14話 殺戮の銅鑼が鳴る
あの神父が死んでいる。
「ボクのせいだ」
本気でボクを助けようとして教会を燃やすのを止めようとして殺されたのだろう。
「ボクが助けを求めなければ・・・死ななかった」
目の前の急に景色がぐらんぐらんと歪んで倒れそうになる。ボクはさんざんは理不尽な目にあってきた。それは頭がおかしくなるほどの怒りをともなう屈辱的な記憶だ。
ボクを理不尽な目にあわすヤツは死ねばいいと思っていた。だがボクはなにも悪くない人を・・・善意でボクを助けようとした人を理不尽な目に合わせてしまった。ボクはアイツらと同じになってしまった。
「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁッ・・・!!!」
翼は叫び声をあげる。
「なぜだッ なぜ・・・神父様を殺したッ・・・!まったく・・・まったく関係ないじゃないか・・・!?」
無言でミライリア軍は攻撃を開始する。弓矢が雨のように降り注ぐ。
ボクは『暴風撃』でミライリア軍を薙ぎ払う!
兵士も周辺の家屋も一帯のものが全て破壊されて宙を舞う。その場が阿鼻叫喚に包まれた。
「助けてくれ!」
「悪魔めッ」
「死にたくない・・・」
多くの呪祖がボクを襲っただろう。だけど知るかそんなものはッ!
・・・しかしなんでボクは昨日初めて会った人間しかも別に信頼もしていなかった人を殺されただけでブチ切れて大勢の人間を殺してるのだろうか?
「人の命は平等だ 神父一人に対して数多くの人間を殺すなんてお前だって理不尽じゃないか?」
そんな声が聞こえた。
たしかに神から見れば人の命は平等かもしれない。でもボクからしたらボクの命が一番大切だ。その次にボクを助けてくれた人の命だ。ボクを殺そうとするヤツらの命の価値はほぼない。当然だろ!
ボクは正義の味方ではない。世の中は平等じゃない。普遍的な正義はない。一人一人の正義があるだけだ。
ボクは自分が正しいと思ったことをやる。みんな好きにやりゃあいいさ。そしてただ弱いヤツと運がないヤツが殺されるだけだ。それが嫌なら自分が強くなるしかないし強くなっても運が悪ければ死ぬだろう。やるだけやってあとは運を天に任すしかない。それだけの話だ・・・
ふと見ると神父様の遺体も空に舞っていた。翼は慌てて魔法で引き寄せる。
神父の体は光を帯びゆっくりと翼のもとへ近づく。ボクは神父様を静かに地面に着地させる。
「生きている!? 」
翼は必死で神父に声をかける。
「し・・・白き魔女様・・・!?」
「?」
「いや・・・見まちがえたようだ・・・」
「君には・・・謝っても謝りきれない・・・ことを・・・してしまった」
神父様はボクの手を取ろうとする。
「許して・・・許して・・・欲しい・・・うッ・・・」
「謝らないで下さい!謝るのはボクの方だ」
翼は必死で神父の傷が癒える事を祈った。しかしなにも起こらなかった。
「・・・これを・・・君に・・・あげよう」
そう言って神父様は自分のペンダントをとって翼に渡そうとする。
「君に・・・神の祝福・・・を・・・」
そう言って神父様は息絶えた。
「神父様ッ 神父様ッ 神父様ッ・・・!」
翼の目から一筋の涙が流れていた。
「神なんて 一体なにをしてくれるというんだ なにもしてくれなかったから死んだんだよ」
「馬鹿だな 神父様・・・」
でもボクのことを確かに想ってくれていた。翼は神父の手に握られていたペンダントをとって自分の首につける。
「!?」
数本の矢が翼を襲う。ボクは間一髪『暴風壁』を発動する。
「油断も隙もない」
翼にまた強い怒りが走る。見ると増援がどんどん集まっている。全員の相手をするのは無駄だな。
「空を飛べないか?」
ボクはものを引き寄せる魔法を自分自身にかけてみた。身体が宙に浮く。
成功だ!
翼は攻撃を避けるために上昇した。力の加減が分からず一気に雲を突き抜ける。空を飛ぶのが夢だったが実際に空を飛ぶなんて本当に夢みたいな気分だな。
「よし 王宮に急襲をかけてやるッ」
翼は目にも止まらぬ速さで落下をはじめた。




