこの世界で何をするわけでもなく命を落としてきたはずだからだ。神の加護があるならば翼は奴隷になどなっていなかったであろう。それにそもそも私があの場で救っていなければ死んでいたはずだ。
白き魔女の伝説はかなり脚色されており全てが事実ではないだろう。神は使徒を異世界から呼び出すが力のない者は死に力のある者は英雄となる。そういうことなのだろ。つまりもし本当に神がいたとしても私があの小娘をどう扱おうが神罰などは起こらないということだ。
聖法教会には人を意のままに操る秘法がある。早い段階で儀式をおこないあの小娘に術をかけ私の意のままに操れるようにしてやろう。
ヨハンはそう考えるのであった。
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