21話 神と教皇と皇帝と
「あの腹黒の狸め クーデターを起こしやがった!」
カーリー将軍は教皇ヨハン17世に憤慨していた。
──皇帝と教皇の関係は複雑だ。国という枠組みで考えればもちろん教皇は皇帝の部下という立場になる。だか宗教という枠組みだとその立場は逆転する。
神聖ミライリアの皇帝は神によって選ばれたということになっている。もちろん実際にはそんな事実はない。国民を従わせる為の嘘だ。とはいえ皇帝がたった一人で自分は神によって選ばれたと言っても説得力がないだろう。
そこで出てくるのが宗教である。聖法教は神聖ミライリアがあるアルメシヤ大陸で最もポピュラーな宗教の一つだ。聖法教会で一番偉い教皇が神の代弁者として皇帝が神によって選ばれたと伝えることで皇帝の地位は保証されるのである。もちろんこれも嘘ではあるが多くの者が教皇の言葉を信じていた。
白き魔女・・・それは1000年前にこの地に神聖ミライリアを創ったと言われる人物である。白き衣を纏い五芒星のペンダントを胸にしていたという彼女は神によって遣わされた使徒であり世界を平和に導いたとされている。
聖法教会の教義は白き魔女の信仰である。その教典には世の中が乱れて世界が滅亡の危機に瀕した時に白き魔女は再び救世主としてこの世界に現れると記されている。
聖法教会最高司祭ヨハン17世は聖職者の身でありながら全く神を信じない男であった。ヨハンにあるのは権威と権力に対する異常なまでの執着のみであった。聖法教会で最も権威のある教皇という座についたヨハンが次に狙うのは権力の座すなわち皇帝の座であった。
その為に一芝居を打って皇族を断罪してどこの馬の骨ともわからない翼を白き魔女だと勝手に祭りあげたのだった。
皇族の血を継いでいなければ皇帝にはなれないと思っていたがこれで皇帝を根絶やしにして新たな皇族をつくることができる・・・ヨハンは素知らぬ顔でいたが、胸のうちでは笑いが止まらなかった。
『この私が皇帝になるのだ。そして私の血を継ぐものが次の皇帝になるのだ はっはっはっはっ・・・!』
あの小娘は教会が配布している五芒星のペンダントをしていた。きっと聖法教会の信者に違いない。であるならば私の都合のいいように操るのは容易いことだ。
『あの小娘を傀儡にして私は必ず皇帝になる 私の忠実な人形に仕立ててやろう 私の子を孕ましてやるのもよい』
そうしてヨハンは自分が皇帝になるための道筋をあれこれと考えるのであった。
明日も更新の予定です。出来れば22時頃に更新したいと思っています。




