13話 決意の昼に
身体を誰かに揺さぶられた。
「もうお昼だよ」
神父様が食事を持って来てくれたようだ。
「よく眠れたかい?」
「はい」
「私は君に謝らなければならない」
「はい?」
「実は君がここに居ることを修道女が話してしまったらしい」
「はい・・・」
「この教会は今 ミライリア軍の兵士に囲まれている」
「はあ」
「私は君の命まではとらないで欲しいと彼らと交渉した」
「はあ・・・」
「だから ここは投降してもらえないだろうか?」
「はあ?」
「君みたいな子どもが処刑されるなんて絶対に間違ってるッ!」
「ああ」
「私を信用してくれ 必ず君の命は助ける 時間をあげるから よく考えてみて欲しい」
「ああ・・・」
そう言って神父は出ていった。
「・・・」
突っ込みどころがありすぎるがとりあえず朝ごはんを食べよう。もう時間的にはお昼っぽいけど。
「豆か・・・」
出されたのはトマトベースの豆のスープに硬いパンだった。ボクは豆が苦手だ。あんまり味がしないのに独特ないやな匂いがするし噛んだときの感触も好きではなかった。
「腹が減っては戦が出来ぬと」
ボクはスプーンで豆のスープを口に運ぶ。
「美味しい・・・!?」
豆ってこんなに美味しいものだったのかトマト味のスープによくあっている。優しい味だ。身体にすぅーと染み渡ってくる。硬いパンをスープに付けて食べるとパンもどんどん進んでしまってあっという間にたべ終わってしまった。
「さーて どーしよーかな?」
まず投降はない。逃げるという選択肢はあるだろうか?だが逃げると言ってもボクは一体どこに逃げればいいの?ボクはこの国の王子様を殺している。兵隊さんもたくさん殺した。
神聖ミライリアはボクを殺すまで追い続けるだろう。ボクは死にたくない。でも向こうは絶対に引かない。これはそういう戦いだ。死にたくなければどうすればいい?
導きだされる答えはひとつしかない。
「殺られる前に殺れ!神聖ミライリアを滅ぼせ!」
無謀だって?無謀なのは分かっているさ。失敗すればボクは殺されるだろう。だけど逃げても殺される。ボクを殺すまでヤツらは追いかけてくる。それならボクは逃げずに戦う。戦って死ぬ方を選ぶ。僅かな可能性にかけてやるッ・・・!!!
「まずは手始めに王様を殺そう」
ボクが王宮でミライリア軍と戦った感触だと正面切って戦えば兵士がどれだけいようともボクは負けない。
昨晩は油断して後ろから射られてしまい致命傷を負ってしまった。反省して二度と相手に背中を見せたりしないようにしよう。そこは注意しなければならない。
あとは魔力が尽きてしまわないように気をつけよう。
翼は体を動かしてみる。昨日より調子がよさそうだ。魔力の量が増えている気がする。もしかしたら死にかけると魔力があがるのかもしれない。漠然と思ったことではあったがボクには根拠のない確信があった。
実は翼は何度も何度も死線をくぐることで無意識の内にレベルが上がっていた。そもそも転生した際に神様からギフトと呼ばれる特別な力と膨大な魔力を授けられていた。だが自分に自信が持てず引っ込み思案な翼はみうに魔法をつかえないと騙されて自分は魔法をつかえないと思い込んでしまっていたのだ。
しかし・・・その大いなる力は目覚めつつあった。
「なんか焦げ臭いな 教会が燃えている!?」
結局あの神父はミライリア軍の為に時間稼ぎをしていたということか・・・
「また裏切られた」
もういいや。全部がどうでもいい。だけど報いは必ず受けさせてあげるよッ!
翼を手をかざし魔法を使う。
『暴風撃』
教会の壁が吹き飛ぶ。翼の頭上で天井が崩れ落ちる。
『風防壁』
燃え盛る瓦礫が宙に浮く。
ボクは自分で空けた風穴を通り外にでた。ミライリア軍によって完全に包囲されている・・・見渡すと人が倒れている・・・
「!?」
そこにはあの初老の神父の死体があった。




